三十二話『何本目』

屋敷に戻って来た。"出発する"とアルフさん。トイロンさんから"もしよろしければ昼食を召し上がっていきませんか?"とのお誘い。お言葉に甘えさせてもらう二人。


"食べたいです!"返事と同時にキッチンからぬっと顔を出すシゼル。嬉しそうな表情。


「…かしこまりました!アルフさまが紅茶ですね、テイトさんは何を飲まれますか?」


「あっ、さっき町でヒツジのミルクとヤギのミルクを貰ったので結構で〜す」

ご飯が出てくる前だけれど、ミルクを飲み比べてみます。フライング飲み!準備準備。


ゴソゴソとカバンから二つのビンを取り出す。ビンのフタにモコモコの動物。こっちがヒツジのミルク。もう一本はツノの生えた動物。こっちはヤギのミルク。可愛いパッケージ。


ではヒツジのミルクから。ゴクゴク。…うん!まったり甘くて美味しいねぇ!続いてヤギのミルク。…へぇ!こっちはさっぱりしてる!どちらも美味しいじゃないの!


二人にも飲んでみたいか聞いてみたけれど要らないとの事でした。ヒツジさん!ヤギさん!美味しいミルクをありがとうねぇ!


ヒツジをはじめて触らせて貰った話を二人にしていると、昼食の用意が整った。

「はーい、お待たせしましたー!」


本日のメニュー。ヒツジのミルクを使ったシチュー。ヒツジのミルクで作ったチーズをドレッシングにしたサラダ。ヒツジ肉の生ハムを挟んだサンドイッチ。チーズからお肉までヒツジのフルコース!食欲をそそる良い香り!


いただきます!もぐもぐ。むしゃむしゃ。ゴクゴク…どの料理も美味しいよう!スープを二回もおかわりしちゃった!


「ごちそうさま!」

「シゼルさん!どの料理もとってもおいしかったですぅ!」


「あら、本当ですかー?気に入ってもらえたみたいで良かったです!」


昼食後、トイロンさんに昨日言っていた"アルフさんと親父の若い頃の話"について聞いてみたが、またしてもアルフさんにさえぎられた。そこまで隠す理由とは一体?ナゾだ…。


食後の休憩も済んだので出発する事になった。玄関まで付いてきてくれる二人。

「アルフさま、テイト殿どうぞご無事で」

「次にネグナにいらっしゃる時は、テイト殿の妹君にもお会いできる事を願っています」


「はい!ありがとうございますぅ」


「テイトさんまたいらして下さいね!」

「紅茶とお菓子を準備しておきますので!」


「はい!また来ます!」


お屋敷を出た。手を振っている二人。振り返す。結局曲がり角で姿が見えなくなるまで振り続けてくれていた。トイロンさん、シゼルさんお世話になりました!


一泊泊めてもらったし、ご飯もごちそうになった。物思いにふけりながら町の出口を目指す。ソフトクリーム屋さんの奥さんは約束通り住人に事件の詳細説明をしてくれたようで、その道中にも"ありがとう"と感謝された。


「ボウズ!ありがとうな!」


「いえいえ」


「ありがとうね、お兄さん!」


「そんなそんな」

…やっぱり面と向かって感謝されると照れ臭いな。あと、聞いていると僕がスライムを"火属性魔法"を使って倒した事になっちゃってる。…まぁ、いいや説明面倒臭いし。


照れるテイトと特に何も変化の無いアルフはテクテクと町の出口を目指す。


着いた。守衛のエルさんコチラに気付く。

「あれ?お二人もう出発ですか?」


「あぁ」


「テイトさん!自分も妹さんの救出、応援してるんで頑張って下さい!」


「はい!ありがとうございます!」


「ご武運を!」

町の外に出ると、酪農家のおじさんが早速スライムの居なくなった草原にヒツジ達を放っていた。メェーメェーと鳴き声が聞こえる。


町でありがとうと言われ続けたせいなのか、どこと無くヒツジ達にも感謝されている様な気持ちになってしまった。こちらこそですよ!美味しかったよ〜!ミルクもお肉も!


青い空!白いヒツジ!緑の草原!テイトは気分晴れやか次の目的地を目指し歩き出した。


その頃魔界にて一つの通達があった。発信者は魔王の側近。


『一つ。先の通達通り、竜の子テイト・ノガールドを魔王様の前に連れて来た者に幹部の座を与える。それとは別でその者が望むものを何でも与える事に決定した。』


『一つ。この通達を魔界だけで無く、他の世界にも発信する。魔人だけでは無く他の種族の者もテイト・ノガールドの捕獲に参加する事が予想される。」


『一つ。今後テイト・ノガールドをめぐって参加者同士の衝突が考えられるため、戦闘に赴く者の選別と時期をこちらで判断する事にした。勝手な行動は控えるように。』


『一つ。参加者のエントリー方法は…』


こんな通達があった事も知らないテイト。町で新しく貰ったヒツジのミルクをゴクゴク。


「ぷはぁ〜!我ながらスゴい飲むじゃん!」

「ねぇ何本目?これ何本目?ねぇ?」

「ねぇアルフさん?ねぇ?」


「知らねぇよ!千切るぞ!」


テクテクと歩いていると、町が見えてきた。潮の匂い!海が近そうだぞ!次の町ではどんな人と会えるかな?ちょっと楽しみかも。

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