二十四話『ネグナ』

ふ〜、スッキリ!"お待たせしましたぁ"とアルフさんに声をかけ出発。アルフさんによると、フォスさんが住んでいる南の島に行くためには、まず港に向かう必要があるそうだ。


タクシーは現在不在のため、港まで歩く必要がある。魔人に狙われている僕は、道中アルフさんの異空間にずっと居れば良いんじゃない?と思ってアルフさんに聞いてみた。


契約した召喚獣以外の生物は、異空間に長い間居ると体力や魔力を削られ、疲弊していくんだって。知らなかった…。


って言うか、アルフさんだけ歩かせるのも申し訳ないし、僕も楽せずに歩く事にしよう。自宅がある高台から、ロブノーの街とは反対側の方向に、目的の港があるらしい。


高台の反対側は崖になっているので、どうやって下まで行くのだろう?まさか、クライミングするの?と思っていると、アルフさんが【完璧かんぺき】を発動し、僕と自らの身体を球体状の壁で包んだ。これって?


二人を包んだ球体が崖の方に近づく。このまま落ちる気か?!"舌噛まねぇようにな"って!やっぱり落ちる気じゃん!奥歯を食いしばり落下の衝撃に備える。目も閉じちゃう。


「おっ?おぉぉぉ〜〜!」

目を開けると、球体はフワフワとゆっくり降下している。何か楽しいなぁコレ!二分ほどで崖の下に着いた。アルフさんは【完璧かんぺき】を解除した。広がる草原。風が気持ち良い。


アルフさんの後ろについて歩く。そう思うと今まで用事が無かったので、こちら側には来た事が無い気がする。目をこらすと遠くの方に町が見えた。最初はそこを目指すそうだ。


ロブノーで定食屋の店主さんからもらったおにぎりを食べながら歩く。シャケ、梅干し、昆布の佃煮。アルフさんはいらないって。モグモグ、ウマウマ。飲み物も忘れずにゴクゴク。



広い草原をしばらく歩いたが、特に何も無いまま町の入り口に着いた。この町にも守衛さんが居た。どことなくロブノーの守衛さんに似ている?他人の空似?声をかける。


「こんちはぁ〜」


「こんにちは…って!」

「アルフさまじゃないですか!」


「よぉ」


(ん?アルフ"さま"って言わなかった?)


「どうも、お久しぶりです!」

「それで?そちらの方は?」


「ルイボルの息子」


「えっ!そうでしたか!はじめまして!」

守衛さんからこの町の説明をしてもらった。町の名前は"ネグナ"と言う。


ロブノーよりも大きいこの町は酪農が盛んで、搾りたてのヒツジのミルクを使用した濃厚なソフトクリームは是非食べて欲しい!との事。はい、今日のおやつ決定!


ネグナの守衛さんの顔立ちが、ロブノーの守衛さんに似ている事についても聞いてみた。

「あ、それは弟です」

「自分達双子なんですよ」

「自分がエル、弟がアルと言います」

「守衛として弟がロブノー、自分がネグナをそれぞれ警備しているんです」


「ほぇ〜だからそっくりなんですねぇ!」


「はは、驚かせてすみません!」

「そうだ!久々にいらっしゃったんですから、領主さまにも会って行って下さいよ!」

「きっと喜びますよ!」


「…おい、厄介事を押し付けるつもりじゃねぇだろうな?」


守衛さんは驚き、額をポリポリと掻いた。

「!」

「やっぱりアルフさまは鋭いですね…」

「そうなんです、実は少々困った事になっていまして…」


アルフさんは"相応のお代をもらえりゃ、依頼は受ける"と答え、領主さんに会う事になった。手続きを済ませてネグナの町に入った。


「わあぁぁ〜!人が沢山だぁ〜!」

町の中は人々が行き交い、見た事のない果物、何に使うか分からない道具など、目を引く露店が並ぶ。ガヤガヤと活気がありにぎやかで楽しそう!


こちらに気付いた男住人が声をかけてくる。

「アルフさまではないですか!」

「お久しぶりです!」


「よぉ」


住人との会話の内容から察するに、アルフさんは町でとても慕われているようだ。あと、出会って声をかけてくるどの住人もアルフさんの事を"アルフさま"って呼んでいる。あれ、僕もアルフさまって呼んだ方が良い感じ?


「アルフさま…」


「あ?」


うん、違うよね。気を下り直して質問する。

「アルフさんはどうして町の人達に"アルフさま"って呼ばれているんですかぁ?」


「さぁ?知らね」

アルフさんから返ってきた空返事。


「もぉ〜教えて下さいよ〜」


露天で見つけた"ヒツジのミルクのソフトクリーム"を二つ購入。二人で舐めながら進む。確かに牛乳のソフトクリームよりも濃厚で、ミルクの味が濃い気がする!ひんやり冷たくて美味しい!あっ!うめぇ〜うめぇ〜!ふふ。


そうこうしている内に大きなお屋敷の前に着いた。見上げなければいけないくらいに大きなお屋敷。コンコンとノックを鳴らすと、若いメイド服を着た女性が出てきた。


「はい何のご用で…あれ?アルフさま?!」


「よぉ」


「お久しぶりです!」

「ちょ!ちょっと、お待ち下さい!」

「旦那さまー!お客さまですー!アルフさまがいらっしゃいましたー!」

女性は大急ぎでドタバタと階段を駆け上る。しばらくして、一緒に男性が下りてきた。


中肉中背の男性。丸縁メガネを掛けている。

「これはこれは、アルフさま」

「ご無沙汰しております」


「よぉ」

「エルから話は聞いた」

「単刀直入に依頼内容を聞かせてくれ」


「!」

「積もる話も有りますが…分かりました」

「おっしゃる通り一つ問題が…」

「アルフさまにお力添え頂きたいのです」

男性が口を開く。

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