第8話



8


目が覚めると、カーテンの隙間から部屋に

光が刺しているのが見えた。

いつの間にか朝になっていたようだ。

紗倉さんとプランを考えてる最中に机に

突っ伏して寝てしまっていたらしい。


とりあえず紗倉さん起きてくるまで

何か出来ることはないかと立ち上がろうと

した時、ふと机に目がいった。

机の上にある物に私は見覚えがあった。

私のカメラだ。

今までなくしていることにすら気づいて

いなかった自分に驚く。

そしてなぜそのカメラがここに置いてあるのか、考えるよりも先に私はそれを手に取っていた。

カメラのモニターに7時12分、と時間が表示され机が映る。

少し薄暗い部屋の中一人カメラとの再会を

果たし、ほっとしている自分がいた。

外から子鳥のさえずりが聞こえてくる、

いつもならうるさく聞こえるそれも、

今日は何故かとても甘美にきこえた。

こんなに心地いい朝は何時ぶりだろうか。

レンズの安全を確認した私は次に、

カメラに右手を添えてフォルダーを表示する

ボタンへ親指をのばし、力を入れる。

一瞬の画面の暗転と共に画面が切り替わり、

一枚の写真が映し出される。

優しいあかりの下で一人の少年が机に、

寝そべっているのが分かる。

それが自分の写真だと気づくのに時間は

かからなかった。

自分の寝顔を見るという経験が無かった

私にとってその1枚はすごく新鮮な物だった。

これはきっと彼女がイタズラか何かで、撮ったのだろうと少し恥ずかしくなる。

少し悩んだ末、私はカメラを操作し私の寝顔を撮ったその1枚を 削除した。



カメラをカバンにしまうと、奥の部屋のドアが、空いた音が聞こえた。

「おはよぉ、蒼人くん朝早いねぇ」

あくびをしながら彼女は部屋に入ってきた。

そして彼女は直ぐに朝食を作り始めた。

トースト2枚に目玉焼きにスープ。

2人で今日の予定について話ながら

朝食を食べ進めた。その後私と紗倉さんは、

身支度を済ませ前日の夜に話していた場所へと足を進めた。


目的地に着くと多くの人で溢れかえっていた。

あまり人混みが得意じゃない私にとっては

正直少し堪えた。

人混みの中をしばらく進むと、

例の絶景が見れるスポットが見えてきた。

「ねぇねぇ!見えてきたよ!」

まるで珍しいものを見つけて、

親に自慢したくなった子供みたいに、

彼女は私に訴えかけてくる。

少しずつ景色が眼前に広がり始めると、

聞き覚えのある音が聞こえてきた。

カメラのシャッター音だ。

前に紗倉さんがカメラを苦手と言っていた事を思い出す。

私は直ぐに、彼女の顔色を伺ってみた。

しかし、彼女の顔は気味が悪いほどに

いつも道理の表情をしていた。

気にしすぎかとその事をあまり気にせず、

今はただそこに広がる景色を

楽しむことにした。


しばらくそこからの景色を堪能した後、私たちは少し離れたところで飲み物を手に休んでいた。

ごった返す人の中、二人ベンチに座り、

言葉を交わす。

「すごく綺麗だったね!」

見た目に反し相変わらず幼い子供のような

純粋な言葉で語りかけてくる。

「次の目的地まで結構距離あるし

もうちょっとだけ休んでから出発しよ?」

こくりと頷くと同時に私は、

「あ、あの紗倉さん」

彼女は少し驚いた顔をして直ぐに、

「ん?どしたの?」

と返してきた。

「少し話があるんですけど、いいですか?」

人々の足音、声、自動車の音など、

多くの雑音が響き渡る中 私たち2人の間には

確かに静寂が走っていた。

「う、うん」

見たことの無い表情をする彼女に、

少し動揺してしまったが、続ける。

「今日の予定が全部終わったら

そのまま家に帰ろうと思います。

きっと母も心配してると思うので。」

至極当然で当たり前のことのはずなのに

言うのに時間がかかってしまった。

少しの沈黙の後彼女はいつもの笑顔で

「うん、うん!そうだよね

きっとお母さんも心配してると思うし、

早く帰ってあげた方がいいよ。

家の場所は大丈夫?」

「大丈夫です。最寄り駅からなら

帰れます。」



2人並んで電車に揺られる帰り道。

もうすっかり日も沈みかけていて、

眩しい夕日が差し込んできている。

「次は〜○○○○」

私の家の最寄り駅が読まれる。

今日という日の終わりをひしひしと感じる。


電車の停止音と共に車体が大きく揺れる、

そしてゆっくりと電車の扉が開く。

「またね」

彼女は3文字だけそう告げて私との別れを

済ませた。

少し寂しかったが私からは何も言えなかった

彼女を背に足を進める。

1歩、1歩、足取りは少しずつ重く

なっていくのを感じる。

深いため息と共にホームにベルが響き渡る。

二人のお出かけの終わりを告げるように

鳴り響くベルを置いていくかのように

足を進める。


その時だった、

私は後ろから手を引かれて、足を止めた。

止めざるを得なかった。

「待って!!」

そこには私の袖を掴んで声を荒らげた、

彼女がいた。


どうやらまだ私達のお出かけは

終わらないらしい。











































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