三十話『教えてミルフ先生』
領主トイロンさんのお屋敷に戻る道中、今回の出来事を整理しながらテクテク歩く。
「スライム達って、僕の事を洞窟に運んでどうするつもりだったんでしょう?」
「やっぱり食べようとしてたのかなぁ?」
「あー多分養分にしようと思ってたんじゃないっすかね」
洞窟の中に"光草"生えてたじゃないっすか?あれの養分」
「んで、育った光草を食べるんすよ」
「光草ってあの光ってた草の事?名前まんまなんだねぇ〜ふふ」
「へへ、そうなんすよ何のひねりもないシンプルな名前なんす」
「あんなに沢山の光草が一ヶ所に生えてるの今まで見た事ないし、普通の光草ってあんなに明るくないんすよ、ヒツジ達を分解して栄養満点の土壌を作ったおかげっすね」
土を耕して光草を育てる。育てた光草を食べる。スライム達は農家さんみたいな事をしていたんだね。
彼らとは仲良くなれたかもしれないな。…なれないか。遠回りして食べられるところだったじゃん!実質的に!美味しく!怖ぁ!
「それとテイトはスライム達にヒツジだと勘違いされたと思うんすよ」
「どういうことぉ?」
「スライムは目が退化してて、音と匂いを頼りに生活しているんすよ」
「ヒツジのミルク二本丸々飲んだじゃないっすか?んで寝てたんで、スライムからしたら『ひさびさにヒツジが居るぞ!しかも寝てやがる!うっへっへ!』的な」
黙って聞いていたアルフ。口をはさむ。
「普通は近くに何がいるのかも分からねぇこんな状況で寝ねぇし、肝がすわってんな」
「へへへ、ぐっすりでした」
「おい!褒めてねぇんだよ!」
照れるテイト。キレるアルフ。笑うミルフ
「あっ!あともう一つ思った事があって」
「僕がスライムで、獲物を見つけたとしたら、その場で食べると思うんですよぉ〜何でわざわざ洞窟の中に運んだのかなぁ〜って」
テイトの疑問に対しミルフ先生のアンサー。
「それも多分スライム達の中で、役割分担があるんじゃないっすかねぇ」
「役割分担?」
「はいっす、洞窟の入り口に擬態するスライム、獲物を見つけて洞窟まで運ぶスライム、洞窟の光草の部屋で獲物を分解するスライムって感じで」
「何でぇ?」
「その方が楽なんじゃないすかね、考える事が一つだけで良いんで」
「ふ〜ん、あっ!それと…」
質問があふれて止まらないテイト。
「どうせ分解するんだったら、初めから光草が生えてる部屋まで運んだ方が楽だと思うんですけどぉ、最初に目が覚めた時は通路だったんです、それも何でなのかなぁ〜って」
「えーっとそれは…何でなんすかね?」
困ったミルフ先生はアルフさんの方を向く。
「…はぁ、ムダな体力を使わねぇためだろ、獲物を暗い通路に放置すりゃ、出口だと勘違いして明るい光草の部屋まで歩いてくる」
たしかに光を頼りに歩いてたな僕…。
「地面の下は酸素が少ないし獲物を歩かせて疲れさせる、最後に光草の部屋に閉じ込めて酸欠で倒れた所を分解すんだろ」
これもたしかに!突然出口が無くなって焦ったし、酸欠で立ちくらみも起こったぞ!こんなにもスライム達の気持ちを手にとるように理解しているとは…。はっ?!
「まさか今回の黒幕って…アルフさん?」
「…バカな事言ってんじゃねぇ、着いたぞ」
あきれた様子のアルフ。笑いをこらえるミルフ。そうこうしている間にネグナの入り口。ミルフは"人の多い所は苦手"との事でネックレスの中に戻った。先生!説明ありがとう!
守衛のエルさんがこちらに気付いた。
「お二人ともご無事で!どうでした?何か分かりましたか?」
今回の出来事をエルさんに説明した。
「えっ!スライムが?!そう言う事だったんですね…紫色のスライム初めて聞きました」
「早速領主さまにご報告お願いしますね!」
今回も手続きを行わず町に入れてもらい、トイロンさんのお屋敷を目指す。町人にも話しかけられるが"詳細は後で説明する、とりあえず解決した"とだけ伝えてお屋敷を目指す。
お屋敷の玄関前。ノックコンコン。しばらく待つ。出てくるシゼル。中に案内される。
「旦那さまー!お二人が帰ってらっしゃいましたよー!」
二階から降りて来たトイロンに今回の説明。
「そうでしたか…スライムが地面の下に」
「たしかにそれならば草食のスライム達がヒツジを襲う事について合点がいきますね」
「分かりました少しお待ち下さい」
席を外したトイロン。しばらくして帰って来たトイロンの両手に二つの麻袋。
「こちら今回の報酬です」
「町を救って頂きありがとうございました」
一つをアルフさんに、もう一つを僕に。手渡された袋の中身を確認すると、今までの人生で見た事のない大量のお金。これを僕に?
(一ヶ月間みっちりバイトしたくらいのお金)
「えっ?トイロンさん!」
「こんなに沢山頂けませんよぉ!」
「僕なんて寝てたらスライムに運ばれて、光草の養分にされそうだっただけですからぁ」
「なぜです?」
「スライム達が今回のヒツジ失踪の犯人だと気付けたのはテイトさんのおかげですよ」
「でも…」
「放牧はこの町の重要な収入源です」
「もし犯人が分からず、放牧が出来なくなっていたら私達は困っていましたし、住人達も怖くて外に出られないままだったでしょう」
メイドのシゼルもニコニコと聞いている。
「テイトさんは事件解決に貢献しましたので、その事に対する感謝の気持ちです」
「受け取って頂けないと私の立場が無くなってしまいます、どうぞ受け取って下さい」
「じゃあ…お言葉に甘えて」
渋々ながら麻袋を受け取る。ほほえむトイロン。どっ、どうしよう?草原で寝てただけなのにお金持ちになっちゃったよう!
「おいガキ」
「町の住人に事件の詳細を説明してこい」
「はっ、はい!」
「アタシはコイツに話がある」
「アルフさまからお話とは…」
「一体何でしょうか?」
アルフさんの指示通り町の通りに向かう。大金を持って移動するのは怖いのでアルフさんに預けました。
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