第3話 やべえ村かもしれない

 

「クックック。よし! まずは男どもは一日10時間の労働だ……! 鉱山でしっかり働いてもらうからな……!」

 

 俺は村の男どもを、奴隷としてこきつかうべく、そう命じた。

 前世の俺は1日最低14時間は働いていた。

 つまり、人間は14時間働くとすぐに死ぬ。

 だからといって、魔王軍と同じ8時間労働だと舐められるだろうからな。

 そこで、10時間の労働というちょうどいい締め付け具合を選んだ。


「えっ……!?」


 村人たちは困惑の表情を浮かべている。

 ⋯⋯ヤバい。

 ちょっと多すぎたか?

 征服してすぐ反乱とかされたら非効率だしな⋯⋯。

 

「……よ、よしじゃあ、必要数の鉱石が取れたら、9時間で勘弁してやろう。鉱石が増産できたら8時間だ! これでどうだ!?」

「あ、あの、本当に夜は働かなくていいんですか……!? 寝てもいいんですか……!?」


 などと、村人たちは信じられないといったふうに俺のことを見つめてくる。

 どういうことだ……?

 意味が分からない……。

 夜に働くなんか非効率だろう。

 こいつらはなにを言っているんだ……?


「当たり前だろ? だって、そんなの効率が悪いじゃないか。働きっぱなしは効率の面からいっても最悪だ。もっとちゃんと休んだほうがいいからな」

「ありがとうございます!」

「お、おう? しっかり働けよな!」


 鉱山奴隷を命じた男たちは、恍惚の表情を浮かべている。

 そしてなんと、俺にお礼まで言ってくるのだった。

 は…………?

 なんだか話がかみ合わないんだけど……?

 まあいいか。

 戦争に負けたショックで、頭がどうにかしてしまったらしい。

 かわいそうに……。


「あ、あと、それから……報酬は2割でいいか……?」

「え……? な、なんのことでしょう……?」

「いやだから、給料として支払う額だよ。鉱山で得た利益の8割は魔王軍で持って行く。だから残りの2割を村で使ってくれ。それでいいか……?」

「そ、それは……ほんとうですか……!?」


 うん?

 もしかして、これでも足りないのかもしれない。

 前の村長のとき、いくらもらってたのだろうか。

 しょうがない、彼らのやる気を出すためだ、もう少し譲歩してやることにしよう。

 

「不満か? だったら、4割でどうだ? これ以上はまけられない。これならいいだろう?」

「は、はいぃ…………」


 まあ少ない金額だが、我慢してもらうしかない。

 魔王軍を運営していくにも金がいるからな。


 その後、俺は鉱山を視察し、目に付いた非効率な労働部分に改善案を施す。

 魔法が得意な魔族を派遣し、身体強化させて作業させる事で現場鉱夫をローテーションさせて効率化したり、土魔法が得意な奴に落盤を防止させたり、だ。

 これは優しさではなく、効率化だ。

 いちいち怪我人や逃げ出す奴が現れたら非効率だからな!


 俺は次に、女どもに命令を下す。


「お前たちは毎日の食事の準備と農作業を命じる。男どもが働けるように、サポートするんだ。休むことは許さんぞ……! 男どものほつれた作業着を縫うのもお前らの仕事だ……!」


 俺がそう命令すると……。


「は、はい。わかりました。ですが、ほ、ほんとうにそんなのでいいのですか……?」

「うん……? そう言ってるだろう」

「いえ、一応……確認をと思いまして……」

「やけに用心深いな……?」


 マジで、なんなんだこいつら……?

 話が通じないというか……?

 うん?

 もしかして、もっと過酷な労働を希望しているのか?

 この世界の人間ってとんでもないドMなのか?


 それから、俺は子供たちにも用者はしない。

 女子供は殺さないとは言ったが、それでも遊ばせておくつもりはないからな。

 子供も重要な駒であり、人的資源だ。

 なんたって俺は、悪逆非道の魔王さまなのだからな……!

 このくらいの悪行は、当然のことだ。


「おい子供たち……! お前たちには今日から教育係がついて、みっちり教育してやるからな……! 覚悟しておくんだな! 遊ぶ時間などないと思え……!」

 

 俺は村に学校を建てた。

 そして知能の高い魔物を配属し、子供たちに地獄のスパルタ教育を施す。

 子供たちは将来役に立つからな。

 今のうちからいろいろ教えておくことで、魔法士官なんかにもなれるだろう。

 大人は肉体労働に使うが、子供たちはちゃんと教育して、さらに有効活用したいからな。


「あ、ありがとうございます……」


 子供たちは、俺にお礼を言ってきた。

 その目はひどく怯えている。

 ふふ、俺に殺されるのが怖くて、しぶしぶお礼を言ってきたのだろう。

 健気な子供たちだ。

 これから先、遊べる時間などないというのにな……!


 そしてこの村の今後の統治は、オークのオルグレンに任せることにした。

 必要事項をオルグレンに伝え、俺は次なる作戦を立てることにする。

 オルグレンには厳しくするように伝えたからな。

 村人たちは魔族の恐怖におびえながら、せいぜい馬車馬のごとく働いてもらおう。


 しばらくして、オルグレンが優しいとの評判が、村人たちからきこえてきたが……。

 あいつ、どんな政治をしているんだ?

 まさか村人になめられているんじゃないだろうな?

 俺はオルグレンを呼び出して問い詰めた。


「おい、オルグレン! どうなっている。お前、舐められているんじゃないのか?」

「い、いえ……私はしっかり、怒鳴りつけているつもりなのですが……。一般の人間は脆いですから、殴ったりするわけにもいきませんし……」

「はぁ……どうなってるんだ……? 頼むからしっかりしてくれよ。俺は新しい領地を占領しにいくのに忙しいんだ」

「はい……すみません……がんばります……」


 まあいい、俺はこれからも、悪逆非道の限りを尽くして人間どもを搾取するだけだ。

 俺は俺の破滅フラグ回避のために、貴様らを全力で利用する……!

 

「ふわああああはっはっはっはっはっは……!!!!」


 山間の村に、俺の高笑いが響いた。

 

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