十話『亀と魔女』

青い光が更に大きくなる。目を開けていられなくなる。しばらくして光が収まった。目を開ける。そこには青い身体の亀が居た。


亀だ。見た目は紛れもなく亀。でもアルフさんと同じくらいの身長だし、二本足で立っている。あとベルトをしていて杖を突いている。普通の亀では無いだろう。紛れもなく。


テイトは困惑した。そしてその様子を遠くで見ていたクロウとヒヒも困惑していた。竜の子一人だと聞いていたが、三人出てきたし、突然光ったと思ったら一人(匹?)増えてるし。


ってかそうだ!家が燃えてんじゃん!自宅に目を向け焦るテイト。亀が口を開く。

「おやおや、これは不味いですなぁ」


わぉ喋るんだ…。しかもダンディボイス…。アルフは出て来た亀に指示する。

「おいカメ、火消せ」


「了解じゃ【青雨ブルーレイン】」

出てきた亀が杖で地面を突く。上空に魔法陣が現れ、雨雲が自宅の上空に出現した。


雨雲から雨が降り、自宅を濡らす。自宅の火はすっかり消えた。すごい!亀さんの魔法だ!

テイトが目を輝かせている。気付いた亀。


「ルイボル殿のご子息ですな」

「はじめまして、ワシはトルトスじゃ」


「トル爺はこう見えてカメっす」


ミルフ言葉にどう見ても亀だと思うテイト。

「はじめまして、テイトです」


「中で聞いておりました」

「ルイボル殿…残念でしたな」


「はい…」


「妹さんの救出、微力ながらワシも協力させて頂けますかな?」


「あっ、ありがとうございますぅ!」

「よろしくおねがいします!」


「フォフォフォ、こちらこそじゃよ」

「じゃが、その前にヤツらを何とかせねば」

トルトスが目を向けた先。テイトも目を凝らす。


暗闇に浮かぶ二つの人影。一方は細身ですらっとした立ち姿の男性。手には弓。もう一方はスケベそうな顔立ちの小太り中年男性。


服装はオクトと同じようなタキシードと丸いサングラス。オクトの仲間の魔人だろうか。

「ヒヒヒ!話は終わりましたかな?」

「いやぁ、火を消せるとは誤算でした」

では無理そうですね」


小太り中年男性が言う。続けて細身の男性。

「覚醒しきっていない竜人ならば、楽に捕獲出来ると思っていたのですが」

「少し面倒です」


男性が弓をこちらに向けて構え、矢をつがえる。弦をキリキリ…とひきしぼる。放った!


危ない!ミルフの目がキラリと光る。パッと矢の軌道に入り、素手で掴んでみせた。凄!


「ヒヒ殿、作戦を変更しなければ」

「まさか"アルフ一行"が一緒だとは」


「へぇ、なんだテメェ」

「ワタシのこと知ってんのか?」


「はい、魔人われわれのことを嗅ぎ回っている輩がいると、以前偵察部隊より報告が有りました」


「じゃあ、話が早えぇや」

「成れよ」


アルフの言葉に驚く二人。その言葉を聞いたテイトも同時に驚く。ニヤリと笑う二人。

「そうですか、ではお言葉に甘えて」

「ヒヒヒ、ありがとうございます」


二人がサングラスを外す。カラスの目とヒヒの目。二人が唱える。えっ、大丈夫なの?

【戒忌日蝕】アグリプスアロウクロウ」


【戒忌日蝕】アグリプス火狒狒ヒヒヒ


二人の姿がみるみる変わっていく。細身の男性は全身に黒色の羽毛が生え、口はクチバシに、手足は鳥の足のように鋭くなり、背中に大きな翼が現れた。


小太りの中年男性。身体が筋肉質になり、全身が薄紅色の体毛で覆われた。顔が大きく変化し、口から鋭い牙を覗かせている。


「カッカッ、竜の子の生け捕りは諦めます」

「殺して死体を回収すれば良いでしょう」


「ヒヒヒ、そうですね」

「竜の子は…驚いている彼でしょうね、まぁ全員燃やすので、関係無いのですが」


クロウが自身の翼から数枚の羽根を抜き取り、持った弓に矢のように構えた。弦を引きしぼると、羽根は形状を変化させ、数本の黒い矢になった。


ヒヒが片手で印を結ぶ。(握り拳を作ります。人差し指と中指を立てまして、立てた指を九十度曲げた形です。)その手を自身の額に置いた。クロウが構える矢の先端を見つめ、力を込める。先端にメラメラ燃える炎が点いた。


「カッカッ!さぁ、燃えなさい!」

矢を放ってきた!さっきよりも速度が上がっている!数も多い!えっ!大丈夫なの?!


着矢の衝撃により辺りに上がる砂煙と炎。勝利を確信して歓喜の雄叫びを上げるヒヒ。翼を閉じ弓を下げるクロウ。砂煙が収まった。


しかし、そこにあるはずの竜の子とアルフ一行の丸焦げの焼死体は無かった。気付いたヒヒが牙を剥き出し、怒りの雄叫びを上げる。


「ぐおぉぉぉ!貴様か魔女!」


「カッカッ、まさに"完璧の魔女"」

「報告通り厄介な魔法をお持ちのようで」


テイトとアルフ、アルフの仲間達を囲む形で、彼らの立つ地面に大きな魔法陣。空中に複数の小さな魔法陣がドーム状に出現している。


クロウとヒヒが放った炎の矢はテイト達に当たる寸前、空中に浮かぶ魔法陣によって防がれており、テイト達に届いてはいなかった。


「あぁ?何だテメェら?こんなもんか?」


目をパチクリさせ、何が起こったのか状況を理解できていないテイトにトルトスが言う。


「アルフの魔法じゃよ」

「【完璧かんぺき】と呼んでおる」

「彼女に向けられた悪意ある攻撃が、魔法陣の中まで届かなくなる魔法じゃ」


アルフがニヤリと笑う。

「じゃあ、次はこっちの番だな?あぁ?」

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