第5話視線の正体
付き合って一日が経過した。
小学校の同級生との再会を遅ればせながら実感していると霙はキレイに微笑む。
「結構変わったでしょ?一生懸命頑張ったんだから♡」
確かに霙の容姿は以前とは完全に異なっている。
「毎日、走って筋トレ…地獄の日々だった…甘いものも思うように食べられないし、好物のピザも控えるようにしてたんだよ?褒めて?♡」
教室の中央で僕と霙はにこやかな表情で会話を繰り広げている。
その異常な光景にクラスメートは息を呑んでいた。
「おい…氷室さんが笑ってるぞ…」
「不吉の前触れか?」
「もう罵倒はしてくれないのか…」
「冷たい氷室さんは何処に…」
「ってか彼方と付き合ってるのか?」
クラスメートの男子のひそひそ話に霙はキッと目を細めて睨めつける。
「聞こえてんだけど?あっち行ってろ」
普段どおりの霙の罵倒に男子生徒は恍惚な表情を浮かべると蜘蛛の子を散らすようにその場を後にした。
「やめたれよ…逆に喜んでたよ?」
「何で喜んでるんだろう…普通にキモい…」
「キモいなんて言ってやるなよ…癖は人それぞれだよ」
「癖って…無いわ…」
僕と霙は休み時間に他愛のない会話を繰り返す。
そんな僕らを廊下の陰で見ている人物に気づかぬのは至極当然なことなのであった。
昼休みも一緒に過ごし放課後がやってくると僕らは揃ってクラスを抜けていく。
「今日は17時からバイトなんだぁ〜…ダルいなぁ〜」
霙の何とも言えない愚痴のような言葉に適当に相槌を打つと不意にポケットの中が気になった。
「やべぇ…学校にスマホ忘れてきた…取りに戻るから先に帰ってて。このままバイト先に行くんでしょ?気をつけてね」
「あっ…うん…じゃあまた明日ね♡」
霙とその場で別れると僕は来た道をなぞるようにして学校に戻る。
校門を潜り校舎に入っていくとクラスを目指す。
そして僕はそれを目撃することになる。
「僕の机で何してる?」
そこには一人の女子生徒の姿がある。
何が問題かと言えば彼女が僕の机の角を使っていたからである。
何に使っていたかは後ろ姿だったためはっきりと見えなかった。
だが予想をすることは出来る。
「あ…これは…ごめんなさい!」
彼女はその場を後にしようとするが驚いて腰が抜けたのか、その場でへたり込んでしまう。
「大丈夫?」
彼女のもとまで近づいていくと右手を差し出す。
同級生ではないその生徒の上履きの色を確認する。
「青色ってことは一年生?誰に用?」
「えっと…」
彼女はしどろもどろな返事をするだけではっきりとした答えを提示してくることはない。
「一旦落ち着いて。話なら聞くよ?」
優しさのつもりだが彼女にとっては傷口に塩を塗られている気分かもしれない。
彼女は深く呼吸をするとその場で立ち上がり僕に挨拶をする。
「
思ったよりも背の低い彼女だったが力強い声量の持ち主で明るい性格をしているのが見て取れる。
「はい。
木暮に倣うように挨拶を交わすと彼女と対面する。
「それで。誰に用があったの?部活とか委員会の先輩?」
「いえ…その…何と言うか…」
「何と言うか?」
「彼方先輩が触っていたものに用があったと言うか…」
木暮はもじもじとした態度で顔を赤らめていた。
「え?それって…」
「はい…勝手にごめんなさい!悪いことだとは思っているんですが…その方が逆に興奮してきて…出来心なんです!許してください!」
木暮の弁明に僕は適当に相槌を打つと軽い危険を感じて机の中からスマホを取り出す。
「うん。もう行くから。ちゃんと消毒しといてね…」
それだけ口にすると僕は逃げるように校舎を抜けていくのであった。
(この学校…変態が多いのか…?)
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