二十七話『洞窟』
壁に触れてみる。ひんやりと冷たく、しっとりと湿っている。爪を立ててみるとぼろぼろと崩れた。どうやら土のようだ。地面の中?
天井には手が届かない。高さ三メートルくらい?隙間は無く光も差し込んでいない。
正面は先が見えず真っ暗。後ろを振り向くと数メートル先が二手に分かれている。右手側からわずかに光が漏れているように見えた。
中に何がいるのか分からないので、大きな声で助けを呼ぶのは危険かも知れない。怖い。音を立てないように二手のうち光が漏れている方に歩き出した。
同じ頃アルフとミルフは三十分ほど目を離した間に突如として姿を消したテイトの事を探していた。動揺するミルフ。冷静なアルフ。
「テイトー!どこっすかー!」
「見つからないっす、さっきまでこの辺で昼寝してたのに一体どこに行ったんすか…」
「魔人じゃ…ねぇわな」
「魔人が来たらテメェの鼻で分かるはずだ」
「はいっす…」
「空からでもねぇ」
「もしもガキを掴んで飛べる大きさの鳥なら、相応の羽ばたき音が聞こえたはずだ」
「何も聞こえなかったっす」
「魔人でも魔物でもねぇ、空でもねぇ」
「となると…地面か?」
二人が同時に下を見た後、見つめ合った。
再び暗闇を歩くテイト。やはり地面の中なのか?酸素が薄いようで息苦しくなってきた。なるべく体力を使わないよう注意して進む。
歩いているとさっきまでわずかだった光がだんだん強く大きくなる。音を立たないように更に奥に進む。そのうちに光が漏れているらしきの入り口の前まで来た。
壁に背中をピッタリと合わせ、顔の半分だけ出して中の様子を確認した。中は今まで歩いて来た通路よりも広い洞窟のようだった。
洞窟内に草が生い茂っており、発光していた。外に漏れていた光はどうやらこの草の光だったようだ。出口があると思って光の明かりを目指して進んできたが草だったとは…。
洞窟内を見回しても、光る草の他に生物は居なかったので中に入った。発光は自宅で使用する照明用の光水晶と同じくらい明るい。近くだと直視出来ないくらいまぶしい。この光を生き物が発しているとは驚いたね!
ずっとここにいる訳にもいかないので、気を取り直して出口を探そうかな…。振り向いて出口に向かうことにします。振り向く。
「あれ?出口が無い?」
たった今入って来たはずの入り口が見当たらない?何で?急いで壁に近づき、入り口があっただろう場所をドンドンと叩くも、他の壁と同じ感触。焦りで呼吸が速くなってきた。
「ハァハァ…何でぇ?」
立ちくらみが起こり足がふらつく。壁から離れた部屋の中央辺りで尻もちをついてしまう。さっきよりも苦しい。
「ハァハァ…」
このままここで死んじゃうのかな?そんな事を考える始めると更に呼吸が速くなる。…いけない。こんな時こそ落ち着こう。
深呼吸した。ふぅ。ちょっと落ち着いたかも。でもここがどこか分からないし出口も無くなった。相変わらずピンチじゃない?
そう言えばアルフさん達は僕の事探してくれているのかなぁ?そんな事を考えていると、天井からポタリと一滴の液体が落ちてきた。驚いたテイトはとっさに上を見上げる。
「えっ?…えっ!」
そこには複数体の毒々しい紫色のかたまりが張り付き、うごめいていた。図鑑で見た事がある…スライムだ!
でも図鑑で見たスライムはもっと小さくて、あんな色じゃ無かったような?驚いたテイトが動けないでいると、テイトの上に居たスライムが下に居るテイトに向けて落ちてきた!
「危ないっ!」
間一髪避ける事が出来た。が、じりじりとこちらに近づいて来ている。今このスライム僕を狙った?スライムって草食だったような?
他のスライムも次々に天井から落ちてきて、こちらに迫って来ている。後ずさりする。何かに足を引っかけて転倒してしまった。
「いてて、何だ…わっ!」
そこにあったのは動物の頭部の骨!形からして草食動物の頭部…まさか!牧場から行方不明になったヒツジじゃないのか?!
さっきまで気付かなかったけれどこの洞窟、他にも動物の骨らしき物が転がっているじゃん!ヤバい!そうなるとやっぱりこのスライム達、僕の事食べようと狙ってんじゃん!
じりじりと壁に追いやられ、逃げ道をふさがれた!スライム達が上に上に重なり、テイトの身長をゆうに超え覆いかぶさろうとしている!もうダメか…と目をつぶる。
…あれ?襲ってこない?スライムの動きが止まっている?何だ?天井が揺れてパラパラと土が落ちてきた。スライム達もあわてているように見える。上の方から音がする。
ザクザクザク…と音が近づいてくる。土を掘り進むような音。ザクザクザク…音がどんどん大きくなる!ザクザクザクザク!
天井に穴が開いた!地上の光が差し込む。中に二つの人影。入って来たのは…!
「ミルフ!アルフさんも!」
「テイトさーん!お待たせっすー!」
「おい!テメェ!」
「何でこんなところにいるんだ!」
二人が着地。アルフさんが洞窟内を見渡す。
「…いや話は後だな」
「まずはコイツらを何とかするか」
二人が来てくれた!状況は変わって無いけれど、何とかなりそうな気がしてきたぞ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます