第2話 ゲームの提案

その日、俺は仕事を終えて帰宅し、夕食、入浴といった必要なことを終えた俺はヘッドセットを被りながら、ユグドラシルのパッケージを感慨深く眺める。



「さて、ユグドラシルも今日が最後か…。先輩も最後くらいログイン出来ればよかったのに、まさか本体ごと売っぱらってるとはな。」



俺にゲームを進めてくれた先輩は数年前にゲームを辞めたが、勿論現役バリバリで警察官をやっており、ゲーム機は未練が残るからという理由で引退したその日に売り払ったらしい。



「まぁ、先輩らしいといえばらしいが、やはり残念だな。ユグドラシルのサービスが終了する最後の日くらい向こうで会いたかった。でも、最後だから先輩以外にも誰か来てないかなぁ。」



俺は世話になったギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の面々の顔を思い出しながらユグドラシルのゲームを起動させた。



「蘭丸さん、こんばんは。」



俺はログインして直ぐにこのユグドラシルにおいて現在唯一のフレンドである髑髏顔の異形種モモンガさんから声を掛けられた。



そういえば昨日は『アインズ・ウール・ゴウン』の会議室でモモンガさんと昔話に花を咲かせた後、ログアウトしたのを思い出した。

 


「モモンガさん、早いですねぇ。皆はやっぱり来てないか……」



俺はギルド全員分の席が用意された『アインズ・ウール・ゴウン』の円卓を見渡して隣にいるモモンガさんしか居ないことを確認して肩を落とす。



「はい。一応今日は有給取ってずっと待ってたんですけどね……たっちさんは来れますか?」



モモンガさんは期待に満ちた声で俺に問いかける。



昨日モモンガさんに「明日、先輩に声掛けてみます。」と言った手前、凄く申し訳ない気分になりながらモモンガさんに向けて頭を下げる。



「すみません。先輩、もうゲーム機自体ないみたいで……」



「いやいや蘭丸さん、謝らないでください。そうですか……たっちさんも来れませんか……。」



モモンガさんは俺を気遣いながらも先輩が来れないことを知ってガックリと肩を落としている。


モモンガさんはかつて異形種狩りという異形種を狙ったPKの標的とされた時に先輩に助けられ、その縁でギルドに誘われたと聞いたことがあるから、モモンガさんにとって先輩は恩人であり、最後に一目会いたかったのだろう。


かつては41人いたギルドメンバーもここ数年はギルド長であるモモンガさんを除いて皆辞めてしまったり、ログインしなっていた。



〖20:50:55〗



俺はコンソール画面の右上に表示されている現在時刻を確認するとモモンガさんに笑みを浮かべながら話し掛ける。



「なぁ…モモンガさん、このまま待ってても暇だから一つ俺とゲームをしないか?」



「えっ?何をする気ですか?」



俺が提示したゲームをモモンガさんに告げた時、モモンガさんは『えええぇぇぇぇ!!』と悲鳴を上げたが、しばらく考えた後、『面白そうですね。』と俺のゲームに乗ってくれた。







俺はヘルヘイムという町の辺境にある湿地帯の奥に存在し、グレンデラ沼地という毒沼で覆われている『アインズ・ウール・ゴウン』の本拠地であるナザリック地下大墳墓の入口となる神殿を思わせる石造りの建造物の前に立つ。



ゲームをした事ある人は知っていると思うが、毒の沼地を歩けば継続ダメージを負ったり、毒状態になったりするが、防具の効果で毒を無効化している俺にとっては広大な水溜まりと相違なく、のんびりと自分のキャラステータスを眺める。



────



名前:蘭丸



種族:人間種:ハイヒューマン

・人間を超えた人間:HP、物理攻撃、物理防御、素早さのステータス強化

・寿命、老化の超越

・特殊進化:レベル100に到達した人間が進化可能



職業:ファイターLv10

ローニンLv10

サムライLv15

ソードマスターLv10

ケンセイLv10

マスターファイターLv10

エクスキューショナーLv10

モンクLv10

キ・マスターLv10

ワールドチャンピオンLv5

合計Lv100



《装備》

武器:閻魔[刀武器、神器級ゴッズ]

・公式ランキング1位報酬

・装備破壊不能

・血の如く真っ赤な刀身、黒を基調とした塚、鞘に金鍔

・物理攻撃力向上極大:自身の物理攻撃力が極大向上

・吸収大:与えたダメージの5割を自分のHPに変換

・クリティカルヒット確率極大:クリティカルヒット確率が+30%

・破魔の刃:第8位階以下の魔法を斬り裂くことが出来る。



防具

胴、腕、足:刀神の黒袴[全身鎧、神器級ゴッズ]

・公式武術トーナメント優勝報酬

・装備破壊不能

・黒色を基調とした袴姿に黒色の膝当て、手甲を装備した全身装備

・能力向上極大:自身の全ての能力極大向上

・刀によって相手に与える物理ダメージが大幅に上昇する。

・サムライジョブのスキル回数制限撤廃。

・ダメージ極減:スキル、魔法によるダメージの5割軽減

・状態異常完全無効:あらゆる状態異常を完全に無効化する。



頭:刀神の額当て[頭装備、神器級ゴッズ]

・額を覆う漆黒の鉢金

・装備破壊不能

・能力向上大:自身の全ての能力が大きく向上

・刀によって与える物理ダメージが上昇する。

・『受け流し』スキルの成功確率上昇。



アクセサリー

首:矢よけのネックレス[神器級ゴッズ]

・矢等の投擲物理攻撃の完全回避



指輪:根性の指輪[神器級ゴッズ]

・HP1以上残っている状態でHP全損の攻撃を受けても一度の戦闘で一回だけHP1で耐えることが出来る。

・即死スキル、即死魔法無効



指輪:天使の指輪[聖遺物級レリック]

・10秒間に一度全HPの1%回復する。



指輪:韋駄天の指輪[神器級ゴッズ]

・素早さのステータス極大向上

・戦闘開始時、確実に先制攻撃が出来る。(相手とこの効果が重複した場合は素早さのステータスが高い方が先制攻撃出来る。)



指輪:金剛力の指輪[神器級ゴッズ]

・物理攻撃のステータス極大向上

・一定確率で物理攻撃が相手の物理防御力無視する。



指輪:不動の指輪[神器級ゴッズ]

・物理防御のステータス極大向上

・低威力のダメージ無効。



指輪:絶魔の指輪[神器級ゴッズ]

・魔法防御のステータス極大向上

・魔法被ダメージ減少



指輪:幸運猫の指輪[神器級ゴッズ]

・課金アイテム

・クリティカルヒット確率とモンスタードロップ率が2倍。

・被ダメージを一定確率で無効化する。



指輪:アンチクリティカルリング[神器級ゴッズ]

・課金アイテム

・クリティカルヒット無効の相手にもクリティカルヒットを当てることが出来る。

・相手の攻撃によるクリティカルヒット無効(この指輪を相手が所持していればこの効果は無効化される。)



指輪:スキル神の指輪[神器級ゴッズ]

・課金アイテム

・魔法のクールタイム2倍、スキルのクールタイム1/2となる。

・スキル発動時間の短縮。

・スキル回数制限のあるスキル+1



────



我ながら魔法職0という脳筋ビルドだと思うが、俺のステータスで一番のツッコミどころはやはり種族ではないだろうか。



モモンガさんや先輩等の異形種や獣人族等は種族値があり、種族に応じてはレベルや特殊条件によって進化する種族も存在し、種族レベルとジョブレベルを合わせて100になるように育てていく。



俺のような人間やエルフは異形種や獣人族に比べてステータスで劣るが、種族値がないためジョブレベルを100まで全て使う事が出来る。



しかし、レベル100に到達した人間種のプレイヤーはハイヒューマン、エルフはハイエルフへと特殊進化が可能となり、ハイヒューマンは上記の通り戦士向けのステータスが向上し、ハイエルフならばMP、魔法攻撃、魔法防御、素早さといったが魔法職向けのステータスが増加する。



正直、ゲーム内では何年経とうが歳を取らないので寿命、老化の超越は要らない気もするが、ハイヒューマンとなったことで素のステータスが増加したのは嬉しかった。



更に公式戦や公式ランキング報酬である防具や武器はギルド武器にも匹敵する最高峰の性能を持ち、さらに運営が気を利かせて貸与者が扱い易いように当時の装備品に近い見た目に調整してくれているのだ。



先輩が使っていた白銀の全身鎧『コンプライアンス・ロー』も公式武術トーナメント優勝報酬であるが、トーナメント優勝時に装備していた鎧とそっくりだと聞いているため運営の粋な計らいなのだろう。



さらに指輪に関しては無課金ならば両手に一個ずつ装備出来るが、課金により10本の指全てに装備可能となっており、俺も課金により全ての指を解放している。



『閻魔』と『幸運猫の指輪』を合わせると装備だけで、クリティカルヒット確率が60%となり、これにクリティカルヒット上昇スキルやエクスキューショナーのジョブ特性を合わせるとクリティカルヒット確率を100%にすることが出来るため、課金アイテムの指輪3個は断腸の思いで課金して手に入れた装備である。



なお、今装備している指輪装備が9つしかないのは先輩が引退した時、人間種であるためにこの『アインズ・ウール・ゴウン』に加入していないにも関わらずギルドメンバーの証たる



指輪:リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン[神器級ゴッズ]

・ナザリック地下大墳墓の何処にでも自由に転移出来る。



を譲り受け、モモンガさんを初めとする『アインズ・ウール・ゴウン』のギルドメンバーの了承を得て、いつも装備しているからであるが、今はこれから行うゲームに備えて装備から外している。



ちなみに刀を持ちにくいので、全ての指輪を不可視設定にして邪魔にならないようにしている。



《蘭丸さん、武器はこれでお願い出来ますか?》



ステータスを眺めながら感慨に耽っていると、モモンガさんからプレゼント付きのメッセージが通話が届いた。


メッセージとは手紙というよりも頭の中に直接声が届く念話に近いものである。



「ん?」


 

俺はプレゼントを受け取り、手に取って確認すると腰に差す『閻魔』と変わらない見た目の刀武器を手にし、首を傾げながらも性能を確認する。

 


───



武器:逆刃刀・えんま[刀武器、聖遺物級レリック]

・モモンガが作り出した非致死の刀

・峰打ち:死亡となるダメージを与えても、相手のHPを必ず1残してスタンさせる。

・物理攻撃力向上中:物理攻撃力を向上する。

・吸収小:与えたダメージの1割を自分のHPに変換する

・クリティカルヒット確率小:クリティカルヒット確率が+10%

・見た目は閻魔と変わらないが、刀身の刃と峰が逆になっている。


 

───



「ぶはっ!」


 

俺は劣化版『閻魔』という性能を持つ『逆刃刀・えんま』を見て思わず吹き出してしまった。



《どうやら気に入っていただけたようでよかったです。》



それにしても逆刃刀って……あれだよね。



逆刃刀を抜き放ちながら天〇龍閃とは言いたい欲望に駆られる程度には、もうこの武器を気に入ってしまったが、何故か親に厨二病を疑われた子供のような気持ちで俺はモモンガさんに返信する。



《これはまた面白い刀を作りましたね。》



モモンガさんは道具と魔法を巧みに組み合わせた戦い方で公式ランキングでも上位にランクインしていた実力者であり、上位道具創造クリエイト・グレーター・アイテムという聖遺物級レリック以下の装備を作る事が出来る魔法を持っているのは知っているが、まさか性能も調整出来るとは知らなかった。



《今日が最後と言っても……やはり仲間達と作ったNPC達を失うのは辛いので、配下にはHPが1になった時点で行動を停止する命令を出しておきます。》



モモンガさんにとってギルドメンバー達とキャラデザから性格、さらに能力までを作り上げたNPC達は我が子同然なのだろう。



俺は『閻魔』の装備を外し、『逆刃刀・えんま』を装備するとモモンガさんにメッセージを送る。



《最後なんで全力で暴れますよ。》



《我がナザリック地下大墳墓の全勢力を以て迎え撃ちます。》



俺の目の前にあるナザリック地下大墳墓とは、地上部分の陵墓に加え、地下一階から第十階層で構成されており、更に転移しないと行けない隠し部屋たる宝物殿なども存在する。



「さて、後1分弱か……」



俺はコンソール画面の右上に表示されている時間〖20:58:39〗を眺めながら、軽く屈伸をしたり腕を伸ばしたりとストレッチをしていく。



「それにしてもモモンガさんも案外乗り気だったな。やっぱりここ数年攻めてくるプレイヤーもいなくてつまらなかったんだろうな。」



俺が先程モモンガさんに向けて提案したゲームとは俺VSモモンガさん率いるナザリック地下大墳墓のガチンコ対決である。



時間は21時から23時までの2時間で、俺が第十階層に辿り着けたら俺の勝ち。俺が倒れるか、時間内に俺が第十階層まで辿り着けなかったらモモンガさんの勝ちというルールである。



ちなみに暗黙の了解としてワールドアイテムと呼ばれる勝負が一瞬で決着してしまう可能性すらあるチートアイテムの使用は禁止となっている。



この『アインズ・ウール・ゴウン』の本拠地であるナザリック大墳墓はかつて1500人の討伐隊を退け、本日のユグドラシルのサービス終了日まで誰一人として第九階層より先を見た挑戦者はいない。



「難攻不落の要塞。そして最奥に待ち受けるのは史上最凶の魔王様って感じかな……ワクワクするな。」



モモンガさんは個として実力も高いが何よりも真価を発揮するのが圧倒的に指揮官として能力であり、彼が『アインズ・ウール・ゴウン』のギルド長だからこそ、このナザリック地下大墳墓は誰も攻略出来なかったと俺は思っている。



「よし、5、4、3、2、1。よし、攻略開始だ。」



俺はステータスの右上の時間が21時丁度になったのを確認すると、ステータスを閉じて『逆刃刀・えんま』を鞘から抜き放ち、神殿の入口へ駆けて行った。

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