第6話 ワールドチャンピオンの実力

俺はその魔法陣が転移魔法である事に気付いた瞬間、光が治まって魔法陣は消え失せていたが、転移魔法陣が展開していた場所には新たに四人の異形種が出現した。



「どうもどうも。私は偉大なる御方々より第七階層の守護者を任せていただいているデミウルゴスと申します。」



デミウルゴスは悪魔種の異形種で身長は俺よりも少し高い180センチメートルくらいの黒髪のオールバックに黒い丸眼鏡のサングラス、赤地に黄色のストライプ柄の上下スーツ姿の敏腕中年サラリーマン風の男性であるが、腰から伸びた足のないムカデの体のような節のある長いシッポが彼が人間ではない証である。



余談だが、デミウルゴスの創造主は悪魔の異形種であるウルベルトさんで先輩とはソリが合わずに良く喧嘩をしていた。



「私は第一階層から第三階層の階層守護者であるシャルティア・ブラッドフォールンでありんす。」



シャルティア・ブラッドフォールンは吸血鬼の異形種で身長140センチメートルくらい、腰まで長い白銀の髪を持ち、普段は黒を基調としたゴシックドレスを着用しているが、今日は戦闘服である真紅の全身鎧にスポイトを巨大化したような槍を携えている。



赤い兜から見える顔は可愛らしいものの、実は正体はヤツメウナギのような化け物らしいが俺は見た事がない。



シャルティア・ブラッドフォールンの創造主さんはバードマンという鳥人種の異形種であるペペロンチーノさんでアウラ、マーレの創造主であるぶくぶく茶釜さんとはリアル姉弟である。



ペペロンチーノさんはぶくぶく茶釜さんほど変態ではなく、性格はクラスに一人いるであろう残念イケメンといった感じで実際モテないことを気にして、姉であるぶくぶく茶釜さんにからかわれていた。



「私は守護者統括アルベド。この地に土足で踏み入れた愚か者に死の制裁を与えます。」



アルベドはサキュバスという悪魔種の異形種で身長170センチメートルくらい、腰まで長い黒髪を持ち、モデル顔負けのグラマーなスタイルの持ち主で普段は豊満な胸元の露出が激しい白色のドレス姿であるが、今日は戦闘服である表情すら分からない漆黒の全身鎧に漆黒のフルフェイス兜、左手に漆黒の盾、右手に漆黒の斧を携えいる。



アルベドの創造主はブレインイーターという異形種であるタブラ・スマラグディナさん。名前が長いので皆からはタブラ、またはタブラさんと呼ばれており、俺もタブラさんと呼んでいた。



タブラさんは真面目で凝り性な性格でナザリック地下大墳墓にある俺が苦しめられた数々のギミックの多くを作り上げた人である。



「わたくしはナザリック地下大墳墓において偉大なる御方々の執事をさせていただいているセバスと申します。」



セバスとは正式にはセバス・チャンという名前で、先輩が作ったNPCであるが、先輩がセバスを我が子のように『ゼバスちゃん』と呼んでいたのがそのまま名前になってしまった経緯を持つ。



この経緯を初めて教えてもらった時、今ではすっかり子煩悩のいいパパをしている先輩らしいエピソードだと思ってほっこりした。



セバスは身長180センチメートルくらい、短く切り揃えられた白髪と髭を持ち、黒の燕尾服を纏う年齢60歳前後のザ・執事で見た目はどう見ても人間にしか見えないが、龍人という異形種である。



「なるほど…総力戦って訳か。」



既にこの場にいたアウラ、マーレを含めた彼等NPCの六人は全員がLv100で、彼等をユグドラシルのプレイヤーとして評価すれば間違いなく、コキュートスと同じく上の中に食い込めるステータス、種族レベル、ジョブと装備を持っている。



ワールドチャンピオンと対等に戦うなら上の上なら三人、上の中なら四人、上の下なら五人必要というのはユグドラシルのプレイヤーなら常識であり、第二階層の死蝋玄室にシャルティア・ブラッドフォールンがいなかった理由がここで理解出来た。



「上の中が六人か……それでも普段の俺なら余裕だと胸を張れるが、でもさぁ〜俺の今の武器は[[rb:これ > 逆刃刀・えんま]]だからなぁ。六対一で勝てるか不安だなぁ〜。」



俺は文面とは裏腹に気持ち悪いくらいウキウキした声を発しながら、左腰に帯びた『逆刃刀・えんま』の柄を忙しなく左手でニギニギして顔もニヤけてるのが自分でも分かる。



『閻魔』を装備した俺ならば仮に上の上が六人相手でも勝てないまでも五分の戦いを演じる自信があるが、『逆刃刀・えんま』で上の中の実力者であるこの守護者達六人を相手にどれだけ戦えるかワクワクする。



「さて、お前たち準備はいいかな?」



俺は目の前で隊列を組み終えた六人の守護者達に声を掛けると、先頭に立ち盾を前方に構えるアルベドと燕尾服のまま徒手空拳の構えのセバスの二人が俺目掛けて真っ直ぐに駆けてきた。



しかし、数的不利のこの状況下において先制攻撃を譲るつもりはない。



「『覇者の威圧』!」



俺は『韋駄天の指輪』の効果で確実に先制攻撃が出来るので、ワールドチャンピオンスキル『覇者の威圧』を発動するとアルベド達六人の守護者全員の動きが固まる。



「「「「「っ!?」」」」」



───



覇者の威圧

・眼前にいる敵全員を威圧し、二秒間動けなくする。

・アイテム、装備、スキル、魔法による防御不可。

・ワールドチャンピオン相手には効果がない。

・相手が一人しかいない時は発動しない。

・一日一回だけ使用可能。



───



要するに多人数相手にする場合に限りワールドチャンピオン以外を二秒間動けなくするだけのスキルであるが、戦闘における二秒間の硬直とは致命的な隙を生む。



「『紫電一閃』!」



俺は守護者パーティの最後尾にいるマーレ目掛けて雷のごとき速度で一気に距離を詰めると、超電磁力を使った最速の居合切り『紫電一閃』放つ。



『紫電一閃』の一撃で後衛職で物理防御の低いマーレのHPが五割を切って、ここでようやく一秒経過するも守護者達は未だ『覇者の威圧』の効果で硬直したままである。



「これで一人脱落だ。『次元断切ワールドブレイク』!」



マーレの後ろまで走り抜けた俺はがら空きのマーレの背中目掛けて次元断切ワールドブレイクを放つと、生み出された次元の裂け目にマーレだけでなく、パーティの先頭に立つこの技から一番遠くにいたアルベド、セバスを含めた守護者六人が引きづり込まれた。



ここでようやく『覇者の威圧』の効果が切れる二秒が経過した。



「悪く思うなよ。広域殲滅魔法に加えて回復魔法やデバフ魔法の使い手であるマーレがお前たちの中では一番厄介なんだ。」



何よりも回復職をまず狙うのは戦闘の基本である。



しばらくするとアルベド達守護者六人が次元の裂け目からペッと吐き出されるが、『紫電一閃』、『次元断切ワールドブレイク』という強スキルを立て続けにその身に受けたマーレは峰打ちの効果でHP1となり、ダウンしていた。



さらにHP満タンであった残り五人の守護者達も物理防御とHPの高い近接職であるアルベド、セバス、シャルティアが残りHPが6割から7割、物理防御とHPの低いアウラ、デミウルゴスは残りHPが5割弱しか残っていない。



次元断切ワールドブレイク』に限らず『覇者の威圧』を含めたワールドチャンピオンのスキルは強すぎるため、全てのスキルが一日に一回しか使えないが、俺はスキル回数+1の効果を持つ『スキル神の指輪』のおかけで一日に二回まで使うことが出来る。



次元断切ワールドブレイク』はコキュートス戦と今、合計二回使ったため今日はこの壊れスキルは打ち止めである。



「さて、このゲームは俺の負けだが、最後にいい思い出が出来そうだ。さぁ、来いよ。」



〖22:50:40〗



俺は右上に表示されている現在時刻を見ながら、残り10分で五人を倒して最下層へ向かうことは出来ないとゲームの負けを悟りながらも、この戦いを楽しむためにニヤリと口角をあげて刀をダラりと下げて隙だらけの構えをとると、満身創痍の守護者達に向けて左手をクイッと動かして挑発した。



「『清浄投擲槍』!」



「『暴風雨テンペスト』!」



「『朱の新星ヴァーミリオンノヴァ』!」



シャルティアがパラディンスキル『清浄投擲槍』効果で作り出したの神聖属性の白銀槍を召喚して俺に放ち、アウラ、デミウルゴスがそれぞれ単体の敵を狙うには最も威力のあるどちらも第9位階魔法に属する風属性魔法『暴風雨テンペスト』、火属性魔法『朱の新星ヴァーミリオンノヴァ』を放つ。



さらにセバス、アルベドは攻撃の邪魔にならぬように左右に別れて俺への距離を詰めてくる。



「いいねぇ。『瞬歩』。」



俺は迫り来る白銀槍と二種類の魔法攻撃を見てニヤリと笑いながら、その攻撃の下を掻い潜るようにソードマスタースキル『瞬歩』による高速移動で拳を構えて俺に接近していたセバスの眼前に移動する。



「『位置交換トランスポジション』!」



アルベドが自分と対象の位置を入れ替える『位置交換トランスポジション』を使ったことで、俺の目の前にいたはずのセバスが漆黒の盾を正面に構えたアルベドと瞬時に入れ変わった。



アルベドは盾職を極めたNPCであり、仲間が攻撃を受けそうな時に仲間を守るのがタンクと呼ばれる盾職の役割であるからこそ、残念ながら彼女とった行動は俺の予想通りであった。



「お前を待ってたぜ。アルベド。『山崩し』!」



盾を構えるアルベドは油断なく俺を見据えて、俺の放つ技に即座に対応すべく『パリー』等の防御スキルを準備している様子であるが、それこそが俺の狙いであった。



「くっ!?」



俺は右手で持つ刀を鞘に納刀しながら、左足を強く踏み込んで左肩で漆黒の盾に体当たりするように予め発動の準備していたモンクスキル『山崩し』を放つとアルベドはくぐもった声を上げながらスキル効果が発動して盾を持った左腕が天に向けて跳ね上げられた。



───



山崩し


・防御体制をとる相手に大ダメージを与え、さらに防御体制を崩すことの出来る。

・防衛体制を取らない相手には発動しない。



───



ここで少しユグドラシルにおける刀という武器について話す。



ユグドラシルにおいて武器は右手と左手に装備出来るが、一部の両手武器と呼ばれる武器は右手にしか装備出来ない。



大太刀が片手武器扱いなのに対し、刀は居合切りの際に両手を使うという武器の特性上両手武器扱いであるため、刀を使うくらいならリーチが長く威力も高い上、両手に大太刀を持つことで二刀流とすることも出来る大太刀を使うというのがユグドラシルの主流となっており、上位ランカーで刀を使うプレイヤーはほとんどいない。



俺は幼少期から嗜んできた剣道で使う竹刀や木刀の元となった刀に愛着があって使い続けた結果、右手で刀スキルを使い、左手で格闘スキルを使う今のスタイルを確立した。



俺は左腕を上げたままのアルベドに向けて納刀した塚に右手を添えて居合切りの構えを取ると、刀装備限定のワールドチャンピオンスキルを放つ。



「『七天抜刀』!」



戦士職には刀、大太刀、剣の他にも徒手空拳、斧、槍、槌等多くの武器があり、どの武器の使い手がワールドチャンピオンとなっても良いようにどの武器でも使える『覇者の威圧』や『次元断切』などの汎用スキルの他に各武器に応じた超弩級の威力を誇る単体攻撃スキルが存在する。



───



七天抜刀


・ワールドチャンピオンの刀武器専用スキル。

・居合切りが七つの斬撃に分裂し、相手に七連撃のダメージを与える。

・刀武器による単体攻撃において最も威力の高い最スキル

・回数制限一日一回。



───



俺の放つ『七天抜刀』により、七つの斬撃をその身に受けたアルベドは峰打ち効果が発動し、HP1となってその場に崩れ落ちた。



「『気爆拳』!」



直後、がら空きの俺の背中目掛けてセバスが気を拳に纏う正拳突きを繰り出してくる事に気付き、その場で180度回転して正対した彼の拳に刀の鎬を添える。



「『受け流し』!」



俺はセバスの気を纏った右拳を受け流しながら、刀を上段に構えると、次のスキルの発動を準備する。



「『拳防御フィストガード』!」



セバスは光を帯びた刀を見ると、直ちに左腕を頭上に掲げて防御体制を取りながら被ダメージを大幅カット出来るモンクスキル『拳防御フィストガード』を発動した。



「甘いな!『燕返し』!」



俺はサムライスキル『燕返し』を発動しながら、振り上げた刀を真っ直ぐに振り下ろした。



───



燕返し


・相手の物理攻撃または物理攻撃スキルを『受け流し』に成功した直後に発動した時、防御不能の攻撃を与える技。



───



俺の刀は防御スキルを発動している左腕をすり抜けて・・・・・セバスの左肩から右脇腹にかけてを両断した。



「ぐはっ!?」



『受け流し』成功直後の『燕返し』の効果によって防御スキル『拳防御フィストガード』が無効化されたことで大きくHPを減らしたセバスがくぐもった声をあげた。



「吹き飛べ!『獣王無尽』!!」



俺は続けざまにワールドチャンピオンスキル『獣王無尽』を発動する。



───



獣王無尽


・周囲を縦横無尽に切り裂き、相手に物理ダメージを与えつつ、獣王のごとき怪力で周囲の敵を弾き飛ばす技。

・回数制限一日一回。



───



俺の前にいるセバスだけでなく、セバスやアルベドを援護するために俺に近づいて攻撃しようとしていたシャルティア、デミウルゴスもこのスキルの巻き添えとなって弾き飛した。



「「「「ぐはっ!?」」」」



セバスは『獣王無尽』によって峰打ち効果が発動し、HP1となってその場に倒れた。



第10階位魔法を超える最高位魔法である超位魔法に相当する威力を有するワールドチャンピオンスキルは発動に時間のかかる超位魔法と違って普通のスキル同様に瞬時に発動出来る。



「せめてもの情けだ。覇者の威圧は使わないから俺を楽しませてくれよ?」



俺は刀の切っ先を残る満身創痍の三人の守護者達に向けて声を掛けた。



『スキル神の指輪』の効果でもう一度使うことの出来る『覇者の威圧』を使用すれば楽に勝てるがそれでは面白くない。



しかし、残る守護者達はタンク、ヒーラーというパーティにおいて重要な役割を担うアルベド、マーレを失っており、さらに言うならば俺はまだ一撃も攻撃を受けていないのだ。



数分後、この場に立つのは俺のみとなって満天の星空の下に鞘に刀を納めるカチンッという小気味よい音が響き渡った。

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