第16話 王国戦士長

俺とモモンガさんが騎士に詰問したところ、この世界においてデス・ナイトとは災害級のモンスターであり、一体現れれば場合によっては軍隊を出動させて多大な犠牲を払って討伐しなくてはならない程のモンスターらしい。



俺とモモンガさんは肩を寄せあって小声で情報交換をする。



「なるほど。これはかなり有益な情報ですね。」



「モモンガさんはデス・ナイトを一日に何体召喚出来ますか?」



俺はモモンガさんに『中位アンデッド召喚』の魔法の使用制限を尋ねた。



「一日に6体ですね。しかし、蘭丸さんも見てたと思いますが、召喚には人間の死体が必要みたいです。だからこの場にいる死体は回収しておきますね。」



この場には俺が斬った20人を超える兵士の死体が転がっており、少なくとも20体分のデス・ナイトが召喚出来ることになる。



「置いといて徘徊アンデットに生まれ変わっても厄介ですから、どうぞどうぞ。」



召喚魔法は一度召喚させると、召喚したモンスターのHPが尽きるまで消えることはないので、戦力増強に繋がるのだ。



俺はふとモモンガさんが『心臓掌握グラスプ・ハート』で騎士を一人殺したことを思い出した。



「ところでモモンガさんはこの世界で初めて人を殺したと思うんですが、何か感じました?」



俺の質問にモモンガさんは頭を捻りながらも淡々と答えた。



「いえ、俺は人を殺しても何も感じないんです。肉体のみならず、心まで人間を辞めたということですかね?」


 

モモンガさんはあっさりと人を殺した感想を俺に打ち明けてくれたので、俺も人を殺したの感想を話す。



「俺はやはりいい気分ではありませんね。恐らく『刀神の黒袴』の状態異常完全無効化のおかげで思ったよりは気分が悪くありませんが、この世界での対人戦はモモンガさんからもらった『逆刃刀・えんま』を使わせてもらおうと思います。」



『刀神の黒袴』の状態異常完全無効化は殺人による精神的なショックをも緩和してくれるようでこの世界で躊躇わずに刀を振れるのは有難いが、やはり現代日本という平和な国に生まれた人間として積極的に人を斬りたいとは思わない。



俺が腰に帯びた『閻魔』を左手で鞘ごと取り出すと虚空のアイテムストレージに入れてから『逆刃刀・えんま』を取り出した。



「確かに蘭丸さんの実力ならこの世界でも心配ないでしょうが、『上位道具創造クリエイト・グレーター・アイテム』!」



モモンガさんは俺が持つ『逆刃刀・えんま』に手をかざすとこの刀を作り出した時と同じ魔法を唱えると、モモンガさんの手が放たれた魔法の光が『逆刃刀・えんま』に吸い込まれた。



「ん?」



この世界はアイテムストレージは使えてユグドラシルのアイテムが持ち込めているが、コンソールがないのでアイテムの能力が分からない。



さすがに手持ちのアイテム効果は全て把握しているから問題はないが、こういうの新しいアイテムや装備の時に困る。



アイテムや装備品の能力を確認出来る魔法は存在するが、MPが永遠の0で、メッセージ等のMPが消費しないシステム魔法しか使えない俺では確認が出来ないからである。



「私が付与可能な能力で最大となる第6階位魔法までの魔法を無効化出来る能力と峰打ちがモンスター相手には発動しないようにしました。」



「なっ!?」



俺はモモンガさんの話を聞いて驚いた。



モモンガさんは種族特性で第6階位以下の魔法の効果を受け付けないので、恐らくその効果を『逆刃刀・えんま』にも付与してくれたのだろうが。



───



武器:逆刃刀・えんま[刀武器、聖遺物級レリック]


・モモンガが作り出した非殺傷の刀

・峰打ち:死亡となるダメージを与えても、相手のHPを必ず1残してスタンさせる。〈NEW〉モンスターにはこの効果が発動しない。

・能力向上中:自身の能力を向上する。

・吸収小:与えたダメージの1割を自分のHPに変換する

・クリティカルヒット確率小:クリティカルヒット確率が+10%

〈NEW〉・破魔の刃(小):第6階位以下の魔法を斬り裂く事が出来る。



───



「デス・ナイト程度に苦戦する世界なので、第6階位を超える魔法を使える者は少ないと思いますが、仮に第7階位を越える魔法を使う者が現れれば必ず『閻魔』を使うと約束してください!」



デス・ナイトはLv35、仮に同じレベルの純魔法職ならば第7階位魔法の一撃でHPを半分以下に出来る。



しかし、デス・ナイトが災害級の魔法と呼ばれる世界ならばおそらく第7階位魔法はおろか第6階位魔法すら使える者がいるか怪しい。



仮に容易く第7階位魔法が使える者がいたとすれば俺達と同じユグドラシルから来たプレイヤーの可能性が高く、雑魚だと油断すれば俺とて危ないかもしれない。



「分かりました。モモンガさんの思い、しかと受け取りました。」



モモンガさんが言いたい事を理解した俺は素直に頷いて『逆刃刀・えんま』を腰に帯びた。



「あ、あの…剣士様、マジックキャスター様。言われた通り騎士達を拘束しました。」



肩を寄せあって内緒話をしていた俺とモモンガさんに小太りの中年男性が話し掛けてきた。



彼は元々村の中央広場に集められた村人の一人であったが、俺が多くの騎士を殺し、さらに生き残った護衛騎士の戦意を削いで武装解除させた後に、男性の村人達にお願いして護衛騎士達の拘束してもらった。



「ありがとう。あ、俺は蘭丸といいます。」



俺は村人達に名乗って無かった事に気付いて、慌てて名乗る。



「私はモモンガと申します。名乗りが遅れて申し訳ない。」



俺に続いてモモンガさんも名乗ると、その男は俺達に深く頭を下げた。



「私はこのカルネ村の村長をしております。この度は危ないところを助けて頂いてありがとうございました。しかし、この村は裕福ではなく…その…」



村長は言い淀むので、恐らく村を助けたことへの礼金の話だと判断した。



「では、お代の代わりに情報を頂きたい。見ての通り俺はこの国の者ではなく、剣の腕を極めるために修行している武芸者です。旅の資金を稼ぐ手段を教えて欲しいのです。」



「私は深い森に篭って魔法の研究に打ち込むマジックキャスターでしたが、縁あってこちらの蘭丸さんの旅に同行させて頂いております。私も世情には疎いので是非お話を聞かせて頂きたい。」



俺達は護衛騎士の一人が俺を『旅の武芸者』と呼んだことや、村長がモモンガさんを『マジックキャスター』と呼んだ事を利用しながら、各々が即席の設定を作り出した。



村長は俺達が礼金はいらないと分かって、安堵の表情を浮かべる。



「も、もちろんです。立ち話もなんですので、どうか我が家へいらしてください。」

 


俺とモモンガさんは村長に自宅に案内されてこの世界の情報を得る事にした。




 ◇


 


村長の話によるとこの村の名前は人口100人程の小さな村で名前をカルネ村といい、特産と呼べるものはなく、農業で生計を立てている村だそうだ。


 

この世界ではユグドラシルの通貨は使用出来ないが、純金としての価値はあるそうだ。



さらに簡単な地図を見せてもらったところ、このカルネ村とナザリックがある周辺地域はリ・エスティーゼ王国という国の領土で、南北に広がる巨大な山脈を挟んで隣接するバハルス帝国という国があるが、この二つの国は仲が悪く、国境付近に存在する城塞都市エ・ランテル近くの平野で毎年のように争っているそうだ。


 

両国と国境を挟んで南にある国家がスレイン法国で、先程カルネ村を襲ってきた騎士が来ていた青いインナーに鉄色の鎧はバハルス帝国の騎士鎧であるが、実はバハルス帝国の仕業に見せるための偽装で陽光聖典と呼ばれるスレイン法国の特殊工作員らしい。


 

ちなみにこれは捕らえた護衛騎士にデス・ナイトの事を聞いた時、ついでに聞き出した話である。



村長はエルフやダークエルフという存在は知っているも会ったことはなく、その他の異行種はモンスター扱いとなり、村長が知る限りリ・エスティーゼ王国には人間しかいないらしい。


 

このカルネ村とナザリック地下大墳墓から一番近い城塞都市エ・ランテルには冒険者組合が存在して、主にモンスターの駆除を行う冒険者を斡旋しており、実力と実績に応じて一番下のアイアン級から最高位のアダマンタイト級までの階級が与えられる。



アダマンタイト級冒険者はこの大陸に数える程しかおらず、国王が指名依頼する程の絶大な信頼があるらしい。


 

以上が村長から得られたこの世界の大まかな情報であった。


 


 ◇




カルネ村では死者の埋葬と簡単な葬儀が行われると、部外者である俺とモモンガさんは少し離れた位置からこれを眺める。



ちなみに拘束した護衛騎士と俺が殺した騎士達は全てモモンガさんが転移魔法でナザリック地下大墳墓に送ったので、埋葬されたのはあくまでこの村で騎士に殺された人達だけである。


 

「アイテムや魔法を使えば死者を生き返らさる事も可能でしょうが、死をもたらすマジックキャスターと死者を甦らせるマジックキャスターならどちらが警戒されるか考えるまでもありませんね。」



俺とモモンガさんが最初に助けた姉妹が抱き合って一つの墓の前で泣き叫んでいるのが見えて可哀想だと思うが、当たり前だが死んだ人は蘇らないのが普通である。



「それにもし村人達が死者を復活出来るアイテムや魔法の存在を知っているならば、恐らくモモンガさんに一言尋ねてるんじゃないかな。」



俺の考えにモモンガさんも頷く。



「ということは死者を蘇生するアイテムは存在しないか恐ろしく高価な物。さらに第七階位魔法『蘇生リザレクション』はおろか、第五階位魔法『死者復活レイズ・デッド』などの蘇生魔法を使える者がいないのかもしれませんね。」



「ま、その辺は俺がエ・ランテルで冒険者になってから情報を集めますよ。最高位のアダマンタイト級冒険者になればリ・エスティーゼ王国の後ろ盾も得られるかもしれません。」



リ・エスティーゼ王国には人間しかいないなら、当然ながら潜入するのは俺しかいない。



「お願いします。セバスとプレアデスの何人かを蘭丸さんのバックアップに付けますね。」



セバスやプレアデス達は異行種であるが、人間にしか見えない見た目をしているので助かる。


 

「分かりました。あれ?どうやら厄介事みたいですよ。」


 

「みたいですね。」


 


先程まで葬儀で悲しみに暮れていた村人達が村長を中心にして神妙な顔を話し合ってるのが見えた。

 


「どうかしましたか?」



俺はモモンガさんと一緒に村長達に近付いて話し掛けると、村長は俺の問い掛けに喜色を浮かべる。

 


「実はこの村に騎士風の者達が近づいているそうでどうしたら良いでしょうか?」



明らかに戦力として頼る気満々な村長を見て調子がいいなと思っていると、モモンガさんが村長に話しかける。


 

「なるほど…ならば私と蘭丸さん、そして村長の三人でこの場に待機しましょう。その他の村人は村長の家に避難しておいてください。」



モモンガさんの提案に俺も承諾して頷くと、村長は笑顔になって頭を下げた。



「ランマル様、モモンガ様!ありがとうございます!」

 


村長がモモンガさんの話を村人達に言って聞かせると、村人達は村長の妻に案内されて全員が家に避難した。



俺とモモンガさん、そして村長の三人は村の広場でカルネ村に向かってくる騎士風の集団を待ち受けていると、俺達の前に現れたのは茶色のインナー服に鉄色の鎧を身に纏い、全員が馬に乗った騎士達であった。



この世界の馬は見た目がモンスターではなく、現代日本の競走馬のようなサラブレッド種であった。



「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒らし回っている帝国の騎士たちを討伐するため、王のご命令を受け、村々を回っている者である。」

 


先頭を馬に乗って走っていた騎士の中でも少し豪華な鎧を着た一際体格のいい精悍な男は馬上で声高らかに名乗り上げた。



「王国戦士長!?」



ガゼフ・ストロノーフの名乗りを聞いて村長が驚きの声をあげるが、その声には驚きこそはあるが恐怖の色はなかった。



ここはリ・エスティーゼ王国の領土という話だし、この騎士達は敵ではないと判断して柄に掛けていた右手をゆっくりと離した。

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