第15話 初陣
ある日、俺はモモンガさんにメッセージで呼び出された。
「モモンガさん、入りますよ。」
モモンガさんの部屋に入ると、部屋の主は長さ1メートル程の金縁の姿見のような鏡の前に座っていた。
その傍にセバスが控えており、俺に気付くと無言で頭を下げてきたので手を振っておいた。
「蘭丸さん、これを見てください!」
モモンガさんは俺に向けて姿見を差し出すと、その鏡面には人口数十人程の小さな村が青いインナーの上に鉄色の鎧を纏った多くの騎士達に襲われている凄惨な光景が写し出されていた。
「なっ!?これはただの姿見じゃなく、まさか『
「はい。ナザリックの防衛網の構築に役立つかと思って、これを使って周囲を偵察していたらこんな光景が写し出されたんです。」
モモンガさんが『
すると、村を襲ってきた騎士の体にしがみつき、家族を逃がそうとした父親らしき人物の背に剣が突き立てられた光景が写し出された。
「モモンガさん俺はこの村に行きます!『ゲート』で送ってほしい!」
こんな光景を見せられて黙ってみていられるわけがない。
「蘭丸さんならそう言うと思ったから、ここへ呼んだんです。セバス!私と蘭丸さんはこの村に行く。ナザリックの警戒レベルを最大に引き上げてくれ!」
俺の言葉を予期していたモモンガさんは手早くセバスに指示を出しながら、椅子から立ち上がった。
「畏まりました。」
セバスは一礼して後方に下がると、モモンガさんは右手をかざして魔法を唱える。
「『ゲート』!」
俺とモモンガさんは目の前に現れた黒い渦に飛び込むと、目の前には森へ逃げた二人の姉妹に下卑た笑みを浮かべた騎士が剣を振り上げているところだった。
「死ねぇ!!」
「「ひぃぃっ!!」」
死を覚悟した姉は幼い妹を守るように身体を抱き締めているが、無情にもその凶刃が振り下ろされようとしたその時──
「ふぅ……ギリギリセーフか。」
俺は左手の手甲を差し込ませて、その凶刃が姉妹に届く直前に受け止めた。
「なんだ…おまえは!?」
姉妹の命を奪おうとした騎士は突然現れた俺達に気付いて慌てているが、彼の目線は俺を見ていない。
「死ね。『
騎士が見ていたのは俺の後ろから『ゲート』を潜り抜けて来たモモンガさんの顔だった。
「がふっ!?」
その騎士は遠距離から相手の心臓を握る潰すことで、即死させる第9位階魔法『
「ば…ばけも…」
この場に残るもう一人の騎士がモモンガさんの髑髏顔に恐れ慄いており、どうやら襲われていた姉妹達も襲っていた騎士も種族は人間種の人間らしい。
「俺を目の前に剣を抜いたまま惚けるとは…『居合切り』!」
俺はサムライスキル『居合切り』で隙だからけの騎士を真一文字に斬り裂くと、一刀の元に騎士の体が上下に別れてそのまま事切れた。
「危ないところを助けていただいて……痛っ!」
この場にいたのはモモンガさんと俺が殺した騎士の二人だけだったので、命を助けられたことを悟った姉が俺達に頭を下げようとするが、どこか怪我をしているようで痛みで言葉を詰まらせていた。
よく見ると現代世界でいえば白人風の容貌を持った15歳くらいの赤毛の姉が背中を深く斬られてるようで理由は不明だが、この世界でも日本語が通じるのはありがたい。
「動かないで。『気功』!」
俺はすぐに姉の背に左掌をかざして気の力で怪我を癒すモンクスキル『気功』を使うと、俺の左手から放たれた癒しの波動で姉の切り傷と斬られた服が癒えた。
回復スキルを使うと傷だけでなく、装備品の損傷まで癒えるのはユグドラシルと同じみたいだ。
「うっ嘘!痛くない!」
「お姉ちゃん!」
俺は傷が癒えた事を確認すると、すぐに立ち上がってモモンガさんに声掛ける。
「モモンガさん。ここはおまかせします。俺は村へ行きますね。」
襲われている村人をできる限り助けたい。
「分かりました!『中位アンデッド作成 デス・ナイト』!」
モモンガさんの放った魔法が死体となった一人の騎士に吸い込まれると、死に絶えていた騎士が2メートル超える巨体に漆黒の鎧と兜に剣と大盾を持ったLv35のデス・ナイトに変貌した。
「「ひぃ!」」
死んだはずの騎士が突然起きあがって巨大なゾンビ騎士となったことで幼い姉妹は驚いて声を漏らした。
ユグドラシル時代は召喚魔法は全て魔法陣から生まれていたが、少なくともこの世界ではアンデットの召喚は死体が必要なのかもしれない。
「デス・ナイトよ。私とこの二人の人間を守護せよ」
モモンガさんは純粋な魔法職で近接スキルはからきしだが、敵が『
何故ならばユグドラシル前に俺と行ったゲームではルール上の問題で意味がなかったが、デス・ナイトにはどんな攻撃もHP1で耐えるスキルがあるのでモモンガさんはユグドラシル時代からデス・ナイトを盾役としてよく使っていたのだ。
「ウオオオォォォーー!」
俺はこの場をモモンガさんとデス・ナイトに任せて、村へと急いだ。
◇
俺が村に着くと、村の中央広場に数十人の村人が集められてその周囲を武器を手にした20人程の騎士達が囲んで、村人が逃げられないように包囲していた。
「『五月雨斬り』!」
既に虐殺が終わっていることにホッとしながらも、俺は全力で地面を蹴ると、中央に集められた村人達の周囲を右回りでぐるりと回るように包囲していた騎士達全員を『五月雨斬り』で斬り刻んだ。
「「「へっ……?」」」
俺が接近したことにすら気付かず、未だに斬られたことにすら気付いていない騎士達は間抜けな声を出すと体が二つに別れて、そのまま事切れた。
俺の背には恐怖で怯えて家族で抱き合いながら身体を寄せ合って震えている村人達、そして目の前にはこの軍隊の指揮官らしい少しだけ豪勢な鎧を纏った男とその周囲を固める護衛騎士が数人いるが、『五月雨斬り』で村人の周囲を囲んでいた騎士全てを殺せたので、村人達と騎士の分断に成功した。
俺は刀をシュッと振るってベッタリと付着した騎士達の血糊を吹き飛ばし、再び刀を構える。
「な……なんだ!?貴様は何処から……いや、今、何をしたあああぁぁぁ!!」
二、三人斬った辺りから刀身に血糊が付着して斬れ味が落ちた気がしたからユグドラシル時代にはなったことなので、今後は気を付けないといけないなと思っていると明らかに混乱した様子の指揮官らしき男は俺を指差しながら喚き散らしていた。
「あ”ぁ?」
「ひぃぃ!?す、す、すみません!!」
指揮官らしい男は、俺が自分の肩に刀の峰を乗せながらひと睨みしただけで、尻もちを付きながら謝ってきた。
護衛騎士達はこの男を守るように前に出ると俺に向けて剣を構えるが、明らかに怯えた様子で構えた剣がカタカタと震えている。
「さて、質問だ。あんた達は誰で何故この村を襲った?」
俺は刀を鞘に納めながら、目の前の騎士達に質問を投げ掛けると、勢いを取り戻した指揮官らしいがバッと立ち上がって俺を指差す。
「き……貴様こそだ、べっ!!?」
俺が刀を納めた事で油断したのか威勢を取り戻して明らかに俺の質問に答える様子のない指揮官の首を、俺は鷲掴みにした。
「「えっ!」」
俺はただ地面を一度蹴って剣を構えていた護衛騎士達の脇をまっすぐに通り抜けて指揮官の首を掴んだだけだが、騎士達は俺の姿を目で追えてなかった様子で慌てたように後ろを振り向いていた。
「おい!質問に答える気がねぇなら、この首へし折るぞ?」
「あ……がっ……。」
俺は指揮官の首を鷲掴みにしたまま、彼を睨み付けながら殺気を放つと、指揮官はそのまま泡を吹いて気を失った。
「おい!受け取れ!!」
「へっ!ぶべっ!?」
俺は気を失った指揮官を護衛騎士の一人に投げ渡すが、鉄の鎧を纏って身長170センチメートルはあるがっしりとした体躯の指揮官の体を受け止められるわけも無く、彼は指揮官に押し潰されるように後ろに倒れた。
「安心しろ。それは殺していない。さて、俺の質問に答える気のある奴はこの場にいるか?やり合ってもいいが、一瞬で終わるぞ?」
たった一刀で豆腐のように真っ二つに体が別れてしまう騎士の物理防御力。
たった一刀で即死する騎士のHP。
スキルすら使っていない俺の動きを目で追えない騎士の反射能力。
「「「ひぃぃぃ!?」」」
俺はこの時点で敵の力量を大まかに把握したので、左手の親指で鍔を少し押して鯉口を切ると護衛騎士達はカタカタと身体を震えだした。
何処かの国に仕えて立派な鎧を着ているはずの騎士達が想像以上に弱い。
どれくらい弱いのか正確に測れないほど弱すぎる。
「ぜ、全員!武装を解除せよ!!」
護衛騎士が真っ先に剣を手放して地面に転がし、部下であろう残りの騎士達に命令を出すと、彼の命令に従って全員が剣を手放した。
「おっ?あんたは話が出来そうだな?」
俺は部下に武装解除を命じた護衛騎士に話し掛けた。
「あなたは顔立ちから大陸南方の冒険者……いや旅の武芸者殿とお見受けするが、この村と縁のあるお方ですか?」
この護衛騎士は言葉を選びながら丁寧な口調で俺がこの村を助けた理由を尋ねたが、俺がこの村を助けた理由なんて一つしかない。
「義を見てせざるは勇無きなり。」
「えっ?」
『義を見てせざるは勇無きなり』という言葉の意味が、分からずに混乱している様子のこの護衛騎士に対して簡単にこの言葉の意味を教えてあげることにした。
「俺の母国の言葉でな。簡単に言うと…困ってる人がいたら助けるのは当たり前って意味だ。」
先輩ならこの瞬間に『正義降臨』って文字エフェクト出すんだろうなと思いながら、耳だこになっている先輩の口癖を笑顔で告げた。
「「「なっ!」」」
「俺は旅の休憩で立ち寄ろうとしたこの村があんたらに襲われているのが見えたから、ただ手を貸しただけだよ。」
俺の言葉に動揺を隠せない護衛騎士達と安堵の表情を浮かべる村人達を横目に見ながら、この場いる全員が白人に近い容姿をしているが、全員日本語が通じるようだ。
この中で唯一の日本人顔である俺が浮いているのはよく分かるが、俺からすれば白人集団が一切鉛のない日本語を話す方が違和感がある。
「戦いは既に終わったようですね。流石は蘭丸さんだ。」
『フライ』の魔法でここまで空を飛んで来た赤い仮面を被った魔王ロールのモモンガさんが俺の横にふわりと舞い降りた。
「あ、モモンガさん。あの子達は?」
「デス・ナイトを警護に残した上で防御魔法で結界を施しています。このレベルの騎士達であれば束になっても破ることは出来ないでしょう。」
外では魔王ロールを使うように勧めていたので、今のモモンガさんは威厳ある魔王ロールのモモンガさんである。
モモンガさんは恐らく遠見の魔法またはアイテムで俺の戦いを見て、俺と同じく騎士達が弱すぎる事に気付いたに違いない。
「確かに俺ではなく、デス・ナイト一体でもここの騎士達を一掃出来たでしょうね。」
村人達は突然空から現れたモモンガさんを警戒したが、俺と仲良く話している姿を見て、俺の仲間であると認識してくれたようで安堵の表情を浮かべるが、対照的に騎士達は絶望の表情を浮かべていた。
「デス・ナイトだと!?まさかこのマジックキャスターは推定難度百以上とされる伝説の魔物を使役しているのか!!」
俺とモモンガさんの話に聞き耳を立てていた護衛騎士はデス・ナイトの事を知っているようで、どうやら彼等が絶望したのはデス・ナイトをモモンガさんが使役していると聞いたからのようだ。
「そこの騎士殿、どうか私達にデス・ナイトのことを教えてくれませんか?」
「あぁ、『すいていなんどひゃく』って単語も気になるなぁ。とっとと吐いてもらおうか?」
「ひぃぃぃ!!」
俺達はデス・ナイトの情報を得るため怯えた表情を見せるこの護衛騎士に詰め寄って情報を集めることにした。
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