第13話



 結局、私とベンジャミン様の婚約は解消されなかった。今でも私は婚約解消を訴えているけれど、ベンジャミン様が両家へ「どうか、やり直す機会が欲しい。」と頭を下げ、婚約はそのままになっている。



 私は、毎日追いかけてくるベンジャミン様を撒くのに忙しい。



 ベンジャミン様とヴィクトリア様の幸せ、という目標を失ったこと、あんなに冷たかった態度には理由があったことに、私は未だに混乱して、上手く向き合えないでいる。




 それに。




「ルシル!見つけた。」




 幼い頃、追いかけてばかりだったベンジャミン様が追いかけてくれるのが、少しだけ、ほんの少しだけ嬉しかったりするのだ。






◇◇◇◇



 放課後の教室にて、ロキは不満そうに呟いた。



「結局婚約は解消されてないんだろ?」




「ああ。ルシルは婚約解消の為に頑張っているが。」




「あーあ。レナードも酷いよな。俺を当て馬にするなんてさ。」




「ベンジャミンが動かないなら俺はロキで良いと思っていたんだ。」



 レナードの言葉に、ロキは疑わしげに顔を歪めた。



「ヴィクトリア嬢の策略に飲まれない程、ルシルちゃんを好きなベンジャミンを、レナードが手放すとは思えないけど?」



 ヴィクトリアは、ベンジャミンがルシルと上手く関われないことを知り、「ルシル様の様子を教えますわ。」なんて言いながら、ルシルの令嬢らしからぬ駄目駄目っぷりを伝えていた。



 ベンジャミンとルシルがより仲違いし、あわよくば自分がベンジャミンの婚約者の席に座ろうと画策していたのだ。だが、ベンジャミンは、どんなにルシルのやらかしを聞いても、嬉しそうにしかしていない。


 痺れを切らしたヴィクトリアはルシルに直談判した、という訳だ。それを聞いたベンジャミンがどう対応したのかは知らないが、最近ではヴィクトリアはベンジャミンに近付こうともしない。偶然、学園内でルシルに会っても、慌てて逃げていく。




「これから、どうなるんだよ?」



「ルシルはまだベンジャミンの気持ちを信じられないみたいだしな。ルシルがこのまま婚約解消を望み続けるなら、婚約解消しようと父上とも話してる。」



 レナードの言葉を受け、ロキは内心(嘘つけ!)と毒づいた。レナードとロキがいる教室の窓からは裏庭が見える。そこには、きゃあきゃあ叫びながら逃げ回るルシルと、それを追いかけるベンジャミンの姿がある。逃げるルシルは、どこか楽しげだ。




「婚約解消する気なんか無いだろ……。」



 思わず零れ落ちたロキの言葉に、レナードは笑みを見せた。









〈おしまい〉




 最後までお読みいただきありがとうございました!!




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婚約解消ですか?!分かりました!! たまこ @tamako25

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