第2話



2



北海道の美瑛の丘で見た星空

あまりの美しさに唖然としていた

そんな私を現実に引き戻してきたのは

カメラのシャッター音だった。


私はカメラが嫌いだ。

撮られるのも撮るのも嫌いだ。

実際に自分の目で見て、その瞬間に

肌で感じるものこそ本物だと私は思う。

あんな小さな箱に刹那の感動は

入るわけが無いだろう。


自宅に帰ったあとネットで

北海道 美瑛の丘 星空

と検索して出てきた画像からは

あの瞬間私が味わったものは微塵も感じない。

あの瞬間にしかない喜怒哀楽がある、

そう信じている。

どうせみんな自己満足の為だけに写真

を撮ってるに決まってる。

写真を撮ったという達成感に浸ってるだけだ

そんなことを考えながら、

溶けるように布団に入る。

まだ私の中にはあの夜空の感動

が微かに残っているように感じた。




体が鉛のように重く感じる。

昨日シャワーに入らずに眠りについた

自分に嫌気がさす。

とりあえずシャワーに入り、この嫌悪感

をどうにかした後、くしゃくしゃの袋に入った6枚切りの食パンから1枚つまみオーブンに入れ、

お湯を沸かす。

軽く朝食を済ませた私は、スマホを開き

目的地への経路を確認していた。

今日は中学の頃の友人と食事に行く

約束をしていた。

少し普段よりメイクや洋服には

気合を入れて家を軽やかな足取りで出た。


「久しぶりー!!」

突然の出来事で少し困惑した。

なんなら最初赤の他人に急に話しかけられた

そんなシチュエーションに出くわしたと

勘違いしたほどだ。

あまりにも容姿と雰囲気が変わりすぎて

いて少し戸惑い返事を返すのに

少し時間がかかった。向こうは私のことを

すぐに見つけられた様子で、自分が惨めに見えた。

「紗倉は昔から変わらないね」

昔からやってたその気まずい時にやる

頬の当たりを掻く仕草は変わってない。

「麻由は変わりすぎ」

少しはにかんで彼女へ言う。

中身は昔と変わってない麻由と私は

しばらく楽しく談笑を続けた。

ひと段落着いたところで麻由が話を

切り出してきた。

「ねねっ!この写真見てよ」

そこにはシュッとした体型の顔の整った

男性と麻由が写っていた。

麻由はきっと私に褒めて欲しいんだろうな

なんて考えながら私は答える。

「すごいかっこいいね、彼氏?」

「うん!大学の先輩!」

餌に食いつく犬みたいに麻由は話を始めた

その後麻由はしばらくその先輩との

話をしていたが何を話していたかは

ほぼ覚えていない。

気づいたら夕方になっており

麻由と別れた私は駅の方へ足を運び出した。

夕日が輝いて顔に当たり、

凄く、鬱陶しかった。



駅への道、私はふと公園を立ち寄った。

木々が生い茂っている公園で、大きな広間があり、多くの人で賑わっていた。

とりあえず近くにあったベンチに腰をかけ

しばらくボーッとしていると、

ショルダーバッグを肩にかけた高校生ぐらいの、男の子が階段を登るって行くのが

見えた。あまり気にとめず私はしばらく公園の雰囲気を堪能していた。


気づくと辺りはすっかり暗くなってしまって公園には人気が無くなっていた。

そろそろ帰るかと思った時 ふと、

あの男の子の事が頭をよぎった。

こんな時間になるまで上から降りてこない

ことを不思議に思った私は、

何かあったのではないかと少し疑念を抱き

背筋が冷たくなるのを感じた。

私は好奇心と心配から、

上への階段へと足を運んでしまった。

暗く、長い階段を歩いている内に

何してんだろう私と嫌になってくる。

しかし結局足を進めた。

すると少し開けたところに出た。


私を眩しい光が優しく照らす。

目に飛び込んできた景色が私を魅了

するのに時間はかからなかった。

今まで考えていた邪念が嘘のように晴れる。

前方には美し町並みそして何より

空を見上げると、美しい星々。

あの美瑛の丘で味わった感動を彷彿

とさせる風景に、言葉が出ない。


「 カシャッ 」



珍しい来客に少し驚いた私は思わず

話しかけてしまった。

「あ、あの。」

戸惑っている様子のその女性は

どうやら上に行ったきり戻ってこない

私を心配してここまで来てくれたらしい。

少し困惑したものの悪い人でもなさそう

だったので近くにあったベンチに2人腰を掛けた。しばらくすると彼女が口を開いた。

「ここ、よくきてるの?」

大人らしい低く落ち着いた声のトーンで

話してくるその女性を前にして、

今更になって緊張してきた私は

少し小さめな声で言った。

「平日は基本いつもここで写真を、」

「だめだよこんな時間まで1人で出歩いて」

「君、名前はなんて言うの?」

「蒼人(あおと)って言います」

「蒼人君はさ、こんな時間まで撮影するほど写真撮るのが好きなの?」

少しドキッとしてしまった。

好きという単語に反応した

自分の初さが恥ずかしくなる。

「は、はい昔からずっと」

「父が昔から写真を撮っていてその影響で」

女性はこっちを見つめて時々頷きながら

話を聞いている。

すると彼女は突然、

「蒼人君はさ写真のどんなところが好きなの?」

さっきより深くそれでいて優しい声で

問いかけてきた。

返答に困っている私に対して

突然我に返ったかのように女性は

「ごめんね急に変な事聞いて

そんなこと言われても困るよね。」

と吐くように言う。

時計の針は11時を周り星空は

私と彼女をを美しく照らしている。

「そんなことないですよ

言葉にするのは難しいけど」

「この写真を見てもらえれば

伝わるかも知れません」

そう言って私はおもむろにカバンから一枚の

写真を取り出す。

「私の父が昔ここからの景色を背景に母を

撮った写真です。」

スマホのライトを当てて

しばらく彼女はその写真を眺めたあと

「すごくキレイ、、

まるで、、まるでほんとにそこに

生きてるみたいな。」

透き通るような声で話す彼女は確かに目に

涙を浮かべていた。


日付を跨いだ頃、

春の特有のそよ風が頬に触れたのを感じた。

とても心地良い。















































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