第6話 新しいフリンク村【サイド回】

第5話の最後少し変えました





【村人サイド:フィン】


 魔王様にすくわれてから、この村もすっかりかわった。

 全体的に、みんな明るくなった。

 なにせ、今のこの村には自由がある。

 

 なにより大きいのは、恋愛が自由だということだ。

 今まで、若い女性はみな村長のものだった。

 村長が飽きたり、見た目が悪かったり、少し歳の行った女性しか回ってこなかったのだ。

 しかも、決して自由恋愛による結婚なんかはなかった。

 毎年、村長が儀式の時期になると、適当に「お前とお前ー!」といって、決められた二人が子供を作るのだ。

 それも、決して愛ある結婚生活など送れない。


 そもそも男たちは普段鉱山に寝泊まりしているし。

 子供を産んだ女は不要だからと、子育てが終わると50になる前に捨てられたりした。

 子供からは引き離され、ほぼ会えない。

 それに女とも、子供を作るだけで、ほとんど会ったりなどはできなかった。


 今になって思うが、ほんとうにあの村は狂っていた。

 因習が因習を呼び、雁字搦めになっていた。

 つくづく、あの村長は死んでよかったなと思っている。

 今頃、地獄でとことん苦しんでいてほしい。

 いや、魔族に殺されたのだから、きっとそうだ。


 魔族に殺されると、地獄にいくというのは、この世界の宗教観における常識だ。

 これはほぼどの宗教でも違いない。

 魔族に殺されたものは地獄で永遠の苦しみを味わうのだ。

 だから、魔族は恐れられていた。

 きっとあの村長も、ろくな目にあっていないだろう。


 自由恋愛が解禁されたことで、私にも彼女が出来た。

 名前はクリムという。

 年下の、かわいらしい子だ。

 タイミングがよかったようで、クリムはまだ村長に手をつけられていないのだという。

 俺は、彼女のことを精いっぱい守っていこうと思う。


 他の男たちも、自由を謳歌していた。

 これまで娯楽を禁じられてきたから、その反動が大きい。

 まず、酒が大流行した。

 これまで禁じられてきたから、みんな一気にタガが外れた。

 アルコール依存症まっしぐらだ。

 だけど、みんなそんな自由を謳歌していた。

 これまでは、アルコールにおぼれることすらも許されていなかったのだから。


 そして、女のいないさみしい男たちは、みな隣町までこっそりと出かけていった。

 そう、風俗、娼館である。

 鉱山での働きに応じて、私たちには給料が支払われている。

 そのおかげで、こうして自由に金を使うことができるのだ。

 しかもなんと、毎日10時間労働だけではない。

 我々には、今や休日というものがあるのだ。


 生まれてこのかた、休日という概念など知らなかった。

 だが、今では毎週、日曜日だけは休日となっているのだ。

 魔王様曰く、「だってそのほうが効率がいいから」だそうだ。

 魔王様の考えは高尚すぎて、よくわからない。

 だが、神のようなお考えであることだけは確かだ。


 実際、我々のモチベーションは過去最高に高かった。

 みな、鉱山での仕事にやりがいを感じていたし、どんどん成績をあげようとがんばった。


 鉱山には、付与術専門の魔族が配属されている。

 彼らはエルダーエルフという種族らしい。

 エルダーエルフのみなさんは、我々に付与術をかけて、バフをしてくださる。

 それも、かつてもドーピングのような悪いものではない。

 エルダーエルフの魔力を使ってバフをするので、我々に一切負担はかからない。


 まあ、多少の筋肉痛になったりするだけだ。

 むしろ身体を動かすことで、よく眠れるので、願ったりかなったりだ。

 中には、どんどんバフをかけてほしいと懇願する村人も現れた。

 他の村人よりも成果を上げると、ボーナスがもらえるので、みんな躍起になってるのだ。


「ほらもっと……! もっとバフをかけてくださいいいいいい!!!!」


 そう懇願する村人に、エルフはあきれ顔を返す。


「えぇ……これ以上やると、明日に響くよ? かなり身体キツイけど、大丈夫……?」

「いいんです! もっと働けます! バフきもちいいいいいいい!!!!」

「えぇ……」


 エルフのみなさんはドン引きだった。

 だけど、前のドーピングに比べたら、こんなのどうってことない。

 我々は、もっと魔王様に恩返しするためにも、もっと働きたかったのだ。


 ある日、みんながオルグレン様に呼び出された。


「あのな……お前ら……もっと休め」

「えぇ……!? 俺たち、まだまだ働けます……!」

「馬鹿者……! 身体を壊されたら、俺が魔王様に怒られる……! あの御方は、過労死にはとことん厳しいからな……。前に魔王城で部下を過労死させたやつが、打ち首にあったんだ。ということで……お前たちの頑張りをしょうして、特大ボーナスを出す! これで一週間のあいだ、好きにバカンスを楽しんでこい!」

「えぇ……!? 一週間も休みを頂けるんですかぁ!?」


 これにはみんな、大喜びだった。

 せっかくもらったボーナスを、娼館やカジノで散財するものもいた。

 だが、こんなバカなことも、以前はすることさえできなかった。

 失敗やバカな行為も、それすらも許されていなかったのだ。

 そういった行為を自由にできることこそ、それこそが本当の自由なのだと、私たちは改めて実感した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る