第12話 NPC達の話し合い

※注

【この話はオリ主が登場しないNPC同士の話し合いのため、三人称でお送りします。】




セバスと蘭丸が転移した後、モモンガも『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』で自室に転移したので、この場にはアルベド、シャルティア、アウラ、マーレ、デミウルゴスという守護者達だけとなった。



蘭丸、モモンガがいなくなったことで頭を下げる必要のなくなった守護者達がおもむろに立ち上がった。



「皆、しかと聞いたわね?」



アルベドが決意に満ちた顔で守護者達に確認を取ると全員が頷き、先程の蘭丸とモモンガの会話を思い出す。



「皆で……」



「世界征服シテ……」



「モモンガ様を……」



「ほ、本物の……」



「魔王に……」



上からシャルティア、コキュートス、アウラ、マーレ、デミウルゴスの発言であるが、これは蘭丸とモモンガが巫山戯あって話していた時の蘭丸の会話の一文である。



当然ながら、蘭丸とモモンガに世界征服する意思等ないが、彼等を至高なる存在と呼び崇拝している彼等にとって、モモンガ達が世界を統べることは当然のことと思っている。



「皆、ナザリックの最終目標はこの世界をモモンガ様と蘭丸様に差し上げ、ナザリックの支配者たるモモンガ様をこの世の魔王に据えることと知れ!!」



アルベドは守護者達に向けて宣言すると、守護者達は声を揃えて頷く。



「「「「「はっ!」」」」」



こうしてモモンガと蘭丸の知らないところで、ナザリック地下大墳墓の最終目標が決定した。



「はぁ〜緊張したよぉ。」



「で、でもお二人とも凄くかっこよかったね!」



緊張の解けたアウラとマーレは脱力しながら感想を述べていた。



「今日ハナント素晴ラシイ日ダ。蘭丸様トノ手合ワセガ待チ遠シイ。」



コキュートスは手にした長斧を虚空に向けて振るいながら、蘭丸との手合わせに思いを馳せていた。



「全くだ。武人ではない私にもコキュートスの気持ちはよく分かる。私としたことが九界を統べる蘭丸様からの手解きの提案には光栄の極みすぎて思わず思考が停止してしまった。至高の存在の申し出に即座に返答出来ないとは。セバスが居なければ我々全員、無礼打ちになってもおかしくない失態だったよ。」



『九界』とはユグドラシルに存在した九つの世界を差す言葉で、蘭丸は九つの世界のワールドチャンピオン同士の戦いでも勝利し、公式一位となった事を示唆して『九界を統べる』と表した。



「ええ。セバスには後で礼を言っておかないとね。モモンガ様の妻として、傍に仕える者として蘭丸様に鍛えていただける日が本当に待ち遠しいわ。」



根っからの武人ではないデミウルゴス、アルベドですら蘭丸との手合わせに思いを馳せる程に彼からの提案は天地が覆るほどに衝撃的な出来事だったのだ。



蘭丸はNPCにとってギルドメンバーは親のようなモノだと判断していたが、実の所彼らにとってギルドメンバーは神に等しい。



だから蘭丸が当初の仮定していた『NPCはギルドメンバーの所有物』というのが正解であるといえる。

 

 

「私が蘭丸様から一本でも取ることがありんすれば、きっとモモンガ様は私を褒めて、伽をお命じになりんす。」



シャルティアの根拠のない言葉にアルベドが目を開いて反応した。



「何っ!?まさか……そんなご褒美があったなんて!?」



シャルティアとアルベドは互いに顔を見合わせると声を揃えて誓いを述べた。



「「必ず私がこの女より先に一本を取る!!」」



彼女達の中で『蘭丸から一本取ることが出来ればモモンガと伽』という褒美が出ることが決定事項のようだ。



「いや、蘭丸様とモモンガ様はそんなことを一言も言ってなかったと思うがね。まぁ、個人的には本当にそうなればいいとは思うけどね。」



デミウルゴスは既にモモンガから伽を命じられている所を想像して身体をくねらせているシャルティアとアルベドを冷めた目で見ながらも口元はニヤリと微笑んでいた。



「「「?」」」



「戦力の増強という意味でも、将来の為という意味でもね。」



「「「?」」」



デミウルゴスの意味深で遠回しな言葉にコキュートス、アウラ、マーレは頭を捻る。



「偉大なる支配者の後継はあるべきだろう?」



「ドウイウ意味ダ?」



アウラとマーレは顔を見合わせて未だに頭を捻っているが、我慢ならずにコキュートスが彼に言葉の真意を問い掛けた。



「モモンガ様は最後まで残られた。そして蘭丸様はモモンガ様に誘われて至高の存在となられた。しかし、いずれ御二方も他の至高の方々と同じ所へ行ってしまわれるかもしれない。その場合、我らが忠義を尽くすべき後継を残してくださればとね。」



「それはどちらかが、モモンガ様のお世継ぎを?」



デミウルゴスの真意を悟ったマーレはデミウルゴスの狙いに気付いて正解かどうかを確めようと質問を投げ掛ける。



「ソノ考エハ不敬ヤモシレヌゾ?」



しかし、マーレの言葉でデミウルゴスの真意を悟ったコキュートスが彼に叱責の言葉を投げ掛ける。



「しかし、コキュートス。モモンガ様や蘭丸様の御子にも忠義を尽くしたいとは思わないかい?」



「ナッ!?ソレハ憧レル。イヤ、素晴ラシイ!!」



デミウルゴスはコキュートスの性格を逆手に取って彼の望む言葉を掛けてあげることで、コキュートスはモモンガと蘭丸の御子に忠義を尽くしている自分を想像していた。



「でもさぁ〜デミウルゴス?蘭丸様のお世継ぎはどうするのさ?」



アウラがモモンガの相手がシャルティアかアルベドならば、蘭丸の相手はどうなるのか質問したところ、彼の予想外の言葉にアウラは驚愕する事になる。



「蘭丸様は人間種だろう?ならばお世継ぎを授かるには同じ人間種が相応しいとは思わないかい?ねぇアウラ?」



デミウルゴスは腰を折り曲げて、アウラの顔に自分の顔を近づけてニヤリと笑った。



「あ、あたしぃー!で、でも、あたしはまだ76歳で大人になるにはまだ30年も掛かるから!?」



アウラはデミウルゴスの言葉の意図を悟って、顔を真っ赤にして狼狽えている。



長命種であるエルフ、ダークエルフは成長が遅く、人間でいう大人の女性の仲間入りをするのは16歳相当になるのは100歳を越えてからである。



「もしアウラに初潮が来ているならば子供を産む事は可能だと思うけど、それに蘭丸様は寿命と老化を超越したハイヒューマン。数十年、数百年と姿は変わらないはずさ。」



狼狽えているアウラに追い打ちを掛けるように言葉を紡いでいくデミウルゴスの最後の言葉にアウラはさらに顔を赤くして答えた。



「でも、あたしはまだ……その……」



アウラは恥ずかしそうに身体をモジモジとさせるが、デミウルゴスにはまだ蘭丸の相手になりうるNPCに心当たりがある。



「まぁ、子供のアウラに無理強いさせるつもりはないよ。」



「あ、あの……それなら、桜花聖殿にいるオーレオール・オメガさんは人間では?」



オーレオール・オメガとは指揮官系のジョブを極めたプレアデス唯一のLv100NPCで種族、人間である。



「そうだね。しかし、彼女にはこのナザリックの至宝たる『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』の管理を任せる予定なんだ。」



Lv100のNPCとはこの場にいる守護者達を除けば、オーレオール・オメガとセバス、そして各種ワールドアイテムが保管管理されている宝物殿の守護者パンドラズアクターしかいないのだ。



ユグドラシルのゲームシステムそのものを変えることすら可能なワールドアイテムに匹敵するギルド武器『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』の管理防衛に適したオーレオール・オメガが領域守護者を務める桜花聖殿は彼女の力によってナザリック内で最も強固な防衛力を誇る場所である。



マーレを含めたNPC全員にとってギルド武器はモモンガ、蘭丸という至高の存在に匹敵するアイテムであるため、全身全霊で守らなくてはならない。



「それではやはりお姉ちゃんが蘭丸様のお世継ぎに?」



アウラ、マーレ、オーレオール・オメガを除き人間種のNPCはナザリックには存在せず、マーレは格好は別として性別は男。オーレオール・オメガが無理ならば残るはアウラしかいない。



「じゃあ……仕方な……」



アウラは満更でもないような顔で後頭部を後ろ手でかいている。



「いや、プレアデスにもう一人蘭丸様の御子を宿す可能性のある者がいる。」



「えぇ!!」



「誰さ!誰なのよ!言いなさいデミウルゴス!!」



デミウルゴスの言葉にマーレが驚き、既に蘭丸の妃となることに前向きだったアウラはデミウルゴスに詰め寄った。



「ナーベラル・ガンマだよ。彼女の持つドッペルゲンガーの変身術は体の構造そのものを変える。だから人間に変身しているナーベラルであれば、蘭丸様の御子を宿すことが出来る可能性は高い。」



デミウルゴスは玉座の間においてナーベラル・ガンマと蘭丸との間に起きた出来事を全て把握している。



「そして蘭丸様はナーベラルとその話し合いの真っ最中。二人が結ばれればナザリックの未来は明るい。」



デミウルゴスは全て分かった上でアウラに蘭丸の妃になる可能性を示唆したのだ。



「デ〜ミ〜ウ〜ル〜ゴ〜ス〜!」



デミウルゴスにからかわれた事に気付いたアウラが顔を真っ赤にして彼を睨みつけた。



「はっはっ!アウラ許してくれ。しかし、ナーベラルが蘭丸様の御子を宿す可能性は0ではないが、アウラ、君ならば100%御子を宿す事が出来る事を覚えておいてほしかったんだ。」



デミウルゴスはアウラを怒らせてしまったが、これでアウラは蘭丸を意識せざるを得なくなる。



それこそがデミウルゴスの狙いだった。



「もう知らない!ふんっ!」



デミウルゴスは自分に背を向けて離れてマーレと合流するアウラの小さな背を見つめながら、ニヤリと笑った。



「ふふっ。コキュートス、シャルティアそろそろ戻ってきなさい。」



デミウルゴスは未だにモモンガと蘭丸の子供と戯れている妄想に浸っているコキュートスとモモンガとの情事という妄想に浸っているシャルティアを正気に戻す為に声を掛けた。



「モモンガ様ぁ、私は必ず蘭丸様から一本取るでありんす!」



「アレハ良イ光景ダッタ。」



我に返ったシャルティアとコキュートスはデミウルゴスの元へ歩いてくる。



デミウルゴスはマーレと未だに自分を睨みつけているアウラも近くにいる事を確認すると、モモンガとの間に産まれた子供との妄想に浸っているアルベドに声を掛けた。



「さて、アルベド。そろそろ私達に指示をくれないかね?」



「そうね。では、まず……」



妄想から我に返ったアルベドはにこやかに微笑むと守護者達に向けて矢継ぎ早に指示を出していった。







玉座の間においてモモンガに第九階層の守護を命ぜられているナーベラル・ガンマを除く仲良し姉妹であるプレアデス達五人の話題の中心は当然ながら、彼女の事である。



「まさかナーベラルが蘭丸様に懸想してるなんて知らなかったっすよ。ユリ姉は知ってたっすか?」



人狼ワーウルフという異行種で燃えるような赤い髪に犬耳を生やしたリアル犬耳メイドであるルプスレギナ・ベータは快活そうな顔を綻ばせていた。



プレアデスの次女である彼女が姉と呼ぶのは長女の長い黒髪を後ろで一括り束ねたプレアデス一の巨乳を誇るメガネっ子メイドであるユリ・アルファしかいない。



「さぁ、ボクも知らなかったけど、まさか至高の存在たる蘭丸様に断りもなくキスするなんて、ナザリックのメイドとしてあるまじき行為よ。」



メガネっ子、巨乳、そしてボクっ子属性まで合わせ持つユリ・アルファは真面目な性格でメイドとしての能力もプレアデスで一番高い。



「ナーベラル心配。」



自動人形オートマタである四女のシズ・デルタは感情を感じさせない無表情のまま自室に待機中の姉を心配していた。



「今、見張りの蜘蛛からの情報でセバス様が蘭丸様をナーベラルの部屋に案内しているそうですよ。」



蜘蛛人という蟲種である五女のエントマ・ヴァシリッサ・ゼータは手下の小さな蜘蛛を第九階層に放って侵入者の監視をしていたので、この階層に転移してきたセバスと蘭丸の事を仲間に伝えた。



エントマは外見は可愛らしい外見と声をしているが、顔の蟲、目の蟲、口の蟲、身体の蟲等多くの蟲が共生してエントマ・ヴァシリッサ・ゼータという一つの個体を成している。



「ナーベラルの想いが蘭丸様に届くといいですわね。」



ナーベラル・ガンマと同じく三女であり、最も彼女と仲の良いお嬢様口調のメイドであるソリュシャン・イプシロンはスライムの異形種で粘体の身体を変化させて金髪巨乳美女に擬態している。



「ソリュシャン不敬ですよ!ボクたちは……」



ユリは主人に対する不敬な考えを持つソリュシャンを叱責しよう声を掛ける。



「でも、仮にナーベラルの想いに蘭丸様が答えてくだされば……姉妹である私達にもチャンスがあるのではなくて?」



ソリュシャンの言葉にプレアデス達の反応は真っ二つに別れた。



至高の存在に忠誠を誓うメイドとして浅ましくも主人を求めることはあってはならないが、仮に主人から求められた場合はやぶさかでない。



「あぁ……蘭丸様が、ボクの身体にあんなことや……こんな事を……はああぁぁぁ。」



「にひひっ……なんだか楽しみになってきたっすねぇ」



年齢10代後半から20代前半という年齢設定のユリ、ルプスレギナは自らも蘭丸のお手付きメイドになれるかもしれないと考えて顔を赤くしながら妄想を膨らませる。



ユリは人間が死後、デュラハンとなった設定のためアンデットよりも生前の人間としての感性を持ち、人狼ワーウルフのルプスレギナは狼と人間の二つの感性を持つので、アンデットのモモンガと人間の蘭丸ならば、好みのタイプは人間種である蘭丸だと断言する。



「「ん?」」



逆に10代前半の年齢設定で性欲を持たない自動人形オートマタ、蟲種であるシズ、エントマはソリュシャンの言葉の意味が理解出来ずに頭を捻っていた。



「うふふっ!至高の御方の穢れは一体どんな味がするのでしょう。じゅるる…」



スライムで種族的に性欲のないはずのソリュシャンも妄想を膨らませて口元が緩み、ヨダレを垂らしていた。



彼女は嗜虐心が強く、蔑んでいる人間種等を嬲り殺しにする事に快感を覚えるも、逆に崇拝している人間種等から穢される事にさらに強い快感を覚える。



「「「ナーベラル、絶対に上手くやりなさい!!」」」



こうして、蘭丸の知らないところでプレアデス年長組の意思が固まり、打算に満ちた想いでナーベラルの恋路を応援していた。

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