第6話
6
高校に入学したあとも
私は人との付き合い方に悩まされていた。
決して友達がいなかったわけではなかったが、
心のどこかで良い自分を演じているのでは
ないか、カメラに映っていた頃から
何も変わっていないのではと、
時折感じる日々を過ごしていた。
いつしか私は、自分を出せるようになりたい、
演じない素の自分でありたい、と強く願うようになっていった。
しかし、無情にも時間だけが過ぎていき、
気づけば大学生になっていた。
その頃にはバイトをして貯めたお金で
よく旅行に行くようになった。
旅行をすることで自分探しの旅にでも
出たつもりになって、自分をごまかしてた。
そんなある日の事だった。
中学の友人と食事に行く機会が出来た。
私は純粋に楽しみに思う気持ちと同時に
自分が中学の頃から変われているのか
成長出来ているのかを知る良い機会だと思った。
そこで私はメイクや洋服に気を使い、
待ち合わせの場所に足を進めた。
「紗倉は変わってないね」
薄々自分でも気づいていた事実でも実際に
言語化されると少し心にくるものがあった。
自分の周囲の人間は少しずつ変わっている、
自分だけが、中学の頃に取り残されている
ような、孤独感を覚える。
このまま演じ続ける人生を送り、
本当の自分を出さないまま死んでいくのだろうか。
友人との食事を済ませたあと公園のベンチに
座りながら私はそんなことを考えていた。
そんな時だった、彼と出会ったのは。
初めは、特に何か特別な意図はなく、
ただ少し、誰かと話したかっただけだった。
会話を重ねていく、と言うよりかは、
一方的に質問していたようにも思える、
その時間は何故だか嫌な気持ちはなかった。
「写真のどんなところが好きなの?」
自分でもなぜ初対面の少年にこんなことを
聞いたのか分からない。
こんなことを聞いてもなんの意味もないのは
自分でも分かっているはずなのに、
深夜テンションからか、気づいた時には
口から言葉が出ていた。
彼からの回答、それは1枚の写真だった。
昔の1件から私はカメラに関することが
あまり好きではなかったため、
いい気分にはならなかった。
この公園のここからの景色が映る1枚、
一人の女性がこちらを向いて微笑んでいる
のが分かる。
昔、母は良く私の写真を撮っていた。
子役として演じている私の姿、
それらからは感じられなかった、
温かさ、優しさがこの1枚からは
溢れ出て来ていた。
羨ましかったのか、
悔しかったのか悲しかったのか、
私にも分からない、けど、
気づいた時には私の目からは、
涙が零れ落ちてきていた。
この日この1枚を見た時、
彼といたその瞬間だけは、あの心の寂しさが
少し埋まった、そんな気がした。
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