二十九話『キウビのスズ』
光が収まりそこに立っていたのは、着物に身を包んだ長身で妖艶な雰囲気の女性?複数の尻尾が生えているけど獣人さんかなぁ?
アルフの方を向き、腰をかがめて話しかける。艶やかで色っぽい声。
「アルフはん、久しぶりやねぇ〜」
「全然呼んでくれへんからスズ、寂しかったやんかぁ〜今日はどうしはったん?」
「キウビ、アイツらを燃やして欲しい」
「"スズちゃんって呼んで"って言うてるのに、相変わらずいけずやわぁ〜まぁ、ええけど」
アルフの目線の先をスズが確認する。地上に出たテイト達を目指して壁をズルズルと移動する沢山のスライム達。顔をしかめるスズ。
「なんや見たことないけったいな姿やねぇ〜よろしおすえ、スズに任せてくれなはれ」
スズが指パッチンをすると、人差し指に小さな炎がともった。炎を穴に落とす。ゆっくりと落ちて行く炎。洞窟の地面に炎が触れた。
瞬間。炎が大きく膨らみ、ゴウゴウと音を立て激しく燃え広がる。洞窟内を。通路を。爆炎が一瞬の内に包み込み、燃え尽くした。
中に居たスライムはもちろん、他に数ヶ所ある洞窟への入り口を隠すために、芝生に擬態していたスライム達も高火力で焼かれた。
空いた入り口から火山の噴火のように、次々と大きな火柱が上がる。開いた口が塞がらない。ちょっとキレイだと思っちゃった。
「こんなもんやろか」
スズの言葉を聞きハッと我に帰るテイト。もう終わった?スズが再び指パッチンをする。
さっきまでメラメラと燃えていたはずの炎が一瞬にして消えて無くなった。キツネにつままれたような気持ち。草原を流れる風の音だけが聞こえてくる。開いたままの口。
あっ!そうだ!と思い出し、洞窟内の様子を見る。中にはスライムの姿は無く、プスプスと音を立てる焦げた壁と地面があるのみ。
「さてと、アルフはん終わったでぇ〜」
「おう」
「なんねぇ、その反応は!」
「もっとほめてくれてもええんちがう?」
スズさんがアルフさんにプリプリ怒っている。アルフさん流石の塩対応!…それにしてもスゴかったな。スズさん。
アルフさんに召喚されて直ぐに、僕達があれだけ苦戦していたスライムをあっという間に全滅させて見せたが、何と言うかその、全然本気を出していないように見えた…。
底知れない人物。それにそんな強力な助っ人と契約していて、召喚出来るアルフさんって一体?ナゾは深まるばかりだ。などと考えていると、スズがテイトとミルフの方を向く。
雪のように白い肌。こちらを見透かすような切れ長の目。真っ赤な口紅。頭部にキツネの耳。艶やかで色っぽい声。
「ミルフ、久しぶりやなぁ〜」
「久しぶりっす!スズさん!」
「助かったっす、ありがとうございました!」
「気にせんといてやぁ」
「そっちの兄やんは…初めて見る顔やねぇ」
「あっ、はじめましてぇ」
「テイト・ノガールドと言います」
テイトが自己紹介をした途端、スズの眉間にシワが寄る。こちらをジーッと見つめる。
「"ノガールド"って事は兄やん、ルイボルの家族やないやろねぇ?」
「そうです、ルイボルは僕の親父です!」
「やっぱそうや!…ほんで?」
「ルイボルは元気にしてはりますの?」
スズさんはなぜかワナワナしながら質問を続ける。そんなスズさんにこれまでの出来事を話した。魔人の襲撃。親父の最期。妹がさらわれた事。黙って聞いているスズさん。
「そうかぁルイボルが…。今まで憎たらしいヤツや思とったし、今も思ってるけど、もう会えへんなるとあれやなぁ…少し寂しいなぁ」
しゅんと落ち込んだ様子のスズ。
「何も知らんとしんどいこと聞いてまって…兄やん、かんにんしとくれやす」
「いやいや!気にしないで下さいよぉ!」
「それに僕もお礼がまだでした、助けてもらってありがとうございましたぁ!」
「ふふ、こちらこそおおきに」
「せや、ウチの自己紹介がまだやったねぇ」
「ウチはキツネの獣人、スズですぅ」
「尻尾が九つ生えてるさかい、キウビ呼ばれたりもしますぅ、どうぞよろしゅう」
スズさんがペコリとお辞儀した。
「ホンマは妹はんの救出ウチも手伝いたいねんけど、色々と忙しいさかい、一緒には行かれへんねん、かんにんしとくれやす」
「いえ!気持ちだけでも嬉しいです!」
「…」
「あれ?スズさん?」
急に耳を貸すようにジェスチャーされる。何だろう?と耳を貸す。甘いささやき声。
「…ルイボルの事は嫌いやったけど、兄やんの事は好きやわぁ〜応援してるさかい、妹はんの救出きばりやあ」
「!」
「はっ、はい!頑張ります!」
イタズラっぽく笑うスズ。耳が赤くなるテイト。スズがアルフの方を向き直す。
「アルフはん"約束"忘れんといてやぁ?」
「これで"三回目"やからね?」
「あぁ想像しただけでも…楽しみやわぁ」
「ほな、おいとましましょかね」
「おい、キウビちょっと耳貸せ」
「まったく、ぶっきらぼうやねぇ」
アルフにボソボソと耳打ちをされるスズ。驚きの表情。みるみる真っ赤になる顔。耳まで真っ赤。うわずった声。動揺が隠せてない。
「なっ!なんやねんそれぇ!」
「そんな事言いはって!」
「ホンマ…しゃーないなぁ!」
顔を手でパタパタとあおぐようなしぐさ。
「はぁ〜暑い暑い!」
「この国は暑くてかなわんわぁ、はよ帰って冷たい珈琲でも飲もかねぇ」
「ほな、さいなら〜」
別れを告げ、スズさんはネックレスの中に消えていった。約束って?アルフさんは何で言ったのかな?まぁいいか!スズさんバイバイ!
「戻るぞ」
帰路に着く。頬をなでる風が心地良い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます