第14話 プレアデスな日々

こちらの世界に来てから早四日が経つ。



マーレの魔法によりナザリック地下大墳墓の地上部分の神殿を覆う外壁には土を盛って草を生やし、周囲の草原にはダミーとして小高い丘が作られている。



その甲斐あってかアルベドとデミウルゴスが考案した防衛案により、常に階層守護者1名が第一階層に常駐している警戒策取られているが、未だにナザリックに攻めてくる者は誰もいなかった。



俺は何をしていたかというと──



「グッ!参リマシタ。」



俺は右手に持った木刀をコキュートスの首筋に押し当てると彼は四本の腕に持った木製武器を手放して頭を下げた。



「コキュートス早く変わるでありんす。蘭丸様、次は私でありんすえ!!」



「次はシャルティアか?よし、来い!!」



第六階層の闘技場で約束通り手の空いた守護者達を相手にしていた。



ちなみに有事に備えてHP、MP、スキル及び魔法の使用回数消費を避ける為、


1.武器は木製武器。

2.有効打突で一本の三本先取。

3.スキル、魔法の禁止。


というルールの元で模擬戦を行っている。



「はい!必ず今日こそは一本取るでありんす!!」



「はははっ!シャルティアとアルベドは何故か、いつも気合いが入ってるな!いいぞぉ!!」



訓練中のシャルティアとアルベドは何故か鬼気迫るモノを感じるが、こちらの世界に来てから体の調子がすこぶる良いので、毎日守護者達を相手にしても未だに全戦全勝である。



「ま……参りました。」



シャルティアは右手に木製の槍、左手に木製盾を持って挑んできたが、数合の打ち合いの末に俺がシャルティアの木製槍を弾き飛ばしたことでシャルティアが肩を落として負けを宣言した。



その後はまたコキュートスと相手をする。



そんなこんなで程度に休憩を挟みつつ、交互にコキュートスとシャルティアの相手をしていった。



「よし!コキュートス、シャルティア。今日はこれくらいにしようか。」



「「はぁ、はぁ、ご、ご指導ありがとう…ございました。」」



俺はその場に倒れたまま起き上がる力も残っていないコキュートスとシャルティアに声を掛けると、二人はどうにか身体を起こして平伏しながら俺に礼を言い、自分の守護階層に帰って行った。



階層守護者全員がモモンガさんから『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を貰っているので、指輪の力で動くことなく転移可能なのだ。



「蘭丸様、お疲れ様でした。こちらを。」



コキュートス達が消えると闘技場の隅に控えていたユリ・アルファがタオルと飲み水を持って駆け寄ってきた。



「ユリ、ありがとう。」



俺はユリから差し出されたタオルを受け取って汗を拭い、冷たい水の注がれたコップを受け取って飲み干した。



当然だが、この世界は運動すると汗は出るし、喉も乾く。



「ごくごく……はぁ〜美味かった。火照った体に染み渡るようだ。」



「では、蘭丸様、こちらもどうぞ!」



「ん?」



俺の前に立つユリは何故か両手を広げて、ハグでも待っているかの姿勢で微笑んでいた。



「ボクの……いえ、私の体で蘭丸様の火照ったお身体をお鎮め致します。」



ユリはそのまま呆気に取られる俺の身体を優しく抱き締めた。



「へ?」



ユリは普通の人間の美女にしか見えないが、デュラハンのアンデット族。アンデットだから体温はないので確かに体が冷たくて気持ちいいなぁ。



それに胸元に押し付けられる二つの大きく柔らかな感触。流石はプレアデス一の巨乳……って待て!!



「ちょ、ユリ!!」



俺が慌ててユリを引き剥がそうとした時、闘技場にナーベラルが駆け込んで、大声でユリの名前を呼んだ。



「ユリ!何してるの!!」



「あら?ナーベラル。貴女、まさか仕事を投げ出してきたんじゃないでしょうね?」



ユリは俺を抱き締めたまま仕事をサボっているであろうナーベラルを叱責した。



「いや、それはエントマにお願いして……ってそうじゃなくて蘭丸様が困ってるでしょう。早く離れて!」



ナーベラルはユリを俺から引き剥がすと俺とユリの間に入り、ユリに正対して後ろにいる俺を守るように両手を広げた。



「あっ……。」



あれだよ。



少し残念だから声が漏れたわけじゃないよ。



「今日はボクが蘭丸様担当メイドよ?ナーベラルは昨日だったでしょ?」



俺の担当メイドはユリ、ルプスレギナ、ソリュシャン、ナーベラルという四人のローテーションになっているらしい。



「だから、なんで私が蘭丸様専属じゃないのよ!」



俺とナーベラルが主従以上恋人未満である事はナザリック周知のことであり、ナーベラルが俺専属のメイドになる事を希望したが、プレアデスの実質的なリーダーであるユリに反対されたらしい。



「至高の御方に一日仕えることの出来る権利を独占するなど許されることではありません。」



「そんなこと言って本当は蘭丸様に色目を使うた……」



このまま放置すると姉妹喧嘩に発展しそうなので、俺はナーベラルの頭に手を置き、優しく撫でる。



「二人とも喧嘩はよくない。仲良くしような。」



「は、はい。」



不満げではあるが、俺に頭を撫でられて満更ではないナーベラルが返事をすると空いている左手側にユリが頭を差し出してきた。



「蘭丸様。我らプレアデスには平等な対応をお願い致します。」



「はいはい。ユリもいい子だなぁ。」



両手で二人の美女の頭を撫でるってのも両手に花っていうのかなと思いながら、俺は二人が飽きるまで頭を撫で続けた。



その日の夜、夕飯を食べ終えて布団に入ろうとしたと部屋に戻った。



「ユリ、今日はありがとう。もう寝るからまたね。」



モモンガさんはアンデットになったので、食事も睡眠も不要になったみたいだが、俺はハイヒューマンと言えど所詮人間なので三大欲求には逆らえない。



「蘭丸様、伽の準備が出来ておりま……」



俺は自分のメイド服のボタンを外そうとするユリの言葉を無視して黙って扉を閉めた。



「チッ!」



扉越しに舌打ちする声が聞こえた気がしたが、きっと気の所為に違いない。



どうやら俺がナーベラルに部屋で話した事がどうやら姉妹に筒抜けになってるらしく、昨日ナーベラルがユリ達に根掘り葉掘り聞かれて全て話してしまったと肩を落としていた。



「しかし、大きかったな。」



俺は先程、ユリがボタンを外した時にチラリと見えた谷間を思い出しながら、悶々とした夜を過ごした。







翌日の担当メイドはルプスレギナである。



彼女は人懐っこく明るい性格でスキンシップも多いが、昨日のユリみたくあからさまな誘惑はしてこないので気が楽だった。



「蘭丸様!あたしにもマーレ様やセバス様に教えていた技を教えてくださいっす!」



俺は昼間に訓練していたマーレとセバスに警察官となってから習得した柔道を教えていたのだ。



マーレが敵に接近された際に役立つように柔道を教えいた所、セバスも格闘術の幅が広がるから習得したい言ったので、二人まとめて教えた。



出来ればアウラにも柔道を教えてやりたかったが、闘技場で別れたその日から顔を合わせる度、俺から逃げるようになってしまったので、訓練には一度も顔を出してくれてない。



理由は分からないが、どうやらアウラに嫌われてしまったようである。



「もちろんだ。ルプスレギナは僧侶系の魔法職だからな。確かにマーレと同じく柔道を覚えた方がいいだろう。」



ルプスレギナは色黒でギャルっぽい見た目に反して僧侶系のジョブを極めている回復術師であり、戦闘になれば一番に狙われることになる。



「やったっす!ではよろしくお願いするっす。」



「ちょ……その格好でやるのか?」



俺はこれから柔道の訓練をするというのにメイド服姿のルプスレギナに指摘するが、ルプスレギナはスカートの裾を広げて優雅に宣言する。



「もちろんっす!これこそが戦闘メイド、プレアデスの衣装すよ!いくっす!!」



ルプスレギナが俺に飛び掛ってきたので、俺は彼女の右腕を掴むと、力に逆らわずに床に背負い投げした。



「うっ!?」



俺の部屋は多少の訓練が出来るくらいには広いので、無駄に家具を壊したりはしていない。



「お前から攻めてどうす…えっ!?す、すまん!!」



俺は呻き声を上げて床に叩きつけられたルプスレギナを心配して声を掛けようとした時、スカートがめくれ上がっていて、その奥に見えてはいけない物が見えてしまった。



バッチリと俺の瞳に刻まれてしまった黒い布地。



「ん?下着くらい蘭丸様ならいつでも見せてあげるっすよ。ほら、もっとよく見ていいんすよ。」



ルプスレギナは普段の快活さがなくなり、大人の女性のように妖艶に微笑みながら、俺に手を伸ばしてきた。



その時、バンっと音を立てて部屋の扉が開いた。



「ルプス!!」



「あ、ナーちゃんも混ざるっすか?」



ナーベラルは強引にルプスレギナのめくれ上がったスカートを直すと倒れたままのルプスレギナを睨みつける。



「もぉ〜あたしはただ蘭丸様に稽古を付けてもらってただけっすよ。だから、ナーちゃん怒っちゃダメっすよ。」



「蘭丸様。ルプスの人懐っこいのは演技です。本当の彼女は獲物を狙う狼のように狡猾で……ぐっ!?」



ナーベラルがそこまで言った時、ルプスレギナは彼女の口を押さえるとあっという間に転がし、そのまま床に組み伏せてしまった。



「ははっ!もぉ〜ナーちゃん、お喋りなんだから〜変なこと言っちゃ、お姉さんオコっすよぉ。」



「むぐむぐ……」



俺はナーベラルをあっさりと組み伏せたルプスレギナを見て、柔道教える必要ないじゃんと思ってしまった。







翌日の担当メイドはソリュシャンである。



「蘭丸様、今日も訓練お疲れ様でした。」



俺はアルベドとデミウルゴスとの訓練を終えて、汗を流しに風呂に行くところであった。



結果?もちろん全勝だったよ。



アルベドが無駄に気合い入っててめちゃくちゃ空回ってて、デミウルゴスは相変わらず頭でっかちだった。



「あぁ。ソリュシャンもお疲れ様。あー、皆にも言ってるけど、風呂は一人で入りたいから外で待っててくれ。」



ユリやナーベラルは隙あらば「お身体を流させていただきます。」と言って一緒に入ってこようとするのだ。



「心得ております。入浴の間にお召し物は私が洗わせて、いただきます。」



なんだろう?なんだか「いただきます。」のイントネーションが丁寧語というよりはご飯を食べる時のイントネーションに似ていた気がする。



「ん?あぁ。頼むよ。」



俺は汗でベトベトになった道着や下着を所定の場所に置くと、浴室に入って汗を流した。



数分後、俺が風呂から出ると新しい着替えが用意されていなかったので、ソリュシャンを呼ぶ。



「ソリュシャン、俺の着替えあるかな?」



「はぁ、はぁ、はぁ、は、はぁい。す、すぐに、ま、参り、ます。」



俺がソリュシャンを呼ぶと、浴室の扉の向こうから息も絶え絶えな声で苦しそうな彼女の声が聞こえてきた。



「おい?大丈夫か……ん!?」



俺はソリュシャンの身に何か起きた思って慌てて扉を開けるとそこには裸のソリュシャンが女の子座りをしていた。



ソリュシャンはハリのある大きな胸、くびれた腰、大きな尻を強調するミニスカスタイルのメイド服でプレアデス一エロいメイド服で色気ムンムンの美女である。



しかし、彼女の正体はスライムであり、メイド服の下は女性らしいフォルムはしているが、その体はマネキンのように胸の先に突起はなく、両脚の付け根もツルツルなので、彼女はメイド服を脱ぐと色気がなくなる。



「ん?服が身体の中にあるのか?」



だから俺が驚いたのは裸のソリュシャンではなく、俺の脱いだ服がソリュシャンの透けた身体の中でぷかぷか浮かんでいたことである。



「す、すみません。天上の美味に足腰が立たなく……なり。い、今。お召し物をお返し…致し、ます。」



そう言うと彼女の腹から俺の道着や下着がポンっと吐き出された。



「ふぅ……どうぞ。私の種族特性により汗や皮脂汚れ、泥汚れまで全ての穢れを吸収しております。もちろん服が濡れている心配も御座いませんので、そのままお召になっていただけます。」



ソリュシャンは擬態能力でメイド服を身に纏うと優雅に立ち上がって、一瞬で丁寧に折り畳んだ道着と下着を差し出してきた。



「あ……あぁ。」



俺はソリュシャンから手渡された道着を受け取ると、確かに泥に汚れて汗臭くベトベトしていた道着は純白の白さを取り戻してカラッと乾き、嫌な匂いもすっかりと消えていた。



「これは凄いな。でも、天上の美味ってのは?」



俺は洗濯機いらずなソリュシャンの種族特性に目を見張るが、気になる一言があって聞いてみた。



「もちろん至高の存在たる蘭丸様のお召し物に付着していた汗、皮脂等の全てにごさいます。特に下着は天上の味にございました。蘭丸様、ご馳走様でした。」



俺はスライムが穢れを好物だとは知らなかったが、美味しいご飯が食べられて嬉しいソリュシャン、そして汚れた服が一瞬で綺麗になる俺。互いに損なことは何一つない。



「あ、そう。ソリュシャンが喜んでくれるなら、俺の洗濯は今度からソリュシャンに……」



「ぜひ!!!!」



ソリュシャンは俺が言い終わる前に食い気味に了承してくれた。



「なんなら、私が蘭丸様の身体を包んで差し出しあげれば、服と身体の穢れを同時に綺麗にしてあげられますがどうでしょう!!」



さらに普段のお淑やかさは何処へやら、ソリュシャンは顔を赤らめ鼻息を荒くしながら捲し立てた。



「あ、えー……えーとぉ……今日はもう風呂に入ったからな。また次の担当の日にお願い出来るか?」



スライムの体内に服ごと身体を包まれて、服も身体も同時に綺麗にされるという未知の体験に若干の恐怖はあるが、好奇心が勝ってしまった。



「はい!おまかせください!!」



ちなみに四日後、約束通りソリュシャン風呂(命名)を体験したところ、胎児が母の羊水に包まれているようなあまりの心地良さに感動し、翌日から俺の風呂、洗濯担当がソリュシャンに正式に決まった。

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