二十八話『スライムの生態』

二人が入って来た穴から洞窟内に外の空気が入り込み、いくらか呼吸が楽になった。


スライム達が混乱している今がチャンス!スライムとスライムの隙間めがけて走る!

「うおりゃぁぁあ!」


スライムに触れないように注意しつつ、転がり込むように滑り込み二人に合流出来た。ミルフに手を借り立ち上がる。

「無事で良かったっすテイト!」


「二人とも来てくれてありがとうねぇ!」


「って、オメェそれ!顔にスライムの体液かかってんじゃねぇのか?!」


「えっ?!本当に?!」

さっき上から垂れてきた液体。あの時は何か分からなかったけれど、今思うとアルフさんが言うようにヒツジを骨だけ残し消化した、スライムの体液じゃないの?!


たしかにそんな物が顔にかかったら大変なんじゃないか?急いでゴシゴシと拭き取る。スライムと同じ色。毒々しい紫色の液体だ。身体に変化は?顔溶けてない?


「大丈夫…みたいです…」

顔が溶けるとか、浴びた部分が痛いとかの変化は特に無かった。二人の方を見る。


「そうか、まぁそれならいい」


「テイトはタフっすねぇ!」


「いやいや、そんな事は…」

何で大丈夫なのかは分からないけれど、大丈夫なら大丈夫!また今度考えよう!じゃあ残る問題はコイツらだけだな、どうしょうか…。


スライム達も落ち着きを取り戻したようで、さっきまでバラバラにうごめいていたが、動きがそろってきた。臨戦態勢完了みたいな。


「来ますよ!」

飛びかかってきたスライムをひょいとかわした。攻撃をかわされたスライムは地面に広がり、直ぐに元の形に戻った。


通常と異なり毒々しい見た目をしているものの、幸いにもスライム達の動きは通常のスライムと比べて特別速い訳でも無いようだ。


先ほどのように複数体で囲まれたり、壁際に追い込まれるような事が無ければ攻撃は難なく避けられる。が、こちらも有効打が無い。


スライムと戦った経験がある方はご存知だと思いますが、彼らに打撃攻撃は効かない。スライムの倒し方は主に二つ。図鑑から抜粋。


"体内に有る核を破壊する"もしくは、高火力の炎で身体ごと燃やし切る"の二通り。しかし、どちらの方法も一筋縄ではいかない。


体内の核は一箇所にとどまってはおらず、身体の中を移動している。剣などで攻撃しても素早い攻撃でないと避けられてしまうだろう。


しかも核への攻撃を外し、スライムが真っ二つに分かれた場合、それぞれが意思を持って動き出す。二体に分裂するのだ。他者に切られなくても自分の意思で分裂も可能。


他者からの攻撃でも増えるし、自力でも増える。それはまさに水に浸した乾燥ワカメのように。増える増える。引くぐらい増えるよ。


よく言われる"スライムを一匹見たら百匹居ると思え!"はこの繁殖力の高さから生まれた言葉なんだって。恐ろしい子…!


「…おいっ!ぼさっとするな!」


「はっ?!」

「す、すいませぇん!」

いけない!ボーッとしてた…戦闘中だった!何だったっけ…ワカメの戻し方?違う、スライムの倒し方!もう一つの方法は炎。


たいまつなどの小さな炎では、スライムの体液で消化されてしまう。もっと高火力の炎による攻撃が必要だ。"火属性魔法"もしくは"沢山の炎の水晶に一気に火をつける"とか?


「うーん、まずいっすね…」

二人も有効打を見つけられないでいる。スライムの攻撃をひたすら避ける時間が続く。


初めて見る紫色のスライム。通常のスライムは半透明で体内を移動する核の場所が確認できるが、彼らの場合は体内が見えないため核がどこにあるか分からない。


何をしてくるのか未知数なので、むやみに突撃するのは危険な気がする…。


先の魔人、クロウとヒヒとの戦闘でミルフが見せた爪で斬撃を飛ばす攻撃。あれならスライムに触れずに攻撃する事が出来そうだけど、獣化は体力の消耗が激しそうだよね。


あとは炎か。今から火を用意する時間はないし、炎の水晶は持っていない。アルフさんは火属性の魔法使えるのかな。


いや、使えるのならスライムと遭遇した時点ですぐに使っているはずだ…。


「あっ!二人とも、あれ!」

洞窟への出入り口がいつの間にか復活している。そこから次々に新たなスライムが洞窟内に入って来ていた。


「おかしいなぁ、さっきまで出入り口が無くなってたんですよ!」


「"擬態"っすね、このスライム達は地形とそっくりに変身出来るみたいなんすよ」


なるほど…洞窟の壁に擬態して出入り口が無くなったように見せていたのか!今は擬態を解除して仲間のスライムを集合させている訳なんだな。えっ?ピンチじゃん!


今は攻撃を避けられているが、このままスライムが洞窟内に増え続ければ、逃げ道が無くなってしまいそのうち逃げられなくなる!


攻撃は出来ず、増えるスライム。状況は悪くなる一方。どうする…。アルフさんが言う。

「チッ!仕方ねえか…」

「オオカミ!"アイツ"に任せる、脱出だ」


「!」

「分かったっす!テイト、逃げるっすよ!」

周りを囲まれ、ついに逃げ道をふさがれた!なおもじりじりと近づいて来ている!


「ど、どうするのぉ?」

あたふたしているテイトを横目にミルフが獣化を始めた。獣化したのは足のみ。二人を担ぎ、天井の穴からヒョイヒョイと脱出した。


スライム達は三人が居た場所に一斉に飛びかかり、ぶつかり合っている。おぉ!逃げれた!逃げれたけれど、スライム達をどうにかしなければ、穴から出て来てしまうよ!


アルフさんの方を向くと目を閉じ、集中力を高めていた。ドアをノックするようにネックレスを叩く。辺りに軽い音が三回響いた。


「キウビ、助けてくれ」

ネックレスが赤色に光り出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る