九話『闇とは』

ミルフの話は更に続く。

「あ、言ってなかったっす」

「オレらは便利屋として世界各国を飛び回って、さまざまな困り事を解決しつつ、魔人に関する情報を集めてるっす」


テイトが尋ねる。

「なんで魔人の情報を?」


「それはウチの姐さんが一人の魔人に個人的に恨みがあって、復讐したいからっす」

「どんなヤツなのかは聞いても教えてくれないっすけど」


「おい!オオカミ!関係ねぇことペラペラしゃべんな!オメェも千切られてぇのか!」


「いやっす!すみません!」


ミルフは気を取り直し続ける。

「テイトさんが見た"暗い空"とその魔人が影人形を取り出した"輪っか"のことをオレたちは」

「どちらも"闇"と呼んでます」


「魔人達は闇を"移動"と"道具の保管"あと辺りを"魔人が戦闘するのに有利な環境"にするために使用するみたいっす」


移動と保管は確かに見た。最後の"魔人が戦闘するのに有利な環境"ってのは何だろう?ミルフに聞いてみる。


「それはっすねぇ、魔人は人間と違って呼吸に大量の魔素を使用するんす」

「魔界だったら問題ないんすけど、人間界は空気中の魔素の量が少ないんで、身体を人間の姿に変身させて人間界に来るんすよ」


「人間の姿なら、呼吸に使う魔素の量を抑えられるらしいんすけど、魔界での本来の姿より弱体化するんす」

「で、闇で辺りを覆うと、闇の使用者に新鮮な魔素を常に送ることが出来るんで、人間界でも本来の姿に戻れるんす」


そうか、オクトが戦闘中に変身したと思ってたけど、オクト的には、元の姿に戻った感じ?だったんだなぁ。


一気に沢山しゃべったミルフはノドが渇いたようで、蛇口を捻る。テイト達にも水を持ってきてくれた。"ありがとう"と受け取る。ゴクゴク。


「クエラは魔界に居るんですよねぇ?」

「だったら直ぐに向かいましょうよぅ!」


すると、両手でコップを持って水をチビチビ飲んでいたアルフに怒鳴られる。

「考えなしに突っ込もうとするな!ボケ!」


「アイツら魔人は"闇"を使って魔界と人間界を行き来出来るが、闇を通過出来るのは"魔王"から許可を得た人物(又は生物)だけだ」


「許可を得てない人間が通ろうとしてもすり抜けちまうだけで、魔界には行けねえ」

「それに仮にテメェが今のままで魔界に向かっても、呼吸ができずに野垂れ死ぬぞ?」


そっかぁ、ショボンとするテイト。そんなテイトの様子を見てミルフが口を開いた。

「闇は魔人しか通れないんすけど、世界のどこかに魔界に繋がる"門"があるんす」

「場所は毎日変わるらしいんすけど、その門なら許可のない人間でも通れるみたいっす」


あっ!門!さっき【魔界について】の本で読んだところだ!そっかぁ、門を見つけられたら、魔界に行けるんだ…。でも、魔界に行っても今のままじゃ、すぐ死んじゃうと…。


あれ、でも待って。アルフさんは幼い見た目だけど、魔界に行っても大丈夫なのか?てか、この二人は強いのかなぁ?…聞いてみるか。


「あの突然だし失礼なんですけどぉ、お二人はその…強いんですか?」

予期しなかった質問にキョトンとする二人。その後、オオカミは笑顔、幼女は呆れ顔に。


「そうっすよねぇ、今のところオレら、料理が出来るオオカミ人間と、キレやすい女の子すもんねぇ」

アハハと、笑うミルフ。"お嬢ちゃん"はダメだけど"女の子"はオッケーなんだ…。と、思うテイト。ミルフを睨むアルフ。あれ?ダメなの?


急に、真顔になるミルフ。鼻をヒクヒクさせている。どうしたんですかぁ?テイトが問う。

「…来るっす」


窓の外を確認する。辺りはすっかり暗く、テイトには何も見えない。すると突然、暗闇に複数の炎が浮かぶ。


何だ?と思ったのも束の間、炎がテイトの自宅に向けて飛んできた!矢だ!炎の点いた矢!いけない!自宅が燃えてしまう!矢は自宅に命中し、炎は自宅に燃え広がり始めた。


焦るテイトを他所に幼女は冷静だ。

「丁度いいじゃねえか、戦闘だオオカミ」


「はいっす!」


「テメェも一緒に外出て見てな」


「はい?」


外。暗闇からテイトの自宅を見る二つの影。

「ヒヒヒ!上手くいきそうですなクロウ殿」

「いやいや、これもヒヒ殿のおかげ」


日が落ちた夜中に"闇"を紛れさせての奇襲。

自宅が燃え、驚いて避難して来た所を捕獲する作戦。家の周りを取り囲むように配置した影人形。


幹部の一人で重傷を負ったオクトの替わりに、次の幹部の座を与えられる者は、ルイボルの息子、竜の子を魔王の前に連れて来た者。生死問わず。


クロウとヒヒ、どちらも表面上ではニコニコと友好的だが、腹の中では竜の子を捕獲した途端、相手を出し抜き、裏切り、最悪殺してでも自分の物にしようとしていた。


家から人影が。聞いていた話では息子一人のはずだが、三つの人影が。

「おい、ルイボルのガキ!」


「うぇ?はいぃ!」


「自己紹介まだだったな」

「アタシはアルフ・ミューシャ」

「召喚士だ」

大きな輪の中に連続した六芒星が続くネックレス。アルフが首から下げているそのネックレスが青く光出した。

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