第7話 奴隷の街イクィシェント
次の土地を征服しにむかう前に、フリンク村にいくらかの戦力を置いておくことにする。
『ファンタジック・コンクエスト』のセオリーは、征服した土地に軍を置くことが大事だ。
そうすることで、レジスタンス、反逆軍の反乱を阻止することができる。
まあ、今のところフリンク村の連中は逆らってくる感じはなさそうだが……。
軍を村に置いておく意味は、反乱を阻止するためだけじゃない。
この世界の勢力は、大きく魔王軍と帝国軍に二分する。
フリンク村をそのままほうっておけば、帝国軍がやってきて再び人間に征服されかねないからな。
だから、村の防衛も大事になってくるのだ。
俺は村にゴブリンの軍団を常駐させることにした。
ゴブリンたちの指揮は、オークのオルグレンがやってくれる。
さて、ここで問題になってくるのは、次の土地を攻め入るときには、オルグレンの部隊の力は借りられないということだ。
征服する土地を拡大していくには、それにともなって戦力も拡大していかねばならない。
一応、魔王軍の首都で練兵はしているが、間に合うかどうかだな……。
とまあ、そんな感じで『ファンタジック・コンクエスト』のゲーム性は奥が深い。
次に俺が征服することにしたのはイクィシェントという街だ。
先に潜伏していた斥候兵の話によると、街長のスパム・メルロイアという男が支配しているらしい。
つまり、そのスパムを倒せば勝ちだ。
俺は夜明けとともに、進軍を開始した。
イクィシェントというのは少々特殊な街で、大量の奴隷が住んでいる。
俺がこの街を攻めようと思った理由の一つが、そこだ。
イクィシェントを征服し、大量の奴隷が手に入れば、それは大きな労働力となる。
まさに悪逆非道の作戦だ!
「うおおおおお! いけええええええ!」
俺は魔王軍に命令を出す。
魔王軍は一斉に、イクィシェントの街になだれ込む。
今回作戦の中心に立てたのは、デュラハンのギルドという男だ。
ギルドの指揮で、モンスターたちが一斉に進軍する。
「どうだ、ギルド。戦況は」
「ふん、他愛もないですな。所詮、相手は奴隷です。戦闘奴隷もいるとはいっても、みな自分の意思では戦っていない。そんな連中にわが軍が負けるわけがありません。剣に込める思いのない連中には、負けませんよ」
「そうか」
ギルドは、昔ながらの誇り高き戦士といった感じのやつだった。
そんなギルドからすれば、奴隷などは軽蔑の対象なのだろう。
戦いとは、自らの意思で剣に魂を込めてこそ、というのが彼の考えだ。
だが、この街のほとんどの戦力は奴隷だ。
戦闘奴隷といって、戦闘に特化した奴隷たちが主な戦力なのだが、それでもやはり、ギルドの軍にはかなわないだろう。
奴隷は無理やり奴隷紋で操られて戦っている。
まあ、奴隷紋の拘束力は強大だ。
だから奴隷も、必死に命がけで戦っている。
それは本当だ。
だが、やはりその剣に込める思いは、逃げたいだとか、もう戦いたくないとか、死にたくないとか、そういった消極的な思いだろう。
これはあくまでオカルトだが、やはり剣に込める思いは強いほうがいいのだろう。
俺も、ギルドの考えにはおおむね同意する。
「よし、ではそろそろ、敵の大将を討ちに、私が出ましょう。部下たちに任せていては、らちがあかない」
「そうか、頼んだぞ」
「はい、お任せください」
そういってギルドは、戦いの中に身を投じていった。
部下たちが戦っているのを見ると、抑えきれなかったのだろう。
ギルドはそういう男だ。
あいつに任せておけば、時期にこの街も落ちるだろう。
そうなれば、大量の奴隷たちはすべて俺のものだ……!
「はっはっは……!」
◇
【サイド:ギルド】
魔王様を後衛に置いて、私は前線に繰り出した。
敵の大将、スパム・メルロイアを討つために、街の中央部へ。
「ふはは、敵の大将は私がとる!」
やはり戦場で一番の手柄といえば、敵の大将を討つことだ。
魔王様に少しでも認めてもらいたい一心で、私は敵をなぎ倒していった。
「ふむ、ここか……!?」
私は壁を壊し、なにやら部屋に突入する。
しかしそこは、町長の部屋などではなかった。
「牢屋……?」
そこは牢屋になっていた。
牢屋には、屈強な男が一人、繋がれていた。
「ぐぎぎぎっぎぎぎぎ……うがあああ……!!!!」
男は呻き声を上げている。
男の両腕は血だらけで爛れ、使い物にならなくなっていた。
だが、その筋肉のつき方をみればわかる。
この男は、とても優れた剣士であると。
この男、繋がれてはいるが、この男もこの街の奴隷なのだろうか。
面白い……興味が湧いてきた。
普段の私であれば、こんな男、すぐさま殺し、放っておくのだが。
この男、いい目をしている。
なにか復讐に狩られた、そんな目をしている。
なにかの使命を宿した目だ。
「ふふふ……いいぞ、その目。私は好きだ」
こういう目をしている男のふるう剣には、魂が宿る。
こういう男と手合わせしてみたいものだな。
「うがあああ……!!!!」
「お前、まだ死ねぬのだな? やるべきことがあるのだな。よかろう、私がその鎖、断ち切ってやろう……!」
私は、男がつながれている鎖を剣で斬り裂いた。
そして男の奴隷紋に、魔法をかける。
魔法で、男の奴隷紋を一時的にはがしてやった。
「うがああああ……! あんた……なにもんだ……」
「そんなことはどうでもいいだろう。お前はお前のやるべきことを成せ」
「俺の……やるべきこと……。スパム……スパムを……殺す……!」
「ふはは、そうか、お前を繋いだのは町長スパムか。面白い。私とどちらが先に町長を見つけ殺すか、勝負といこうじゃないか……!」
どうやらこの男、スパムにそうとうな恨みがあるらしい。
奇しくもターゲットが同じとはな。
ここは面白い、この男を野放しにして、どうなるかようすをみよう。
どのみち、スパムが死ねばこの街は落ちるのだ。
まあ、先に倒すのはこの私だがな……!
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