二十六話『調査開始』

幼い頃の思い出?街中で迷子になった妹、クエラを人混みの中で見つけた。クエラもこちらに気付く。安心したのだろうか、泣き声を上げ、ポロポロと大粒の涙を流しながらこちらに走り寄って来る。


僕もクエラが見つかって安心しちゃった。涙が頬を伝う。袖でゴシゴシ涙を拭いた。クエラと抱き合う。泣き声を上げるクエラの頭を"良かったねぇ"と言いながら撫でる。


後ろから歩いて来ていた親父が二人に合流。兄妹の頭をわしゃわしゃ撫でる。ほほ笑む親父。見つかって良かった。また会えて良かった。良かった良かった。クエラ、テイト。


笑顔の三人。声が遠ざかる。クエラ、クエラ、クエラ、テイト、テイト…テイ……テ……

「…イ…さ…、テイ…さん、テイトさん!」

「朝ですよー起きて下さーい!」


「ふぇ?親父?クエラぁ?」

寝ぼけて上手く開いていない片目。しばらくぼーっとしていたら脳が追いついた。はっ!夢だ!ここはお屋敷。目の前に立っていたのは、メイドさんのシゼルさんだった。


「おはようございますぅ」


「おはようございます!」

「ふふっ、お二人は仲良しさんですねー」


「えっ?…えっ!?」

夢から覚めても手に残るクエラの頭を撫でている感触。まさか…と思いおそるおそる確認。アルフさんがお腹の上に居た。


撫でていたのはアルフさんの頭だった!くしゃくしゃになったアルフさんの頭。目が合う。サーっと血の気が引く。死を覚悟した。ここまでお読み下さりどうもありがと…


「…行くぞ」

アルフさんは何事も無かったかのように立ち上がり、部屋から出て行った。


「朝ごはんをご用意するので、テイトさんも食卓にいらして下さいね」


「助かった…のか?」

あれ?でも僕床で寝てたし、アルフさんの方が落ちてきたんじゃない?…まぁいいか。部屋には優しい朝の日差しが差し込んでいた。


食卓にて用意してもらった朝ごはんをトイロンさん、シゼルさんと共に頂く。


お屋敷に住み込みで働いているのはシゼルさん一人のみ。他のメイドさんは普段別の仕事をしていて、大掃除など人手が必要な時にだけ手伝いに来てもらうそうです。


雑談をしつつ美味しい朝ごはんを食べ終わり、さっそく草原に向かう事になった。

「それではよろしくお願い致します」

「どうぞご無事で」


トイロンさんが連絡を入れてくれたようで、手続きは行わずにネグナの町を出られた。守衛のエルさんに鼓舞され手を振る。


目をこらすと確かに遠くの方に柵があった。この広い草原で放牧をするんだ!トイロンさんに聞いた話だと五百頭ほどのヒツジを放牧しているらしい。数えるの大変そう…。


柵の方まで行き自分達でも異常がないか確認してみた。柵に沿って放牧場を一周してみたが、言われた通り柵が壊されたりとか、引っこ抜かれた形跡はなかった。


柵の外側にも注意して確認したが、ヒツジを襲うような大型の獣や魔物の足跡などは見つからなかった。


もしや大きな鳥類がヒツジを掴んで飛び去った?とも考えたが、この辺に大きな鳥類は居ないらしいし、ヒツジも無抵抗で連れさらわれる事もないと思う。


もし犯人が大きな鳥類だったら、ヒツジがジタバタした時に鳥の羽根も抜けそうな気がする。一応草原を探してみたが見たところ羽根は落ちていなかった。


「う〜ん分かんないですねぇ」


「…オオカミを呼んでみるか」

自身の首から下げているネックレスに手をかけ力を込めるアルフ。光出すネックレス。光が収まりミルフが現れた。


「おぉ!ミルフさん!」


「テイト!」

「さん付け禁止!呼び捨てっすよ!」


「あっ!そうだった!…ミルフ!」


「はいっ!外で会うのはひさびさっすね!」

「いやーひさびさの外の空気っす!」

全身の包帯が取れ、すっかり元気になったミルフ。深呼吸をしたあと仕事に取りかかる。鼻をヒクヒクさせ、辺りの様子をうかがった。


「うーん、確かにこの辺には肉食の獣とか魔物は居ないみたいっすね」

「ウサギとかリスみたいな小動物の匂いしかしないっす」


ミルフが草原から続く森を指差した。

「向こうの森からスライムみたいな匂いはするんすけどアイツら草食だし、じめっとした場所に住んでるんで、草原までは出て来ないと思うんす、関係無さそうっすね」


「そっかぁ、う〜ん分かんないなぁ」

「…休憩しましょうか?」

この広い草原をずっと歩きっぱなしで疲れちゃった。芝生に座り空をながめる。今日も空は気持ちの良い青!流れる雲を見つめる。


「あっ!そう言えば!」

ゴソゴソとカバンを漁り、中から二本のビンを取り出して二人の前に差し出した。


「トイロンさんからヒツジのミルクを貰ったんです、二本しか無いのでお二人でどうぞ!」


「あー、オレあんまりヒツジのミルク得意じゃないんすよね…お二人でどうぞっす!」


「アタシも飲まねぇ」


「そうなんだぁ…」

「それじゃお言葉に甘えて」


初めて飲むヒツジのミルク。二人は飲まないって言うし、トイロンさんも"そのままだとあんまり美味しくない"って言っていたけれど、どんな味なんだろう。気になる。ドキドキ。


ごくごく。…うん!甘い!昨日食べたソフトクリームも濃厚だったけれど、ヒツジのミルクも甘くて濃厚だ!ごくごく。


「初めて飲んだけど、こんな味なんだねぇ〜」「美味しい!僕は好きかも!」


「そうっすか?珍しいっすね」

もう一度聞いても二人は飲まないって言ったので、もう一本の方も飲んじゃった。え〜?美味しいけどなぁ〜?ごくごく。


…しまった。飲みすぎでお腹が苦しい。

「ちょっと寝転んでても良いですか?」


「勝手にしろ、アタシらは調査に戻る」

「オオカミ、行くぞ」


「はいっす!」


一人になり空をながめながら、草原の心地良い風を受けていると、まぶたがだんだん重くなってきた。あぁ、寝ちゃうわこれ…。


「!」

しまった!寝ちゃってた!バッと飛び起きる。あれ?暗い。まさか…魔人?耳を澄ませるが辺りから物音はしない。


暗闇に目が慣れてきた。洞窟?トンネル?の中のようだ。夢か?頬をつねる。痛い。ヤバい。現実だ…。

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