第10話
10
「大丈夫?蒼人くん」
酷く呼吸が荒くなっていた私に、彼女は
優しく問いかけ、手を差し伸べる。
彼女に助けてもらいながら、
私は立ち上がることが出来た。
近くの公園にあったベンチに私を座らせると
彼女は自販機で飲み物を買ってきてくれた。
ずっと気まずさを感じている私とは反面、
彼女は何事も無かったかのように私に、
接してくる。
「落ち着いたみたいで良かった」
「、、」
「、、、」
いつもは安心する彼女との時間が、
今日は私の胸を締め付けてくる。
彼女が無理をして話しかけて来てるのが
ひしひしとつたわってくる。
終わらせよう、
最後はちゃんと自分の言葉で。
そう決意し、口を開く。
「あ、あの」
「やっぱり綺麗だねここからの景色は。」
いつものベンチに腰をかけ、
二人夜空を眺める。
月明かりに照らされる彼女の横顔は、
思わず見とれてしまうほど美しかった。
「初めて会った時の事覚えてる?」
彼女は星空を眺めながら続ける。
「蒼人くんが急に話しかけてきて、
正直、初めは変な子だなぁって思ってた」
私が嫌な顔をして、彼女が笑い、
それにつられて私も笑う。
「あの時はまさかこんなに
仲良くなるとは思わなかったよぉ」
こんな日々が過ごせたのは紛れもない彼女の
おかげだったと、そう強く思う。
だからこそ、
最後に彼女にこの思いを伝えたい。
その為に私にできることはきっと
1つしかないだろう。
人差し指に力を入れるだけの
簡単な作業で心動かそうとするなんて、
図々しいのはわかっている。
しかし、残念ながらこれ以上の愛情表現を
私は持ち合わせていなかった。
「あ、あの」
「最後に、、」
「紗倉さんの写真を
撮らせてください」
ベンチから立ち上がり彼女は
星空を背景にこちらを向く。
「うん、いいよ」
彼女はこちらを向いたと思うと、すぐに
笑顔になった。
カメラのレンズのに映る彼女は、
確かに満面の笑みをしていて、
星空に負けないほど美しかった。
おもわずシャッターを切りそうになる。
しかし、それより先に、
私の口からは自然と言葉がこぼれていた。
「 笑って 」
今まで出したことの無いほど大きな声で、
彼女に届くように叫ぶ。
咳が出るほどに、
この思いが、届いて欲しいという一心で。
彼女の顔を見る勇気が出ず、
咳をしたまましばらく俯いていると、
「カメラマンが、、下向いてちゃ、、、
撮れないよ」
震えた声が聞こえてきた。
彼女の方を見ると、
今にも涙が浮かびそうな表情をしている。
「紗倉さんこそ泣いてたらいい写真
撮れませんよ」
「蒼人くんのせいでしょ!」
こんなやり取りもきっと最後だろう。
だけど、最後に彼女がみせた笑顔は
本当に本当に幸せそうな笑顔だった。
「紗倉さん、撮りますよ。」
「うん、いいよ」
今にも溢れそうな涙を抑えて、
私はシャッターを切った。
「 カシャッ 」
ひと夏の眠いフィルム yusumai @yusumai
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