二十三話『改めて』

千切られたテイト。まだちょっとジンジンする…気を取り直しアルフに質問。

「いたたた…そうだ!アルフさん!」

「男性はどうなりましたぁ?」


「あ?あぁ、洗脳されてたヤツか」

「そうだな…テメェの目で確かめて来い」

異空間の出口から現実世界に戻る。光に包まれ気が付くと自宅の前。アルフさんも居る。


二人で自宅に入ると男性が居た。食卓のイスに座り、ぼーっとキッチンを眺めている。

「あの…大丈夫でした?」


「?…あぁ、君はルイボルさんの息子さん」

「君は…どうしてここに?」

ここが自分の家だと伝えた。男性が洗脳されていた事、戦闘した事も。驚く男性。


「そうか…」

「すまなかったね、迷惑をかけて」


「いや、そんな!気にしないで下さい!」

「あなたも洗脳されてた訳ですし…」

「その…お母さんも」


「テイト君…ちょっと聞いてくれるかい?」

男性はゆっくりと話し始めた。


「ルイボルさんに診察してもらった次の日、久しぶりに母さんの体調が良かったから、二人で散歩に出掛けたら、あのサソリの魔人と出くわしちまって…」

「俺はビビって立ちすくんでたんだけど、あの時母さんが魔人の前に飛び出して『息子だけは!息子の命だけは!』って…」


男性が顔を伏せる。

「俺さ、小さい頃に親父が死んで、この歳になるまでずっと母さんと二人で暮らしてたから、これからどうやって生きていけば良いか分かんなくてさ…」


男性が唇を噛む。

「母さんに『散歩に行きたい』って言われたとき、"辞めておこう"って言ってれば魔人とも会わなかったかも知れないって…」

「魔人と会わなければ母さんが殺されなかったかも知れないって…」

「殺されるのが母さんじゃなくて、僕だったら良かったのにって…」


こんな時何て言えばいいのか分からない。男性の話に何も答えられなかった。続く沈黙。


あっ!男性がテーブルの上にあったナイフ(男性が洗脳されていた時に持っていたナイフ)を手にして刃先を自身の首元に向けた!


男性の腕を掴む!力を緩めない男性。

「離せっ!離してくれ!死なせてくれよ!」


「しっ、死んだらダメですよぉ!」


「うるさい!ほっといてくれ!」

「君に俺の気持ちが分かるのか?!知らないだろ?家族を失った辛さを!悲しみを!」


親父とクエラが脳裏によぎる。何も言えない。その時、今まで黙って聞いていたアルフが男性に近付き、頬をパンっ!とはたいた。


突然の事に男性の動きが止まる。

「おいテメェ、覚えとけ」

「テメェだけが辛かったり悲しい訳じゃねぇから"我慢しろ"とか」

「生きたくても生きられないヤツが居るから"死ぬな"なんて綺麗事は言わねぇ」


アルフの話は続く。

「辛い時は休めば良いし」

「悲しい時は泣きゃあ良い」

「死にたきゃ勝手にしろ、だがなぁ」

「テメェを守って殺されたテメェの母親は、休みたくても休めねぇ、泣きたくても泣けねぇ、死にたくても死ねねぇ」

「もう死んでるからな」


男性は黙って話を聞いている。

「死んだら何も出来なくなる」

「泣く事も笑う事も、過去を後悔する事も未来に希望を抱く事も、何も」

「何も出来なくなる」

「死ぬってのはそう言う事だ」

「テメェは突然殺される訳じゃねぇんだし、よく考えてから生きるか死ぬか考えろ」


「…」


これまで聞いていたテイトが口を開く。

「町のみんなには嘘を付いたんですけど…」「親父は魔人との戦闘で…死んだんです」


「えっ!ルイボルさんが…」


「親父は最期まで僕ら兄妹を守ろうとしてました…今になって思うんですけど」

「やっぱ親は子供を守りたいんだなぁって、何を犠牲にしても…たとえ命に替えても」


「…」


「僕は関係無いんですけど、あなたには生きてて欲しいです…死んでほしく無いです」


男性が握っていたナイフを手放した。

「はは、君は優しい人だね…分かったよ」

「怒鳴って悪かった、何も知らないのは俺の方だったんだな…もう死ぬのはやめる」


「本当ですか!良かった…」

アルフさんの方を見るが、そっぽを向いた。


三人で男性の散歩道を歩く。見つけた男性のお母さんの亡骸なきがらを回収し、アルフさんが異空間から取り出したひつぎに納め台車に載せた。


町のみんなに"親父が死んだ事はナイショにして欲しい"と、男性にお願いしたら"やっぱり君は優しいな"って言ってた。そうかなぁ?

「タクシー乗って行きますぅ?」


「タクシー?いや大丈夫、歩いて行くよ」

「これからは一人で」

「母さんの分まで生きて行く」

「ありがとうテイト君、アルフさん」


台車を引きながら遠ざかる男性の背中に向け、手を合わせ瞳を閉じる。"どうか彼が幸せになれますように、彼のお母さんが天国に行けますように"と祈った。


「よし、アタシらも行くぞ」


「はいっ!」

じゃあ改めて。さらば!自宅!必ず妹を救い出して帰ってくるぞ!


「あっ、そう言えばトイレ行ってないや…」

「アルフさん…」


「…はぁ、行ってこい」

辺りに注意しつつ、お手洗いに走った。

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