燃・刺

八話『連絡』

目を覚ましたテイトの瞳に映ったのは、自身の部屋の天井だった。外は夕焼け、時間は十八時。テイトは安堵して、胸を撫で下ろした。良かった。全部夢だったんだ!オクトが来たのも、親父が死んだのも、クエラがさらわれたのも…。段々テイトの表情が曇る。


テイトは薄々気付いていた。本当は夢じゃないことに。オクトは実際に来たし、父はもう居ないこと…妹がさらわれたこと。全て鮮明に思い出せる。夢にしては鮮明すぎるから。


家族の顔が脳裏に浮かび、思わず泣きそうになる。…なんか食べよかな。悲しい時でもお腹は空く。台所へ向かうため布団から飛び出し、立ち上がった。


ん?クンクンと匂いを嗅ぐ。台所からいい匂いがする…誰か居るのか?静かに台所へ向かい、静かに様子を確認する。


オクトがクエラを探すため倒されたであろう家具はキレイに整理してあり、割れた食器や花瓶なども片付けられていた。


台所に立つ後ろ姿。見覚えのある白の三角巾。思わずクエラ!と叫びそうになるも、振り返ると見知らぬ若い男性だった。誰?

「あっ、起きたんすね」

「台所借りてるっす。」


食卓に並べられた食事。着席。

「オレ、ミルフって言うっす」

「よろしくっす。」

「オオカミの獣人っす」


と言いつつ、ミルフは三角巾を外し、自身に生えている、オオカミの耳をピョコピョコさせ、キバを覗かせた。獣人さん初めて見た。

「驚かないんすね」

「この辺では珍しいと思ったんすけど」


多分いままでだったら驚いてたと思うけれど、今日は色々ありすぎて特に驚かなかった。

「いやぁ、別に」


「自分を見て驚く人間見るの結構好きなんすけど…まぁ、いいっす」

少し残念そうなミルフは続ける。


「それで、お兄さんがルイボルさんの息子さんなんすか?」


「…!」

「親父のこと知ってるんですかぁ?!」


「知ってるもなにも、今日オレ達がここに来たのも、ルイボルさんから連絡があったからっす」

「『不味いことになった。自分に何かあったら、息子達を頼みたい。』って」

「そういや、ルイボルさんはどこっすか?」


「それは…」

テイトが返答に困っていると、背後から。


「魔人が来たんだろ?」

驚いて振り返ると、そこには幼い女の子。黄緑色でふわふわのパーマのかかったショートカット。魔法使いが着るような白いローブ。


幼女は続ける。

「外で魔人の気配がした」

「ルイボルは…逝ったか」


「そうっすか…残念っす…」

悲しそうなミルフ。


この場の空気に耐えきれず、テイトが聞く。

「ところで、お嬢ちゃんは誰だい?」


「あっ息子さん、ダメっす…」


「へ?」

幼女の顔がみるみる怒りの表情へ変わっていき"ウガー!"とテイトに飛びかかる!


「アタシは嬢ちゃんじゃねぇ!」


「ぎゃあぁぁぁ?!痛い!痛い!いろいろ千切れる!」


「紹介するっす!彼女はアルフ、オレ達の姐さんっす!」


「ウガー!訂正しろ!このガキぃ!」


「ねぇ!ミルフさん!助けてよぉ!」


「南無三っす…」


「ミルフさんってば!」

…よく分からないが、幼女に謝って何とか怒りは収まった。僕も千切れずに済んだ。


「で?テメェか、ルイボルの息子ってのは」

「クエラだったか?妹はどうしたんだ?」


「オクトにつれさらわれました…」

「そうだ、アイツら何なんですか!」

「何のためにクエラを!」

「妹は無事なんですか!」


「おい!一気にしゃべんな!」

「急にでけぇ声出すな!千切るぞ!」


「すみません…」

テイトが静かにイスに座り直す。


「おい!オオカミ、説明してやれ」


「はいっす!あ、その前にご飯どうぞっす!冷めないうちに!姐さんも!」


「あ、ありがとぅございます」

とりあえずミルフさんが作ってくれた晩ご飯を三人で食べる。ミルフさんの料理の腕前はなかなかのものだった。美味しい。


食後、自己紹介をしてから暗い空のこと、オクト達のこと、親父が爆発したこと、妹がつれさらわれたこと、分かっていることは全て話した。アルフが口を開く。


「そうか…で?テメェは何で無事なんだ?」

「何でオクトに殺されてねぇんだ?」


「それが僕にも分からなくて…」

「オクトに吹き飛ばされたことは覚えているんですが、その後の記憶がなくてぇ」

「目が覚めたら、自分の部屋に居ました」


「あっ、テイトさんが自分の部屋に居たのは、気を失ってるテイトさんを見つけて、オレがそこまで運んできたからっす」


「その節はどうも」


「いえいえっす」


「オオカミ!説明しろ!」


「忘れてたっす!」

ミルフは自身らの知っていることを話し出す。

クエラをさらっていったオクトは魔界から来た人間、略して"魔人"と呼ぶらしい。親父の本棚に【魔界について】の本があった。開く。


【魔界について】著者オーサム・ティツカ

 魔界と我々が住む人間界は門で仕切られており、魔力貯蓄量が少ない人間だと、門に近づいただけでも体調不良が現れます。


 魔界は地上に比べて、空気中の魔素の量が約八十パーセントと極端に多く、常人だと呼吸が困難です。そのため、魔界に生息する生物には、体内に取り込んだ魔素を呼吸の為の魔力として貯蓄する専用器官があるのです。


 他にも魔界には…


 最後に、魔界についてはまだ明らかになっていないことが多いです。これからも私は魔界についての調査を続けていきます。


ふ〜ん。本を閉じた。

「魔界については分かったっすか?」


「うん、何となくだけど」


「最近、各地で魔人による人さらいが多発してるんすよ」「テイトさんの妹さんも多分、魔界に居ると思うんす」


「ほんとぉ?!」


「多分、すけど」

「あと、生きてるかも分かんないっす…ヤツらの目的が分かんないっすから…」


「そうかぁ…」


「そう言えばぁ、親父から連絡が来たって?親父とはどう言う関係なんですかぁ?」


ミルフが目配せ。溜め息後、アルフが話出す。

「アイツはアタシが若い頃の仕事仲間でな」「…まぁ、腐れ縁だ」

「ルイボルに助けを求められるなんて、アイツと会ってから初めてだからよ」

「テメェの妹を助け出す手伝い、してやる」


クエラを助けられる!希望が湧く。あと"アルフさん、今も若いですよ"って言いたかったけど、言ったら千切られそうだからやめた。

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