第11話 魔王ロール
俺が喜んでいるアルベド達をほっこりと眺めていると、モモンガさんが彼等に声を掛けた。
「フハハハハ!皆、蘭丸さんに感謝し、鍛錬に励むが良い!!」
支配者っぽい低い口調のモモンガさんは相手を畏怖させることの出来るスキル『絶望のオーラ』を常に纏っており、見た目の恐ろしさからまさに魔王の風格がある。
だから、俺はこの状態のモモンガさんを魔王ロールのモモンガさんと呼ぼうと思う。
「「「「「「はっ!」」」」」」
魔王ロールのモモンガさんによる締めの言葉で喜びはしゃいでいたアルベド達が瞬時に片膝を付いて平伏した。
「現在ナザリックは非常にまずい事態に陥っている。」
魔王ロールのモモンガさんは前置きをするとアルベド達が喜びを表す中でただ一人平伏したまま待機していたセバスに命令を出した。
「セバス、お前が外で見た事をここにいる皆に聞こえるように報告せよ。」
「はっ!ナザリックの周囲にかつての沼地の姿はなく、草原が広がっており、周囲1キロに人口建造物、人型生物、モンスターといった類は全く確認出来ませんでした。」
セバスの偵察結果を聞いて俺とモモンガさんは思わず顔を見合わせた。
「ということはユグドラシルが現実になったんじゃなくて、何処かに転移したってことで決定ですね。」
沼地でないならばユグドラシルが現実になった線は消えた。
俺の発言にモモンガさんは同意するように首を縦に振った後、すぐに守護者二人に命令を出す。
「皆、聞いた通りだ。守護者統括アルベド、並びに防衛戦の責任者であるデミウルゴス。」
「「はっ!」」
「両者の責任の元でより完璧な情報共有システムを作り、警護を厚くせよ。」
「「はっ!」」
魔王ロールのモモンガさんの命令を聞いたアルベドとデミウルゴスは命令を拝聴したが、俺はデミウルゴスに防衛戦責任者という役目がある事を初めて知った。
「マーレ、ナザリック地下大墳墓の隠蔽は可能か?」
魔王ロールのモモンガさんはこの場にいる守護者達の中で唯一の専門魔法職であるマーレに問い掛けた。
「魔法という手段では難しいと思います。で、でも例えば壁に土を掛けてそれに植物を生やした場合とか…」
ドルイド系統のジョブを極めて第10階位の樹魔法、土魔法を容易く使う事の出来るマーレらしい答えに俺は納得するが、それに異を唱える者がいた。
「栄光あるナザリックの壁を土で汚すと?」
「アルベド。余計な口を挟むな!」
アルベドは平伏したまま怒気を含んだ口調でマーレの言葉を遮ったため、魔王ロールのモモンガさんに注意を受けていた。
「はっ!申し訳ありません。モモンガ様。」
魔王ロールのモモンガさんに指摘されたアルベドは謝罪を述べながら、平伏した状態で深く頭を下げる。
「で、マーレ。壁に土を覆って隠すことは可能か?」
「はい。お許し頂けるのでしたら。ですが……。」
モモンガさんの提案にマーレは平伏したまま答えるが、最後に言葉を濁した。
「だだ広い草原にポツンと現れた小高い丘。確かによく目立つな。」
「はい。」
俺はマーレが言葉を濁した理由に気付き、言葉を引き継ぐとマーレは俺の方を向いて肯定するように頷いた。
「不自然な大地の盛り上がりか……。セバス、この周辺に丘のような物はあったか?」
魔王ロールのモモンガさんは顎の下に手を置き、軽く思案した後、更なる情報を必要としてセバスに質問した。
「いえ、残念ながら平坦な大地が続いているようです。」
「では、周辺の大地も盛り上げ、ダミーを作れば?」
「はい。それならばさほど目立たなくなるかと。」
魔王ロールのモモンガさんはセバスから得られた情報を元に実際に外を偵察してきた彼の意見を参考にしながら、マーレの意見を採用する結論を出した。
「よし、ならばそれに取り掛かかれ。隠し切れない上空部分には後程幻術を展開しよう。残りの各階層守護者はそれぞれアルベド、デミウルゴスの指揮下に入れ!」
「「「「「「はっ!」」」」」」
守護者達はモモンガさんの命令を受諾して我が家であるナザリック地下大墳墓を守るための話し合いはこうして集結した。
「最後に皆に聞きたいことがある。蘭丸さんの評価は先程聞かせてもらったが、皆が思う私の評価も聞いておきたい。まずはシャルティア、お前にとって私とはどのような人物だ?」
俺とてアルベド達の高評価に背中がむず痒くなるのを感じながらもやはり嬉しかったし、何よりもNPC達を信頼出来ると確信した。
だからモモンガさんの配下となる自我を持ったNPCの気持ちを聞いておきたいのはよく分かるので、俺は黙って見守る。
「はい。モモンガ様はまさに美の結晶まさにこの世界で最も美しいお方でありんす。」
モモンガさんの命令にシャルティアがうっとりした顔で答えた。
シャルティアもアンデッド族だからこその同じアンデッド族であるモモンガさんへの最大限の賛辞なのだろうか。
それともアンデット族からすればモモンガさんはめちゃくちゃイケメンに見えるのかな。
「うっ!?そうか…次、コキュートス!」
シャルティアの評価の方向が斜め上すぎて一瞬モモンガさんの言葉が詰まっていたが、続けて持ちこたえてコキュートスに質問した。
「ハッ…モモンガ様ハ守護者各員ヨリモ強者デアリ、マサニ、ナザリック地下大墳墓ノ絶対ナル支配者ニ相応シイ方カト。」
いかにもコキュートスらしい主に仕える武人って感じの評価だ。
そして、モモンガさんが守護者達に求めた評価はまさにコキュートスが言ったような内面に関することなのだろう。
モモンガさんは少し満足そうに次の守護者の顔を見て名前を呼ぶ。
「アウラ!」
「モモンガ様は慈悲深く。深き配慮に優れたお方です。」
「マーレ!」
「モモンガ様は凄く優しい方だと思います。」
純粋無垢なちびっ子二人の言葉を聞いたモモンガさんは嬉しそうだ。
「デミウルゴス!」
「モモンガ様は懸命な判断力と瞬時に実行される行動力を有される方。まさに端倪すべからざるという言葉が相応しき方です。」
デミウルゴスは顔に掛けたインテリ丸眼鏡で見た目が胡散臭い雰囲気だが、モモンガさんを評する言葉には確かな熱の篭っていた。
ちなみに『端倪すべからざる』とは計り知れない能力を持った人物を差す言葉だったはずたが、モモンガさんは知ってるかな?
「セバス、お前は蘭丸さんの評価も述べよ。お前の評価だけ聞いていないからな。」
「モモンガ様は至高の方々の統轄であり、最後まで私達を見放さず残って頂けた慈悲深きお方です。蘭丸様はそんなモモンガ様を最後まで支えて下さったナザリックの大恩人です。」
ありがとうセバス。
セバスは俺にとっても恩人だよ。
先程、俺がアルベド達に無視されたと思って落ち込んでいる所を見るや、すぐに駆け付けてフォローしてくれたからな。
「最後にアルベド!」
「至高の方々のまとめ役にして私共の絶対なる主人。そして私の愛しい御方です。」
アルベドは途中まで淡々と評価を述べていたが、「私の……」辺りから顔を赤らめてデミウルゴスとは違った意味の熱を帯びていた。
「そ、そうか。皆の考えは充分に理解した。最後にこの事態を乗り越えるべく、一丸となって励め!」
モモンガさんはアルベドの熱に気圧されながらも話を締めると守護者達は命令を拝聴して深く頭を下げて平伏した。
「「「「「「はっ!」」」」」」
俺は隣いるモモンガさんの肘を、自らの肘で突っつく。
「ねぇ、モモンガさん。」
「蘭丸さんどうかされましたか?」
俺は未だに魔王ロールを続けるモモンガさんを冷めた目で見ながら疑問をぶつける。
「モモンガさんは何時まで魔王ロールやってんですか?無理してるのバレバレですよ。アルベド達はユグドラシル時代の記憶を持ってるんだから、普段の声で問題ないでしょう?」
モモンガさんは男性にしては少し高めの優しい声色の持ち主であるため、魔王ロールを演じて無駄に低い声色を出しているのは無理している証拠だった。
「魔王ロールって……なっ!?そ、そ、それは…ほ、本当なのかアルベド!!」
アルベド達がサービス終了前の記憶があるなら、ユグドラシル時代にNPCとして作られた全ての記憶を持っているはずである。
モモンガさんは俺が心の中で呼んでいた魔王ロールという言葉に戸惑うも、慌てて噛み噛みになりながらアルベドに尋ねた。
「はっ!我らの支配者に相応しいモモンガ様の振る舞いに我ら一同感服の念が絶えませんが、もしモモンガ様がご無理されているようであれば[[rb:いつもの > ・・・・]]優しい御声で我らにご命令ください。」
「なんだとおおおおぉぉぉ!!」
モモンガさんはアルベド達に諭されると、恥ずかしさからスキル『絶望のオーラ』LvMAXを発しながら絶叫した。
「「「「「モモンガ様!?」」」」」
「わっはっはっはっはっ!」
俺は何故か『絶望のオーラ』を垂れ流して絶叫するモモンガさんと、恥ずかしさで取り乱しただけのモモンガさんを無駄に心配するアルベド達守護者の様子が可笑しくて腹を抱えて笑ってしまった。
「ふぅ……笑すぎですよ。蘭丸さん。」
モモンガさんは種族特性の精神状態の回復が発動したのかすぐに正気を取り戻したが、未だに笑いの止まらない俺を睨んだ。
ちなみに口調はアルベドに噛み噛みで質問した辺りから元の優しい声に戻っている。
「あははっ!けど、冗談抜きで魔王ロールのモモンガさんは風格がありましたよ。もし、この世界に有機生命体がいるなら魔王ロールで対応するべきですね。アルベドもそう思うよな?」
俺の質問にアルベドに質問すると、彼女は平伏して答える。
「はっ!まさに死の支配者オーバーロード。この世を統べる魔王にふさわしき風格であったと断言致します。」
「あぁ。あの振る舞いは自分でも少し気に入ってたから、ナザリックの外ではあんな感じで振る舞うとするよ。でも、魔王ロールって呼び方どうなんですかね〜。蘭丸さん!」
モモンガさんは俺の名付けた魔王ロールという名前がお気に召さないようだ。
「ならさ。いっそのこと皆で世界征服してモモンガさんが本物の魔王になったら、魔王ロールで間違いないんじゃない?」
「ははっ!それは面白そうですけど、そんな簡単に世界征服なんて出来る訳ないでしょう。なら、蘭丸さんも侍ロールとかやってみますか?」
「いやいや。拙者には無理でござるよ。ニンニン。」
「あははっ!!それじゃ忍者ロールじゃないですか!」
俺達はこの世界へ来る以前のように互いに冗談を交えながら巫山戯合っていると、申し訳なさげなアルベドに声を掛けられた。
「あ……あの!モモンガ様、蘭丸様。先程……」
「「あっ!?」」
ユグドラシル時代は普段からNPCなんで気にする事なく、二人で馬鹿話をしていたので、俺もモモンガさんもアルベド達に自我が芽生えた事を失念していた。
「じゃ、モモンガさん。俺はナーベラル・ガンマの所に行ってくるよ。そろそろ落ち着いたと思うし。」
「私も部屋でアイテムとか検証してみますね。」
俺達は急に恥ずかしくなってこの場から去る口実を咄嗟に考えて口にした。
まぁ、俺の場合は元々ここでのスキル検証が終わればナーベラル・ガンマの様子を見に行くつもりだったので、あながち口からデマカセというわけではない。
「蘭丸さん。ナーベラル・ガンマのことはNPCではなく、一人の女性として接してあげてください。」
俺の背中を押すようなモモンガさんの言葉に頷く。
「うん。ここで皆と接してよく分かった。この世界でのNPCは俺達と何ら変わらない。仲間であり、家族だからな。」
俺の言葉に守護者達が嬉しそうな顔をしているのが見えた。
「蘭丸様、私の部下の為にありがとうございます。部屋までは私が案内させていただきます。」
セバスが俺の前に立って頭を下げていた。
セバスはプレアデスの統括責任者という設定であるから、ナーベラル・ガンマは正しく彼の部下となる。
「セバス、よろしく頼むよ。」
確かに俺はナーベラル・ガンマの部屋を知らないので『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』の力で行けるか不安は残るため、セバスから申し出は有難かった。
「では、俺が第九階層まで送りますよ。『ゲート』!」
モモンガさんは『ゲート』の魔法を唱えると俺達の目の前の空間に黒い渦がうまれた。
俺は『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』の効果で第九階層に転移出来るが、セバスはこの指輪を持っておらず、さらに『ゲート』の魔法が使えない。
「モモンガさん、行ってくるよ。」
「それでは皆様、失礼致します。」
俺はモモンガさんに軽く手を振り、セバスはモモンガさんを含めた守護者達に向けて優雅に頭を下げると、俺達二人は揃って『ゲート』をくぐって第九階層へ向かった。
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