四話『的中』

やっと家がある高台まで帰って来れました。街よりも更に暗い。途中ガッツリ転んで右ひざを擦りむいたが、そんなことは気にせず走り続けた。


家の前に先に行ったルイボルの人影。声を掛けようとして、ハッと気付く。


誰か居る。


自宅の明かりに照らされた親父の正面に、向かい合う形でもう一つの人影。ちょっと近づき目を凝らした。


その人物は高そうなタキシードに身を包み、マジシャンが被っていそうなシルクハット、こんなに辺りが暗いのに丸いサングラスをかけている。


その人物は蓄えた自身のヒゲを触りながらニヤリと笑い、喋り出した。

「クトクトクト…ルイボル」

「やはり貴方の腕は衰えてはいないようですね」


「オクト…。」

親父はその人物と面識があるのだろうか?親父が『オクト』と言った人物は更に続ける。


「連れてきた人形はあっさり倒されてしまった…まぁ、今回は万全を期してあの方より"闇"をお借りしてきた故、何体も取り出せるのですが」

その人物が指で空中に円を描く。


すると、何も無いはずの空中に禍々しい紫色の輪が浮かび上がる。その人物が輪の中に腕を通す。


腕は輪の反対側から出て来ないで、見えなくなった。まるで異次元につながっているように。


輪の中を探り、謎の黒い球体を掴んで引っ張り出す。同じ動作を何度か繰り返した。球体はベチャッと音を立てて液体のように地面に広がり、黒い水溜まりが出来た。


しばらくするとその水溜まりは細かい泡のようにポコポコと膨らみながら、高く大きくなっていく。膨らみながらそれが段々と、人のようになっていることに気がついた。


輪の中から出てきたのは、人の形をした人ではない何か。ローブを着ており、顔は隠れていて見えない。三体が出現し、臨戦態勢で今にも飛びかかってきそうだ。


「クトクトクト…もう一度繰り返します」「竜の子をこちらに引き渡しなさいそうすれば、命だけは助けます」


ん?竜の子って何のことだ?


テイトが初めて聞く言葉にクエスチョンマークを浮かべるのと同時に、ルイボルが静かに答える。

「…断る。」


「クトクトクト…残念ながら交渉決裂ですね」「行きなさい!」

オクトの合図で影人形達が一斉にルイボルに飛びかかる!危ない!はっと息を飲む。


ルイボルは三体の攻撃を軽々とかわし、コートの内ポケットからメスを取り出す。続けて攻撃してくる影人形の手首を掴み、メスで首元を切り裂いた!


影人形は風船が割れるようにパァンと

弾け、辺りに血しぶきのように黒い液体が飛び散った。ルイボルの顔にも飛び散った。


ルイボルは残りの二体にも流れるような動きでメスを突き立て、黒い水溜りに戻してみせた後、オクトを睨む。


いや、どういう状況?


眼前で行われる戦闘にテイトが唖然としていると、オクトがサングラスを外した。その眼はタコの眼のようだ。

「…致し方ありませんね」


オクトが唱える。


【戒忌日蝕】アグリプスオクトペイン」

オクトを囲むように禍々しい紫色の魔法陣が現れる。すると、オクトの体格がみるみる大きく筋肉質になり、着ていたタキシードが破れた。


身体の色が黒紫色になり、両の腕がそれぞれ中指と薬指の間から二つに割け、それぞれが触手に変わった。ヒゲと足も触手に変わった。

(腕が四本、足が二本、ヒゲが二本の計八本の触手。うわぁ。)


オクトの変化に連動するように影人形も復活し、腕も触手になっている。


変化した触手をクネクネと動かし、不気味な笑みを浮かべオクトが言った。

「クトクトクト…さぁ!第二ラウンドと行きましょうか!っとその前に」


突然、テイトが首元を誰かに絞められる。しまった!影人形だ!こっちにも居たんだ!苦しい!ジタバタもがくも、影人形の触手はびくともしない。


ふっと首元が軽くなる。呼吸が楽になり、辺りに血しぶきのように黒い液体が飛び散っている。テイトの顔にも飛び散った。


どうやらルイボルが投げたメスが影人形の額に命中し、影人形が弾けたようだ。ルイボルが叫ぶ。

「テイト!クエラと一緒に家の中に居なさい!」


ハッと我に返り、全速力で走った。


オクトは自身の左触手に対し、パペットと会話するように話し出した。

「あれは誰ですか?…ほう、竜の子のお兄さまですか」「彼には竜の力は遺伝していないと」「…クトクトクトそうですかそうですか」


「うわあああぁぁ〜!」

テイトは家の中に転がり込んだ。


「痛っ!いや、どういう状況!?違う、そうじゃなくて!クエラ!クエラ〜!大変だぁ〜!」


「お兄ちゃん!」

声が聞こえたクエラの部屋に向かうと、布団にくるまって座り込むクエラが居た。


クエラは布団を投げ捨て、テイトに抱きついた。身体が小刻みに震えており、目からは大粒の涙が溢れている。


「お兄ぢゃん…ごべんなざい!…私のぜいで…ごんな…ごとに…!」

テイトに会えて緊張の糸が切れたのか、わあわあと大きな声で泣き出した。


普段大人びているクエラの余裕のない姿を見て、逆に冷静になったテイトは、背中をさすさすさすりながらクエラをなだめようと試みる。


「クエラ落ち着いてぇ〜」

「よく分かんないけど大丈夫だよ、多分…はい!深呼吸!」


しばらくして落ち着きを取り戻したクエラが話し始めました。

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