第6話

「どういうこと?経緯を説明してよ!…アズール!」


アズールはサフィの叫び声にようやく冷静さを取り戻し、ウルジュを床に叩きつけたまま動きを止めた。サフィは慌ててウルジュのもとへ駆け寄り、彼の状態を心配しながら優しく彼を抱きしめた。


「大丈夫、ウルジュ。ねぇ!!…目を覚まして…」


しかし、ウルジュは意識を失っており、呼びかけには反応しなかった。サフィは心配そうに顔を上げ、アズールに対して厳しく声を張り上げた。


「ねぇ何があったの?黙ってないでなにか言ってよ!!、どうしてここまでするの?」


アズールは困惑した表情でサフィを見つめながら、ウルジュから離れると手が震えながら何かを取り出した。それはウルジュが偵察していたメモだった。彼はメモをサフィに手渡し、口を開いた。


「これは…ウルジュが落としたものです。中身を確認してみてください。」


サフィはメモを受け取り、目を細めながら内容を読み始めた。その瞬間、彼女の表情が一変した。驚きと困惑が入り混じった表情を浮かべては、少しずつ冷静になるとアズールに目を向けた。


「だからって…そこまでする必要はないでしょ…少しは力加減考えたらどうなの?」


ソフィはアズールの顔を背けては、ウルジュの治療を促すように侍女に伝えた。


外は暗くなり、月光が部屋を照らし出す中、寝室の扉がゆっくりと開かれた。サフィがそっと中に入り、月の光に照らされて寝ているウルジュの姿が目に飛び込んできた。彼の顔はまだ苦痛と疲労が残っていた。


サフィは心配そうにウルジュの頬を優しく撫でながら、深いため息をついた。彼の無力な姿を見る度に、心の中で怒りと悲しみが入り混じった感情が湧き上がってきた。


しばらくの間、彼女は静かに彼のそばに座り続けた。彼の顔に触れる温もりを感じながら、夜の静けさが二人を包んでいった。


「ウルジュも十年でこんなに大きくなるなんて…びっくり、忘れていたのはちょっとショックだなぁ…でも当時はそれどころじゃなかったかな…」



* * *



「敵襲!!…敵襲!!…くそっ!!…下等種族の分際が!!」


十年前、アクア王国はゴブリン・オークの奇襲によって攻め込まれ、消滅の危機に瀕していた。


「セバス!…どこにいるの!!」


侍女のセバスとサフィはパニックになりながらも必死に逃げようとしたが、街の混乱に巻き込まれてはぐれてしまった。彼女は恐怖に震えながら、侍女の名前を呼びながら再び合流することを願って街を探し始めた。


すると、急に不気味な笑い声が近くで響き渡った。


「ギャッ…ギャッ…ミツケタァ…はぁ…はぁ…」


サフィの心は凍りつき、彼女は声の方向を見つめた。そこには凶暴な目つきをしたゴブリンの一匹が立ち塞がっていた。


ゴブリンは凶暴な気配と共に突進してきた。サフィは恐怖に身を震わせ、身構えて応戦しようとしたが、その直前に奇跡が起こった。


「はぁぁぁあ!!」


男の掛け声と共にゴブリンに斬撃を放った。剣が空気を切り裂き、ゴブリンは倒れ込む。


「あっ…あ、あなたは誰?」


「僕はウルジュ、大丈夫?…怪我はない?」


「う、うん…」


「ここだと危ないから…ついてきて!!」


ウルジュという少年はサフィの手を取り、街の喧騒からはなれた小さな丘に彼女を連れて行った。そこは静寂が漂い、悲鳴や戦いの音が遠くから聞こえる。二人は火の海に包まれていく街を呆然と見ることしかできず。


「大丈夫、ここなら安全だよ!」


ウルジュはサフィに優しく微笑みかけた。


サフィはまだ心臓が高鳴っていたが、ウルジュの存在が彼女に安心感を与えた。彼女はウルジュの隣に座り、ゆっくりと深呼吸を繰り返した。


「あ、ありがとう、ウルジュ」


サフィは感謝の気持ちを込めて言った。ウルジュは微笑みながら頷き、サフィの手を優しく握ったまま、彼女を護る決意を固めた。


「心配しないで。僕が必ず守るから」 


ウルジュは固い決意を込めて語った。侍女が丘にやってくるまでの間、ウルジュはサフィを傷つける者から守るために警戒心を張り巡らせた。彼は周囲の動きを敏感に感じ取り、サフィが安全であることを確認しながら、彼女の心を落ち着かせるために優しく話しかけた。


サフィはウルジュの優しさに心が温かくなり、彼の守りに頼ることで安心感を得た。彼女は少しずつ緊張が解け、眠気が訪れてきた。


ウルジュは彼女の安らかな寝顔を見守りながら、再び周囲の警戒を強めた。


* * *


「あのあと、感謝を伝えようと街中を探したのにどこにもいなかった…ウルジュはその間どこにいたのかな…」


サフィは少しずつ目を細めていき、疲れが彼女の身体を襲った。長い一日の緊張と不安が重なり、彼女は自然と小さくあくびをしてしまった。


「ふぁぁ…眠くなってきちゃったなぁ…」


サフィは周囲の静寂とウルジュがここにいる安心感に包まれながら、その場で寝ることを決めた。ウルジュが自身のことを守り続けてくれることを信じて、心地よい眠りに落ちていった。

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