第6話 新しいフリンク村【サイド回】
第5話の最後少し変えました
◇
【村人サイド:フィン】
魔王様にすくわれてから、この村もすっかりかわった。
全体的に、みんな明るくなった。
なにせ、今のこの村には自由がある。
なにより大きいのは、恋愛が自由だということだ。
今まで、若い女性はみな村長のものだった。
村長が飽きたり、見た目が悪かったり、少し歳の行った女性しか回ってこなかったのだ。
しかも、決して自由恋愛による結婚なんかはなかった。
毎年、村長が儀式の時期になると、適当に「お前とお前ー!」といって、決められた二人が子供を作るのだ。
それも、決して愛ある結婚生活など送れない。
そもそも男たちは普段鉱山に寝泊まりしているし。
子供を産んだ女は不要だからと、子育てが終わると50になる前に捨てられたりした。
子供からは引き離され、ほぼ会えない。
それに女とも、子供を作るだけで、ほとんど会ったりなどはできなかった。
今になって思うが、ほんとうにあの村は狂っていた。
因習が因習を呼び、雁字搦めになっていた。
つくづく、あの村長は死んでよかったなと思っている。
今頃、地獄でとことん苦しんでいてほしい。
いや、魔族に殺されたのだから、きっとそうだ。
魔族に殺されると、地獄にいくというのは、この世界の宗教観における常識だ。
これはほぼどの宗教でも違いない。
魔族に殺されたものは地獄で永遠の苦しみを味わうのだ。
だから、魔族は恐れられていた。
きっとあの村長も、ろくな目にあっていないだろう。
自由恋愛が解禁されたことで、私にも彼女が出来た。
名前はクリムという。
年下の、かわいらしい子だ。
タイミングがよかったようで、クリムはまだ村長に手をつけられていないのだという。
俺は、彼女のことを精いっぱい守っていこうと思う。
他の男たちも、自由を謳歌していた。
これまで娯楽を禁じられてきたから、その反動が大きい。
まず、酒が大流行した。
これまで禁じられてきたから、みんな一気にタガが外れた。
アルコール依存症まっしぐらだ。
だけど、みんなそんな自由を謳歌していた。
これまでは、アルコールにおぼれることすらも許されていなかったのだから。
そして、女のいないさみしい男たちは、みな隣町までこっそりと出かけていった。
そう、風俗、娼館である。
鉱山での働きに応じて、私たちには給料が支払われている。
そのおかげで、こうして自由に金を使うことができるのだ。
しかもなんと、毎日10時間労働だけではない。
我々には、今や休日というものがあるのだ。
生まれてこのかた、休日という概念など知らなかった。
だが、今では毎週、日曜日だけは休日となっているのだ。
魔王様曰く、「だってそのほうが効率がいいから」だそうだ。
魔王様の考えは高尚すぎて、よくわからない。
だが、神のようなお考えであることだけは確かだ。
実際、我々のモチベーションは過去最高に高かった。
みな、鉱山での仕事にやりがいを感じていたし、どんどん成績をあげようとがんばった。
鉱山には、付与術専門の魔族が配属されている。
彼らはエルダーエルフという種族らしい。
エルダーエルフのみなさんは、我々に付与術をかけて、バフをしてくださる。
それも、かつてもドーピングのような悪いものではない。
エルダーエルフの魔力を使ってバフをするので、我々に一切負担はかからない。
まあ、多少の筋肉痛になったりするだけだ。
むしろ身体を動かすことで、よく眠れるので、願ったりかなったりだ。
中には、どんどんバフをかけてほしいと懇願する村人も現れた。
他の村人よりも成果を上げると、ボーナスがもらえるので、みんな躍起になってるのだ。
「ほらもっと……! もっとバフをかけてくださいいいいいい!!!!」
そう懇願する村人に、エルフはあきれ顔を返す。
「えぇ……これ以上やると、明日に響くよ? かなり身体キツイけど、大丈夫……?」
「いいんです! もっと働けます! バフきもちいいいいいいい!!!!」
「えぇ……」
エルフのみなさんはドン引きだった。
だけど、前のドーピングに比べたら、こんなのどうってことない。
我々は、もっと魔王様に恩返しするためにも、もっと働きたかったのだ。
ある日、みんながオルグレン様に呼び出された。
「あのな……お前ら……もっと休め」
「えぇ……!? 俺たち、まだまだ働けます……!」
「馬鹿者……! 身体を壊されたら、俺が魔王様に怒られる……! あの御方は、過労死にはとことん厳しいからな……。前に魔王城で部下を過労死させたやつが、打ち首にあったんだ。ということで……お前たちの頑張りをしょうして、特大ボーナスを出す! これで一週間のあいだ、好きにバカンスを楽しんでこい!」
「えぇ……!? 一週間も休みを頂けるんですかぁ!?」
これにはみんな、大喜びだった。
せっかくもらったボーナスを、娼館やカジノで散財するものもいた。
だが、こんなバカなことも、以前はすることさえできなかった。
失敗やバカな行為も、それすらも許されていなかったのだ。
そういった行為を自由にできることこそ、それこそが本当の自由なのだと、私たちは改めて実感した。
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