三十四話『変なテンション』

船着場に一隻の船。黒いボディ。青い帆。

「おおぉ〜!カッコいい〜!」


「おっテイト君!」

「この良さが分かるかい!」


「はい!何かこう…良いですよねぇ!」


「ガハハ!その…良いよなぁ!」

目をキラキラと輝かす二人。言葉に出来ない船のカッコ良さ!これが…男のロマンだ!


二人の間をテクテクと横切るアルフ。船を見ても特に感動した様子も無く。


「…行きましょうか」


「…あぁ」

そんなアルフに続いて船内へ。"タラップ"と呼ばれる移動式のスロープのような足場を歩く。真っ暗。暗闇に何かある?それよりも!


当たり前なんだけれど揺れてる!波で!これが船か…へへっ楽しみじゃねえか!ってね!

初めて乗った船に変なテンションのテイト。


「ちょっと待ってくれよ」

カロッサが壁のスイッチに魔力を込める。照明が点灯。そこにあったのは沢山のたる


目的の島までは最短で三日。だけど念のため一週間分の水と食料を用意してくれたんだって!何から何までお世話になります!


「じゃあ次はデッキに行こう」

カロッサの案内で階段を登りデッキへ。


「おぉ〜キレイじゃ〜ん!」

日差しが海に反射し、波がキラキラと輝いていた。あれ?そう言えば。カロッサに質問。


「カロッサさん、あの船を操縦するためにグルグル回すやつ?はどこですか?」


かじの事か?それならほれあそこだ」

カロッサが指差した先。デッキの中央付近に突き出した長方形の箱のようなものが有る。


頭上に"はてなマーク"を浮かべたテイトにカロッサが説明。なぜか自信満々の表情。


「ガハハ!よくぞ聞いてくれた!」

「この船は異国で購入した最新式でな」

「行き先を指定すれば操縦は船自身が全て自動で行ってくれる優れモノなのだ!」


「うおぉ!やったあぁ〜!」

なぜかガッツポーズのテイト。自分でもよく分かってない。変なテンション。


"あれ?何で今ガッツポーズした?"我に返り自身の握ったこぶしを見つめるテイト。そんな彼を放って冷静なアルフはカロッサに質問。

「異国から?安全なのかこの船?」


「はい!これまで三回この船に乗り、海を渡りましたが、問題は起きていません!」


「…そうか、なら良い」


「ガハハ!ありがとうございます!」

「もう船に行き先は指定してあるので、いつでも出発出来ますが」

「どうしますか?アルフさま?」


「…出発する」

一通り船内の備品の説明を終えたカロッサは船を降り、タラップを片付ける。


「申し訳ない!本当はセンター員を全員集めてお見送りをするべきなのですが…」


「構わねぇ、カロッサ助かった」

デッキに移動。教わった通り長方形の箱に手を当て魔力を込める。鎖を巻き上げ水中から船を停めていたイカリが顔を出す。


船着場から手を振るカロッサ。

「アルフさま!テイト君!」

「どうかご無事で!」


「カロッサさ〜ん!」

「ありがとうございましたぁ!」

二人を乗せた船が南の島に向けて出発した。


…ティリフの船着場を出発してから二日経った。う〜ん暇だ…。垂らした釣り糸。そこから伸びる水面に浮かべた浮きをボーッと見つめるテイト。今日までのダイジェスト。


出発してすぐ。アルフさんがミルフとトル爺を召喚した。


「うおぉー!船じゃないっすかー!」

召喚され耳をパタパタ。目をキラキラと輝かせながらガッツポーズしてるミルフ。


「そうだよねぇ!」

「やっぱりガッツポーズしちゃうよねぇ!」


「フォフォフォ、久々の船じゃな」

「どれ、早速じゃが日光浴を…」

日の当たるデッキでうつ伏せになり、自身の甲羅を温めるトルトス。


「そうだよねぇ!」

「浴びるよねぇ!太陽!」

改めて"トル爺はやっぱりカメさんなんだ!"と感動するテイト。小さくガッツポーズ。


「アタシは部屋に居る」

二人を召喚し船内に消えて行くアルフ。


「そうだよねぇ!」

「それもアリだよねぇ!」

変なテンションのテイト。もう何でも良くなってきたみたい。楽しそうで何より。


「テイト!」

「海と言ったら…"コレ"じゃないすか?」

ミルフのジェスチャー。何かを握った形の片手を"クイックイッ"と動かす。勘づくテイト。


「はは〜ん、さては…"アレ"だねぇ?」

同じジェスチャー。二人で声を合わせて。


「バーベキューっす!」


「釣りだよねぇ!」


違ったわ。でもバーベキューも良いねぇ!二人で話し合った結果、魚釣りで釣れた魚をバーベキューで料理する事になった。釣り竿もこの船には常備してある。早速準備。


エサはカロッサさんが用意してくれていた!小ちゃいエビみたいなやつ。とりあえずやってみる。二人で並んで座り釣り糸を垂らす。

「何が釣れるかなぁ〜?」

「アジとか?タイとか?」


「へへっ、釣れると良いっすねー!」


…待てども待てども釣り竿に動きは無く。じっとしてられないミルフはバーベキューの準備に取り掛かった。僕はもう少し粘ろう。


「!」

「ちょっと!何か掛かったよぉ!」

引っ張られる!負けないように引っ張る!


「うおぉりやぁぁ!」

ワカメだったわ。ワカメかい。呼ばれて出て来たミルフと顔を見合わせ笑う笑う。

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