第4話 新しい統治【サイド回】
【村人サイド】
私の名はフィン。
姓などはなく、ただの村人のフィンだ。
生まれてこのかたフリンク村の外を、ほとんど知らない。
この村は酷い村だった。
ほぼイカレた村長による独裁政治。
私は村長を心から恨んでいた。
髪を引っ張られてめちゃくちゃに暴行された。
あの惨めさは忘れない。
妹は村長に手籠めにされて、私のもとからは引き離された。
村長の悪行を、私は一度たりとも許したことはない。
今はただ、はやくこの悪夢から解放されたいだけだった。
そんな村に、ある日一筋の光が差した。
魔王ディバルディアス率いる魔王軍が、なんとこの村に目をつけたのだ。
魔王軍はすぐにやってきて、村を蹂躙した。
私たち村人は村長など守る気がなかったから、士気は低かった。
そして村長が追い詰めらたとき、私は勇気を出して叫んだのだ。
「ここに村長がいるぞおおおおおおお!」
その言葉を皮切りに、村人たちは一致団結。
みなで村長の逃げ道を封じ、村長は魔王軍によって討ち取られた。
生き残るためには、仕方のないことだった。
内心、村長が死んだことに私はほくそえんでいた。
ようやく、あの苦しかった日々から解放される。
そう思うと、今は魔王軍に負けたことなどどうでもよかった。
魔王軍に支配されれば、私たち村人は殺されてしまうのだろうか。
それとも、奴隷としてこきつかわれて、地獄のような目にあうのだろうか。
今はどっちでもいい。
ただ、あの村長が死んだことを心からよろこびたかったのだ。
それは、他の村人たちも同じ思いだろう。
だがしかし、実際はどっちでもなかった。
魔王軍による統治は、素晴らしいものだったのだ。
今だから言える。
魔王ディバルディアスは、私たちにとって、神のようなお方だった。
いや、実際、神にすら見えたのだ。
魔王は私たちのもとへやってきて、言った。
「クックック。よし! まずは男どもは一日10時間の労働だ……! 鉱山でしっかり働いてもらうからな……!」
「えっ…………!?」
私は、耳を疑った。
なんと、鉱山での労働が、たったの10時間でいいというのだ。
あの恐ろしい魔王軍から、どんな言葉が発せられるのかと怯えていたが、まさかこんなこととは……。
今まで、前の村長のときは無理やり、薬物を接種させられて、16時間も働かされていた。
ほとんど寝ることができずに、休みも娯楽もなかった。
もちろんお金だってもらえない。
鉱山で得た利益はすべて、村長が私利私欲のために使っていたのだ。
我々に与えられるのは、最低限の水とパン。
それから硬い床の寝床だけだった。
一応寝れるには寝れるが、ほとんど寝た気がしない。
硬い床に冷たい部屋、布団は嘘のように薄かった。
身体は痛むし、全然疲れが取れない。
それなのに、薬のせいで身体は動く。
自分でも、刻々と寿命が縮まっているのがわかった。
そして魔王は、それどころかさらなるうれしい言葉を言ってくれた。
「……よ、よしじゃあ、必要数の鉱石が取れたら、9時間で勘弁してやろう。鉱石が増産できたら8時間だ!」
「あ、あの、本当に夜は働かなくていいんですか……!? 寝てもいいんですか……!?」
信じられなかった。
まさか、労働時間が8時間にまで減るだと……!?
そんなの、嘘のような出来事だ。
だって、今までの半分だぞ……!?
ありえるのか、そんなこと。
「当たり前だろ? だって、そんなの効率が悪いじゃないか。働きっぱなしは効率の面からいっても最悪だ。もっとちゃんと休んだほうがいいからな」
「ありがとうございます!」
「えぇ……?」
私は、心の底から礼を言っていた。
魔王ではなく、このお方は神なのだと、そう思った。
「あと、それから……報酬は2割でいいか……?」
「え……? な、なんのことでしょう……?」
「いやだから、給料として支払う額だよ。鉱山で得た利益の8割は魔王軍で持って行く。だから残りの2割を村で使ってくれ。それでいいか……?」
「そ、それは……ほんとうですか……!?」
これまた、信じられなかった。
だって、今まで無報酬で働いていたんだぞ……!?
それが、2割も貰えるだって……!?
鉱山の利益の2割といったら、それこそかなりの額になるぞ……!?
しかも自由まで約束されているとなると……。
嘘だ……。
これじゃあまるで天国だ。
「不満か? だったら、4割でどうだ? これ以上はまけられない。これならいいだろう?」
「は、はいぃ…………」
私は、くらくらして、その場に倒れてしまいそうなほどだった。
頭がおかしくなりそうだ。
さっきから、こちらの常識がことごとく通用しない。
このお方は、なにを言っているのだろうか。
このお方には、私利私欲などないのだろうか。
きっと、人の上に立つには、こういう人が本当は最適なのだろうなと思った。
それから、魔王様は女性たちにも優しくしてくださった。
決して女性を襲ったりはせず、ゴブリンたちの慰み者にすることもしない。
女性たちにはキツイ仕事はさせずに、裏方仕事を任せてくださる。
なんと優しい人なのだろうと思った。
村長に囲われていた女性たちはみな、それぞれの家に帰された。
みんなは久しぶりの家族の再会に涙していた。
そしてなにより驚いたのが、学校をつくってくださったことだった。
子供たちのために、学校を作ってくださったのだ。
「子供は働かなくていいんですか……?」
ときくと。
「当たりまえだろ? それより、子供のうちは教育させたほうが効率がいいからな」
とおっしゃってくださったのだ。
なんと、神のような人なのだろう。
征服した土地の子供を、働かせるのではなく教育まで施してくださるなんて……。
今だけでなく、未来を見据えた統治。
頭が下がる思いだった。
そして、村を直接統治するのは、オークのオルグレン様だった。
オルグレン様も、ものすごく優しいお方だった。
最初はその見た目から、怖がるものも多かった。
だが、オルグレン様はあの忌々しい村長と違って、決して手を上げたりしなかったのだ。
子供がはしゃいでオルグレン様にぶつかってしまったときも、倒れた子供に、優しく手を差し伸べておられた。
「怪我はなかったかい……?」
「は、はい……!」
そんなふうに、村は魔王様にすくわれて、だんだん変わっていった。
私は、一生を魔王軍に捧げるつもりだ。
もし帝国軍が攻めてきても、魔王様のためにこの命なぞ投げ出すつもりでいる。
それは、他の村人たちも同じことだろう。
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