アニメ1期
第7話 サービス終了
俺は刀を鞘に納めてその場にドサッと腰掛けると達成感から笑いが込み上げてくる。
「ふぅ……終わった。終わったぁ。だはっはっはっ!!」
俺が守護者達六人を相手にほぼ完封勝利を納める事が出来た理由は多くあるが、大きな要因の一つにユグドラシルはフレンドリーファイヤと呼ばれる仲間への攻撃が有効であるため、魔法職や遠距離スキル持ちが援護出来ないように仲間の近接職を援護攻撃の壁となるように立ち回っていたことにある。
さらに俺は物理攻撃と素早さのステータスは全プレイヤー中トップの数値を持ち、『スキル神の指輪』でスキル発動時間とクールタイムが減少し、他のプレイヤーが一つのスキルを発動する間に二つのスキルを発動する事が出来るのも大きな勝因であった。
「『
モモンガさんは『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』という七匹の蛇が絡みついて杖の形をとるギルド武器を手にし、ギルド武器の効果の一つであるナザリック地下大墳墓内において負傷したギルドメンバーと所属する全てのNPCのHPを全回復する魔法を唱えながら俺の前に姿を現した。
『
「時間切れですよね?」
「はい。しかし、話をするにはNPC達が少々邪魔ですね。えっ〜と……確か『武装解除』。『持ち場に戻れ』!」
HPの回復したアルベド達NPCはその場で棒立ちであったため、モモンガさんは彼女らに命令を与えると、アルベド達は装備を解除して各々が元いた守護階層に帰って行った。
ちなみにユグドラシルは18禁にあたる行為は全面禁止なため、アルベドやシャルティアが装備を解除しても裸になるというオプションは存在せず、鎧姿から瞬時に普段のドレス姿に変わっていた。
少しでも期待してアルベドとシャルティアを見てしまったが、男同士だから俺には分かる。
きっとモモンガさんも期待したはずだ。
「ほぉ…NPCってそうやって動かしてたんですね。ゲームには負けたけど、モモンガさんのおかげで最後に楽しめました。」
「久しぶりに命令したので、NPC達がちゃんと命令に従うか不安でしたよ。正攻法で蘭丸さんに勝つのは無理なので、時間内にゴールさせない為に『誰でも楽々PK術』を駆使しながら色々作戦を立てて、とても楽しかったです。」
モモンガさんは骸骨なので表情は変わらないが、ニッコリマークのスタンプを顔の横に表示させて俺に笑い掛けてくれた。
「ぶはっ!そういや。色々やってくれましたね。」
コキュートス戦、守護者六人戦で満足した俺はモモンガさんの作戦の一つである押し掛けPKやから恐怖公トラップ、ガルガンチュアの戦わないトラップのことなどを思い出しながら吹き出した。
「恐怖公の部屋でもっとパニックになってくれれば尚最高でしたね。」
モモンガさんはサムズアップしたスタンプを表示させていた。
〖23:03:35〗
俺はちらりとコンソール画面の右上に表示されている時間を見て呟く。
「ユグドラシルも後一時間ですね。本当に楽しかったなぁ。」
「はい。本当に楽しかったです。蘭丸さん、覚えていますか?あの時のことを───」
俺とモモンガさんの呟く「楽しかった」が互いに今日のゲームではなく、ユグドラシルで積み重ねてきた時間を指すのだと分かった上で思い出話に華を咲かせていった。
◇
二人でユグドラシルの思い出話を続けていると突然フレンドのログイン通知が届く。
「「ヘロヘロさん!?」」
モモンガさんにも同様の通知が来ていたようで俺とモモンガさんの声が重なり、互いに顔を見合わせて笑顔を浮かべる。
モモンガさんは相変わらずスタンプのニッコリマークだがね。
ヘロヘロさんはスライムの異形種でかつて41人いた『アインズ・ウール・ゴウン』の中で引退せずに残っているモモンガさんを含めた四人の内一人で、同じスライム種族のぶくぶく茶釜さんとは違ってしっかりとしたスライムの形をとるプレイヤーである。
「蘭丸さん!ヘロヘロさん、少しなら話せるそうです。今から円卓の間に行きましょう。」
「やったぁ!もちろんです。早く行きましょう!!」
モモンガさんはすぐにヘロヘロさんにメッセージを送り、ナザリック地下大墳墓九階層にある円卓の間で会う約束をとると、互いに『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を使って円卓の間に転移した。
俺とモモンガさんが円卓の間に到着してすぐにヘロヘロさんが『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を使って円卓の間に姿を現した。
「おひさーです。モモンガさん、蘭丸さん。」
『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』の転移先を円卓の間とするとこの部屋に予め割り振られた各々の席に転移する仕組みになっており、俺は当然ながら先輩の席に座っている。
「お久しぶりです。正直、来てもらえるなんて思っても見ませんでしたよ。2年振りくらいですかね?」
「お邪魔してますよ。ヘロヘロさん。」
俺は懐かしいヘロヘロさんの姿を見ながら手を振るとヘロヘロさんは粘体の身体を変化させて手を作ると俺に振り返してくれた。
「そんなに時間が経っているなんてやばいなぁ。最近残業ばかりで時間の感覚が変なんですよね。」
俺とモモンガさんはヘロヘロさんのひどく疲れた声を聞いて心配で声を掛ける。
「それって超やばいんじゃないですか?」
「大丈夫ですか?」
「体ですか?チョーボロボロですよ。」
ヘロヘロさんは粘体の体をベチャッと机に倒れかかれるように変化させてボロボロぐらいを表現すると、俺は笑いを堪えきれずに吹き出してしまった。
「ぶはっ!すみません。超ブラック企業でしたっけ?大変ですね。」
「うわぁ…。」
ヘロヘロさんはリアルではスーパーブラックな企業に勤めていたはずなので、同じくリアルではブラック企業勤めのモモンガさんは酷く同情しているみたいだった。
「すみません。愚痴ばっかこぼしちゃって僕はそろそろ……眠すぎて。」
「「えっ!?」」
2年ぶりに会って数回言葉を交わしただけでログアウトを示唆するヘロヘロさんの言葉に俺とモモンガさんの驚く声が重なる。
俺はちらりと時刻を確認すると──
〖23:48:29〗
久しぶりに会ったのに、あとたった10分程度も一緒にいられないのかと思うと残念に思う。
「でも、ナザリック地下大墳墓がまだ残ってるなんて夢にも思いませんでしたよ。きっとモモンガさんがギルド長として頑張ってくれてたんですね。」
「……っ!?」
どこか他人事のように話すヘロヘロさんの言葉に俺は衝撃で言葉を失っていると、モモンガさんは取り繕うように言葉を返した。
「ナザリックはみんなで作り上げた本拠地ですからね。」
「では。モモンガさん、蘭丸さんお疲れ様でした。またどこがでお会いしましょう…」
会話を盛り上げることなく、モモンガさんの話を断ち切ったヘロヘロさんは本当に眠いだろうと思うが、冷たい態度だと感じてしまう。
「ゆっくり休んで下さい。」
「あ、はい。体を大事に。」
ヘロヘロさんに対し、優しく言葉を返すモモンガさんとは対象的に俺は酷く事務的な言葉が漏れてしまった。
そして、ヘロヘロさんは俺達の最後の言葉を聞こえたか聞いてないくらいのタイミングであっさりとログアウトした。
「ふざけるな!」
ヘロヘロさんの前では平静を取り繕っていたモモンガさんはヘロヘロさんがログアウトしたことを見届けると、突然怒って机を叩いた。
「ここは皆で作り上げたナザリック地下大墳墓だろ…なんで簡単に捨てることができる…いや…違うか…誰も裏切って等いない…41人中37人が辞めてしまった…残りの二人だって…」
その三人の内一人がヘロヘロさんだったのだが、残りの二人もここ数年ログインした形跡はなく、残り10分でサービス終了となるこの時間ではおそらくログインすることも無いだろう。
俺はこのナザリック地下大墳墓が『アインズ・ウール・ゴウン』の本拠地となってから皆と知り合ったが、かつてユグドラシルでは知らぬ者がいなかったこれだけのギルドを立ち上げ、当時未踏破ダンジョンであったこのナザリック地下大墳墓を攻略し、仲間達と意見を交わしながら本拠地として多くのトラップやNPCを作り上げたモモンガさんの気持ちを考えると俺以上にヘロヘロさんの他人事な態度は悔しかったに違いない。
「ここは所詮はゲーム世界。皆社会人だからリアルが優先になるのは仕方ないのかもしれませんね。」
モモンガさんの本当に悔しそうな態度で逆に冷静になった俺は彼の肩を叩きながら声を掛けた。
決して慰めになるとは思っていないが、モモンガさんも薄々感じているはずのどうしようもない真実であった。
「そうですよね。ははっ。お見苦しい所をお見せしました。えぇ、よく分かっていますよ。蘭丸さん、最後に玉座の間に行きませんか?」
モモンガさんは意を決したように立ち上がると『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を使うことなく、部屋の扉を開けて俺を誘ってくれた。
「もちろん。俺は最後まで見届けますよ。」
「ありがとうございます。」
俺はモモンガさんの後に続いて玉座の間まで歩いていくと、執事NPCと六人のメイドNPCを見つけた。
「おっ!さっき俺と戦ったセバスと彼女達は戦闘メイドのプレアデスでしたかね?」
「あーそうです。ギルド長たるもの、最後くらい仕事をさせましょう。『付き従え』。」
セバスとプレアデス達はモモンガさんの命令に従って彼の後ろに付き従って歩き出したので、俺は邪魔にならないようにモモンガさんと並んで玉座の間に移動する。
「『待機』。」
俺達が玉座の間の最奥鎮座する王座の前まで来ると、モモンガさんはセバス達に待機を命じてから玉座に座ると、俺は玉座近くの柱に背を預けてもたれかかった。
「おっ?アルベドだ。」
「あっ……そういやNPCにはそれぞれに詳細なキャラ設定があるんですけど、見ますか?」
モモンガさんはアルベドのキャラ設定を開いて俺に見せてくれる。
「「長っ!?」」
俺とモモンガさんが詳細に書かれたキャラ設定にドン引きしながらも、スライドしながら読み飛ばしていくと、最後の一文に
『ちなみにビッチである。』
と書かれているのを見て、俺とモモンガさんは不憫に思ってアルベドを見る。
「そういや…タブラさんはギャップ萌えでしたっけ。」
「あ〜そうだった。こういうクールビューティがビッチっていうギャップを狙ったんですね。ねぇねぇモモンガさん、流石にビッチは酷いから書き直しましょうよ?」
「そうですね。本当はツールが必要なんですけど、この『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を使えば…ほら、この通り。」
モモンガさんの取り出したギルド武器の効果で彼の目の前に透明なキーボードが現れて設定の書き直しが可能になった。
モモンガさんがこの一文を削除してから何を書くか悩んでいたので、俺はモモンガさんに変わって今思い付いた最後の一文を書き換えた。
『モモンガを愛している。』
それを見たモモンガさんか慌てて俺からキーボードを奪おうと手を伸ばした。
「えっ!?ちょっ…」
しかし、先に述べた通り素早さで俺に勝てるプレイヤー等存在せず、俺はEnterキーをポチッとした。
「ちょっと蘭丸さん何してるのですか!?」
「ハッハッハ!もう遅いです。最後くらいいいじゃないですか!今日くらい先輩達も怒りませんよ。」
「それもそうですね。では、私も勝手にしますか。」
俺はモモンガさんが何をするのか気になって近寄っていくと突如、ピロピロという音が響いてメッセージ通知が届いた。
「ん?こ、これって……ギルド招待通知!?」
送られてきたのはただのメッセージではなく、『アインズ・ウール・ゴウン』からのギルド招待通知だった。
当然ながらこのギルドの招待通知を行えるのは今はこの人しかいない。
「最後くらいいいじゃないですか。蘭丸さんならば皆も怒りませんよ。」
『アインズ・ウール・ゴウン』への加入条件は1.異形種であること。2.プレイヤーは社会人であることの二つであるが、人間種である俺は1の条件を満たしていない。
俺が先程言った言葉をそのままモモンガさんに返されたので、ぐうの音もでない。
俺はギルド間の防衛戦や攻城戦には助っ人枠で『アインズ・ウール・ゴウン』に参加し、どんなイベントも『アインズ・ウール・ゴウン』の仲間達と遊んできたので、今更他のギルドに入る気もおきずにギルドは未所属のままだった。
〖23時59分25秒〗
「蘭丸さん、早くしないともう時間もありませんよ。」
あと30秒足らずでユグドラシルの最後を迎えるため、俺はモモンガさんに急かされてコンソールにある招待承認ボタンを押す。
「蘭丸さん、『アインズ・ウール・ゴウン』へようこそ!」
俺はモモンガさんからの歓迎の言葉を聞きながら、王座の間の天井に掲げられている41枚の赤旗の横に42枚目の赤旗が新たに飾られたことに目を奪われた。
「刀?まさか俺の旗印か!?」
その42枚目の赤旗の中央には刀を模した絵が描かれており、41枚の赤旗の中央には各ギルドメンバーの旗印となる絵が描かれているのだが、何故俺の旗印がここにあるのか……。
「はっはっは!驚いてくれましたか?蘭丸さんの旗印は既に用意してたんですよ。蘭丸さん、今日まで色々助けてくれたのに助っ人扱いのままで、本当にすみませんでした。」
モモンガさんが最後に俺をここに誘ったのはこの旗印を俺に見せるためだったのだと分かると胸に熱いものが込み上げてきた。
「モモンガさん、最後に俺をこのギルドに迎えてくれてありがとう。」
ユグドラシルで最強の剣士となり、最後には先輩達が作り上げたギルドにも所属出来たことで俺はユグドラシル生活において本当に思い残すことはなくなった。
「では、蘭丸さんお元気で。たっちさんにもよろしくお伝えください。」
「必ず伝えるよ。モモンガさんも元気でな。」
俺は最後にモモンガさんの差し出す手を握り、固く握手をするとそのままの状態で目を閉じてユグドラシル最後の時を待った。
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