三十一話『紛らわしい』

「おーい!アルフさまのお仲間さーん!」

トイロンさんのお屋敷を出て通りに向かうと早速、ソフトクリーム屋さんのおじさんに呼び止められた。


「草原でヒツジ達が居なくなる件、どうなったんだい?原因は分かったかね?」


「ふふふ、実はですねぇ…」

犯人はスライムだった事。地面の下に洞窟があった事。アルフさんがスズさんを召喚して燃やした事。もう大丈夫だろうと話した。


「さっき上がった火柱はそれだったんだな、ここからでもはっきり見えたぞ!」

「アルフさまはやはりスゴいお方だ!」

「あんちゃんもご苦労だったな!」


申し訳ない感じで答える。

「いや、僕は別に…寝てただけですから」


「何言ってんだよ、あんちゃんが居なけりゃスライム達に気付けなかったじゃねえか」

「よし!ちょっと待ってな!」


おじさんが店内へ。しばらくして帰ってきた。奥さんらしき女性を連れている。


「ダンナから聞いたわよ!事件を解決してくれたんだって?ありがとね!これお礼!」


手に持っていたのはヒツジのミルク。

「いやいや頂けませんよぉ!」


「いいからいいから!貰っときなって!」


「そうよ!」

「こう言う時は黙って貰っとけば良いの!」


草原で二本も飲んだし遠慮じゃ無いんだけどなぁ…。う〜んどうしよう。断りづらいな。まぁ、後で飲めば良いかしら。…そうだね。


「それじゃ頂きます」

満足そうな二人。"そう言えば"とおじさん。


「あんちゃん、ヒツジは見た事あるかい?」


「いや無いです」


「そうかい…だったらちょっと来てみな!」

住人への詳細説明は奥さんが代わりに行ってくれるとの事で、おじさんについて行く。


ソフトクリーム屋さんのおじさんが別のおじさんの所へ案内してくれた。おじさんと話するおじさん。二体目のおじさんにも"ありがとう!"と感謝されどこかに案内される。


着いたのは大きな建物。動物の声がする!草原で放牧しているヒツジ達をいくつかの建物に分けて一時避難しているらしい。全頭じゃ無いらしいけれどスゴい数だ!


ヒツジと聞いて勝手にモフモフの体毛を想像してたけれど、すでに毛を刈り取られてるじゃん!素人目にはヒツジなのかヤギなのか分からないよ!…でもとりあえず触らしてもらおう。わぁ大人しい。なでなで。


「…」

「うん!確かに可愛いもんですねぇ!」

体温を感じる。あったかくて、何だろう…生きてるって感じが伝わってくるような?毛は無いけれど可愛いよ!毛は無いけれど!


「あんちゃん…そいつはヤギだ」

ヤギだったわ。紛らわしい。けど可愛いよ!


その後ヒツジもなでなでさせて貰った。面構えが全然違う…。おじさんから今回のお礼としてヒツジのミルクをあげると言われたので、さっき貰ったヒツジのミルクを見せた。


だったらと言う事でヤギのミルクを貰った。…後で飲み比べしちゃお。楽しみ。


「アルフさまとあんちゃんのおかげでよ、コイツらもまた広い草原に戻れるよ」

「本当ありがとよ!あんちゃん!」


…人から"ありがとう"って感謝されるの、何となく恥ずかしいようなむずがゆいような気持ちになる。親父もこんな気持ちだったのかなぁ。でも…嫌な気はしないかも。


じゃあトイロンさんのお屋敷に戻ろうかな。おじさんにお礼を言って建物を後にした。


テイトが屋敷を出てからのアルフとトイロン。二人の会話。


「それでアルフさま、お話とは?」


「今回の紫色のスライムだが…」

「"使役の呪文"を受けて操られていた」


「!」


「まだ新しい呪文だった」

「"アイツ"がこの辺まで来てるかも知れねえ」


メガネをクイッと上に持ち上げる。

「そうですか…」


「トイロン…気を付けろよ」


「はい、ご教示痛み入ります」


シゼルが用意してくれたクッキーを食べる。紅茶も飲む。"はぁ"と一息。気を取り直す。

「…それともう一つ」


「はい、何でしょうか?」


「フォスに会いに行きたい」


「えっ!」

「それはまたどうしてでしょうか?」


「まあちょっとな」


多くを語らないアルフ。詳しくは詮索しないトイロン。再びメガネを上に持ち上げる。


「…承知しました、では港町ティリフの領主"カロッサ"に船を用意して頂けるように依頼の連絡を入れておくように致します」


「あぁ、ありがとなトイロン」


「何をおっしゃいますかアルフさま」

「"あの日"この命を救って頂いた事、今でも忘れませんし、今でも感謝しております」

「あなたさまにはこの様なことでは返しきれない恩義がありますので、どうぞお気遣いなさらぬように」


「そうか…じゃあ礼は言わねぇ」


ほほえむトイロン。シゼルを呼ぶ。

「シゼル、電話を持って来て頂けますか?」


「はーい、直ぐにご用意しまーす」

早速トイロンはカロッサに電話をかける。クッキーを食べながらその様子をながめているアルフ。カロッサから承諾を貰えたようだ。


「良かったです『アルフさまからのお願いだ』と言ったら、二つ返事で船を用意してくれるとの事で安心しました」


「おう」

ちょうどその時ノックが鳴った。外から声。


「おぉ〜い!アルフさ〜ん!トイロンさ〜ん!シゼルさ〜ん!ただいまぁ〜!」


「まったく、さわがしいヤツだな」

"はぁ"と一息。


「今開けまーす」

シゼルがパタパタと玄関へ走る。

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