二十二話『呼び捨て』

拷問部屋を出る。先に部屋を出たはずのアルフさんの姿は無い。この前と同じ円形で広い部屋。中央のソファに誰か座っている。

「あっ!ミルフさん!」


こちらに気付く。笑顔で手を振るミルフ。

「テイトさん!無事で良かったっす!」


「ミルフさんこそ!やけどは治ったの?」


この前会った時は包帯で全身グルグル巻きだったミルフ。今回の彼は全身の包帯は外れて、身体を自由に動かせるようになっていた。


近付いて見ると肌にやや赤みが見られて、頭部にはまだ包帯が残っているが。

「まだちょっとヒリヒリするけど、もう自由に歩き回れるようにはなったっす」

「完全復活!にはもうちょっと時間が必要って姐さんが言ってたんすけど」


「?」

「アルフさんって魔法だけじゃ無くてケガとかについても詳しいの?」


「そうなんすよ!姐さんは昔、ルイボルさんと一緒に旅をしてた期間があって、その時にルイボルさんから聞いたとか何とか」


そう言えばアルフさん達に初めて会った時、"親父と仕事仲間だった"みたいな事をアルフさん言っていたような?そうなんだ…。


「あと、姐さんと契約したオレら召喚獣は、この空間に居れば治癒力が向上するんすよ」


「治癒力って?」


「うーん、生き物にあらかじめ備わった自己修復機能的な?感じっすかね?」


「ふ〜ん、嬉しい特典付きなんだねぇ〜」

「僕も召喚獣になっちゃおうかしら、ふふ」


「へへ、それも良いっすね」

などと二人で話していると、ミルフの狼耳がぴょこぴょこした。後ろを振り向くミルフ。


ミルフが見据える先の扉が開く。出てきたのは二本足で立ち、杖を突いた青い身体の亀。

「トルトスさん!」


「テイト殿、ご無事で何よりじゃ」


「トルトスさんも!」

「もう動いても大丈夫なんですかぁ?」


「大丈夫じゃ、ほれこの通り」


トルトスさんが後ろを向く。アロウクロウの矢を受けたはずの腕や足、首と頭は何事もなかったかのように元通りになっていた。これも召喚獣の特典、治癒力向上のおかげ?



「カラスが攻撃に使用していた"矢"自体はヤツの羽から作られたただの矢じゃったから」

「ミルフの受けた魔力によるやけどよりも早く治ったんじゃ」


「そう!魔法攻撃は治りにくいんすよ!」


普通の攻撃よりも、魔法による攻撃の方が治るのが遅いんだ。ふ〜む、ふむふむ。話している途中で真剣な表情になるトルトス。


「テイト殿、アルフから聞いたのじゃが」

「アルフをカラスの放った、矢による攻撃からかばってくれたそうじゃな」


「えっ?はい、かばいました…」

アルフさんをかばって矢を背中で受けたのは覚えている。背中めっちゃ痛かったし。その後の記憶は無いんだけれども。


「それについてはありがとう、助かった」


「いや、大したことじゃ…」


「しかし自身の命を危険にさらすのは良くない、今回は運が良かっただけかも知れない」

「魔界に向かうワシらがこの先出会う敵は、ヤツらよりも強大なものになるはずじゃ」


コホンとせきばらいしたトルトスは続ける。

「…アルフと話したのじゃがな」

「ワシらも魔界にはそれぞれ理由があって好きで向かう訳じゃから、道中で何が起きても自己責任だと考えておる」


ウンウンとうなずくミルフ。

「じゃからテイト殿」

「テイト殿が責任を感じなくても良い」

この先の旅は自身の命、身を守る事を最優先で行動するようにすれば良い」

「テイト殿、約束じゃよ?」


見つめるトルトスとミルフ。口を開くテイト。

「…僕、これからも誰かがピンチの時は、何も考えずに助けに行っちゃうと思います」


洗脳されていた男性との戦闘を思い出す。

「でも今回、サソリの魔人スコピオとの戦いで分かりました」

「強くなければ戦えないし、強くなければ何も守れない、選択すら出来ないんだって…」


強いまなざしで二人を見つめる。

「だから僕、強くなります」

「仲間も、危険な目に遭ってる知らない人も、みんなを守れるくらい強くなります」

「なのでトルトスさん、約束は出来ないです…ごめんなさい」


その言葉を聞き、吹き出す二人。

「はっはっはっ!」

「やっぱりテイトさんは甘ちゃんすね!」


「確かにルイボル殿に似て頑固者じゃ!」

「分かった、テイト殿は好きにすれば良い」


「あっ、ありがとうございます!」


「"仲間"っすか…よっしゃ!」

「テイトさん!これからはオレの事"ミルフ"って呼んで下さいっす!」


「えっ?急に?どうしてぇ?」


「"テイトさん"とか"ミルフさん"って呼び合うの堅苦しいじゃないっすか!」

「オレら"仲間"なんすから、呼び捨てで!」


仲間か…そうか。そうだよね!

「分かったよぅ!改めてよろしくミルフ!」


「よろしくっすテイト!」

「トル爺のことも"トルトスさん"じゃ無くて"トル爺"って呼んで下さい!」


何だろう、楽しくなってきた!

「よっしゃ!」

「よろしくおねがいします!トル爺!」


「ホッホッホッ、宜しくじゃテイト」


「なんか楽しそうな事してるねー!」

「私達もまぜてまぜてー!」


「ピヨピヨ!」


手のひらサイズに変化した黄色い鳥、タクシーを頭に載せたエルフの美女ネルカが来た。

「あっ!ネルカさんとタクシーさん!」

「これから僕の事"テイト"って呼んで下さい!二人の事も呼び捨てにするので!」


「うん!分かった!よろしくー!テイト!」


「ピヨピヨ!ピヨピヨ!」


「はい!よろしくお願いします!」

「ネルカ!タクシー!」


ワハハとみんなで笑った!ミルフが言う!

「次来ました!これからは姐さんの事も"お嬢ちゃん"って呼んで下さいっす!」


「オッケ〜!」

「よろしくお願いします!お嬢ちゃん!」


「あ?」

そこに居たのはアルフさん。あっ、ミルフにはめられた…。テイト以外の"仲間"が一目散に自室に戻る。アルフさんの顔がみるみる怒りの表情へ変わる。…千切られ確定じゃん。


「仲間でしょ〜!助けてよぉ〜!」

悲しき叫び声が部屋中に響く響く。

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