最終話 青月

ゆっくりと目を開ける。バイオレットパープルの優しい光が瞳に飛び込んでくる。HMDのわずかな隙間から現実の陽の光が差し込んでいた。1回も起きることなく朝を迎えたようだ。V睡でここまで熟睡できたのは初めてだった。隣を見るとアオの姿はすでにそこにはなかった。身体を起こして辺りを見回すがどこにもその姿が見当たらない。代わりに青色の文字が書き置きとして空中に残されていた。


【よるのちゃん、おはよう!よく眠れた?用事があるから先にログアウトしてるね。今日の夜、会えるの楽しみにしてる。急いで部屋の片付けしなきゃー! アオ】


空間に書く難しさが現れている文字はところどころ形が崩れている。アオが一生懸命書いているところを想像して微笑ましくなった。静かにカメラを起動してこっそりと文字を写真に収めた。1人しか居ない睡眠世界に時計の針の音が響く。時刻は午前9時45分を指している。アオに会えるまで12時間を切っているということに気がついて、嬉しさと緊張が混ざったような感情が心を支配し始めた。そうだ。アオに会う前にやるべきことをやらなければ。しばらく前から行っていた作業を完成させなければならない。仕事の時間までには終わらせることができるだろう。心の緊張を掻き消すようにベッドから立ち上がりメニューを開く。ログアウトボタンを押して現実へ帰還した。



          ♢♢♢


HMDを充電しながら昼ごはんを準備する。いつもの食パンとコーヒー、そしてドライフルーツ入りのヨーグルト。簡単ではあるが自分に馴染んでいる昼食を摂っていると身体が落ち着いていくのが分かる。クリーム色の陶器で出来たコップに入ったコーヒーを飲み干すと、隣に置いたPCへと身体を向けた。モニターに表示されているのはBlenderというソフトウェア。作りたいアクセサリーがあって、少し前からしおんに教えてもらいながら3Dモデルのモデリング作業に取り掛かっていたのだ。編集画面にはしおんが皆に作ってくれたチャームより小ぶりな銀色で出来た指輪の3Dモデルが浮かんでいる。どうしても自分の手で作って、アオに渡したかった。年末のダンスイベントに向けた練習と現実での仕事というスケジュールを同時にこなしながら何とか時間を見つけて地道に進めてきた作業もいよいよ大詰めに入っている。最後の仕上げにとあるギミックを指輪に盛り込んでUnityで確認した。問題なく動いていることに感動しつつ、自分のアバターの右手の指にそっとはめた。同じものをもう一つ作ってアオに渡すつもりだ。


「喜んでくれるかな…」


ふと独り言が漏れた。自分1人の力では到底作ることはできなかったものだ。あとでしおんに再度お礼を言わなければ。恋人の喜ぶ顔が目に浮かんできて嬉しさが込み上げた。今日の夜ディスコードで贈ろうと思っていたが、せっかく実際に会えることになったので直接手渡すほうがいいと思い立って、手頃なUSBに指輪の3Dモデルのデータを入れた。ギミックの操作説明書を添付してから化粧箱に仕舞い、リボンで包んで簡単なラッピングを施した。早く会って渡したい。想いがどんどん先行して、いてもたってもいられなくなりそうだった。先行する心を抑えつけるように、化粧箱を鞄の奥に押し込んで仕事へ向かう準備を開始する。メイクを済ませて髪をアイロンで内巻きに整える。リップを塗って、ワインレッドのワンピースを身に纏った。その上から白色のダッフルコートを羽織る。普段は絶対にしないような服装に自分で笑ってしまった。こんな自分でもクリスマスの日くらいお洒落しても許されるだろう。アオはどう思ってくれるだろうか。気がつけばやっぱりアオのことを考えてしまう。目覚めた瞬間からその姿や声を想像してしまうほど、もう自分でもどうしようもないくらいに恋をしているのだ。こんなにも鮮やかに自分の人生が色付く日がくるなんて思いもしなかった。今日会えたら自分はどうなってしまうんだろうか。想像しても想像できない恐怖が心を蝕むが、それ以上に指輪を渡した瞬間のアオの顔が早く見たかった。プレゼントが入った鞄を肩に掛け、玄関のドアを開ける。出迎えた景色がいつもより煌めいて見えた。

一刻も早くアオに会いたい。それしか考えられなかった。



          ♢♢♢


特別な日のカフェは大忙しだった。予約制をとっていたにも関わらず店内の座席が空白になることはなく、次から次へとお客さんが舞い込んでくる。店内に飾られたクリスマスツリーと店の壁に仕込まれた間接照明は店全体を柔らかく包み込んでいて、聖夜の特別な時間を演出していた。ただ、ゆったりとした時間が流れるテーブル席とは反比例するように厨房では慌ただしい時間が今も流れ続けている。


「3番テーブル、スペシャルセットとワインコース!食後にケーキA2つとコーヒー、カモミール!」


「了解です!」


流れるように桃葉と注文を取り、そのままの勢いを受けて海川が調理を始める。夜乃も少しでも手が空けば厨房の手伝いに回った。全員が額にうっすらと汗が滲むほど店内を忙しなく移動していた。出来上がったジェノベーゼパスタをテーブルに運んでから厨房に戻り、冷蔵庫からケーキを取り出しクリスマス限定の飾り付けをする。店内の熱気で身体が溶けてしまいそうだった。ボトルワインを開けてグラスに注いでからケーキと一緒にトレイに乗せてまた座席へと往復する。


「お待たせいたしました。こちら、セットのフォンダンショコラになります」


絶え絶えの息をなんとか整えながらケーキをテーブルの上に置く。ダンスで培った体力が無ければきっと喋ることもままならないくらい疲弊していたに違いない。ケーキを見た若いカップルの女性の方が美味しそう〜と言ってすぐさま写真を撮る。その姿を見届けてから厨房に戻ろうとした時、カップルの男性がポケットから指輪を取り出した。クリスマスプレゼントと言って女性の薬指にはめる。女性は涙ぐむくらい嬉しさで身を捩らせている。じっと見つめてしまうのは場違いだということがわかっていても、その微笑ましい光景からつい目を離せないでいる。自分にもあと数時間経てばあんな瞬間が訪れるのだろうか。その瞬間を大好きな人と共有できるという幸せを想像しただけで胸がいっぱいだった。幸せをお裾分けしてもらえたような気がして心が温かくなっていくのが分かる。若い2人の幸せがいつまでも続きますようにと願いを込めながら心の中で祝福を送った。


「つっきー!8番テーブルさんのお会計お願い!」


「あ、了解!」


ぼうっと惚けている間にも店内の時間は刻一刻と進んでいる。桃葉の声に我に帰って、慌ててレジへと向かった。




「もーーむりーー!身体限界!例年以上に今年はハードだったよーー!」


深いため息をつきながら静まり返った店内で桃葉が一際大きな愚痴をこぼした。閉店時間の22時まで一回も人が途切れることなく働き詰めだったのだ。正直夜乃も集中力が途切れて疲れがどっと出ていた。


「2人ともお疲れ様〜。確かに今年は人がかなり増えたわね。雪ふわパンケーキで人気が出たからかな?有難いことじゃない」


「確かにそうなんだけどさぁー…。どこ見てもカップルだらけだし!甘い空気で今も少し酔いそうなんですけど!」


「ももちゃん、イヴの夜なんだから仕方ないよ」


「ど正論パンチやめてつっきー」


ジト目を向けてくる桃葉が可愛らしくて思わず吹き出しそうになる。夜乃は例年のカフェの様子は分からないが、店内を訪れた9割のお客さんがカップルだったことを考えると確かにクリスマスとはいえ数が多いことに変わりはない。


「つっきーはいいよねー!この後デートでしょ!あたしなんて帰ってもほろよいを浴びる夜しか待ってないんだ…。悲しい。これが可愛さの差か…」


「いや、ももちゃんのほうが可愛いからね?選り好みしなければすぐ彼氏できるでしょ絶対」


「仮にそうだとしてもあたしはそんなに自分を安売りしないもん。つっきーに運命の人が現れたみたいに、あたしも心から好きだって思える人が現れるまで待つんだ」


「ももちゃんのそういうところ、ほんとに好き」


「ほんと?あたしも自分のこういうところ結構気に入ってるんだ〜!」


2人で盛り上がっているところに話について来れずにポカンとしていた海川が刺さってくる。


「え、待って待って。原田さん彼氏さん居たの?」


「はい。最近出来たんです」


「めっちゃいい人だから!ほんとにお似合いなんだよー!顔は見たことないけど!」


あはは、と笑う桃葉にさらに海川が?マークを出す。確かにそうなのだが絶対に伝わらないのだからやめてほしい。


「ももちゃん、話ややこしくしないでね」


夜乃がそう言うと桃葉はぺろっと舌を出して小悪魔的な表情を作る。こんな表情見せられたら世の中の男の人はきっとイチコロだろう。

そんな桃葉と夜乃を交互に見ながら海川が会話を続ける。


「茅野さんの話じゃあんまりわかんなかったけど、彼氏さん居たなら言ってくれたら今日休みにしたのに〜!申し訳ないことをしたわ」


「いえいえ、そんな!お気遣いいただきありがとうございます。それに自分で言うのもあれですけど今日の仕事量は2人だけだったらキツかったと思いますよ」


「いや、ほんとそれ!2人だけだったら過労死しちゃってたよ海ちゃん!つっきーが居てくれて良かった、ほんとに、マジで」


最後の方はマジトーンだった。この量を2人で捌けと言われたら夜乃も震えるくらい恐怖しか感じない。


「確かにそうなのだけれど…。じゃあもう今日は店の後片付けはいいからデートいってらっしゃい。原田さんの大事な日なんでしょう」


「はい。いや、でも申し訳ないですよ…」


「いいの!海ちゃんとパパッと終わらせるから!つっきーはむしろこの後がメインイベントなんだから!今日のこの時間はもう2度と来ないんだよ!わかったらほら!支度支度!」


海川の代わりに桃葉がそう答えて夜乃の背中を押す。促されるように自分のロッカーの前まで移動した。2人の気遣いに嬉しさが溢れてくる。せっかくの申し出を無下にするのも返って失礼なので爆速で着替えて準備を済ませる。鞄からシャネルのガブリエルを取り出しワンプッシュ手首の内側につけた。グレープフルーツやジャスミンの香りが爽やかに弾け、身体全体を包み込む。気合いを入れたい時に使っているお気に入りの香水だ。リップを塗り直して、持ってきたプレゼントを鞄の上から触る。その存在を右手がしっかりと認知したことを確認してからダッフルコートを羽織った。早足でカフェの入り口まで戻ると海川と桃葉は夜乃を出迎えるように並んで立っていた。


「原田さん、楽しんできてね」


「想いをぶちまけてこい!つっきー!」


2人の声に全力で答えた。


「ありがとう!いってきます!」


優しい見送りを背中で感じながらカフェのドアを開けて外へと踊るように足を運んだ。VRの世界で2人で見た時の輝きに負けないくらいのイルミネーションの街並みが夜乃の視界いっぱいに広がる。iPhoneで時刻を確認すると22時22分と表示されている。猫の鳴き声が聞こえてきそうだ。待ち受け画面の写真には大きなクリスマスツリーの前で肩を寄せ合っている白髪の少年と猫耳少女。データ空間でしか会うことが出来なかった2人が今夜再び自らの身体で出逢うのだ。ゆっくり歩いていたつもりがだんだんと早足になっていくのが自分でも分かる。心が抑えられない。身体がどんどん先へと、アオの元へと自動的に動き出す。その声を聴きたい。その目を、その髪を、その表情を見たい。その身体に触れたい。その確かな存在そのものに会いたい。会って直接好きだと言いたい。もう周りは一切見えないし聞こえなかった。綺麗なイルミネーションも、ちらちらと降る白いパウダースノウも、駅前の喧騒も、遠くから近づいてくる車のエンジン音も何もかもが視界に入らず鼓膜を通らない。ただただ、アオのことだけしか考えられない。教えてもらった住所をiPhoneで確認しながら導かれるように向かう。足で駆けているこの一分一秒が惜しい。鳥のように空へと舞い上がって風に乗れたらどれほど楽だろうか。そう思いながら走っているとふいに誰かに背中を押され、ふわりと身体が宙に浮いたような感覚に陥る。今なら何処までも高く飛んでアオの元へと一瞬で辿り着けそうだ。伸びている手が月に届きそうなほど空が近くに感じる。何も見えていなかった。何も聞こえていなかった。何が起こったのか分からなかった。跳ねた身体が本当に宙を舞っていたのだと分かったのは、地面に強く打ち付けられた後だった。鞄の中身が無様に散乱し、クリスマスツリーの前で笑い合っている写真と時刻が表示されていたはずの文明の機器が手元から滑って行って、2メートル先くらいでただの鉄屑に変貌した。ワインレッドのワンピースの色が色移りしたと思うほど赤く染まったダッフルコートは自分の身体から剥がれ落ちて雪の上に裂けながら転がっていて、冬に咲くポインセチアのように見えた。身体が燃えるように熱い。立ち上がり方を忘れてしまったみたいに身体が言うことを聞かず、雪の冷たさだけが肌を刺すように刺激する。さっきまで走っていたのに何故。何故自分は今路上の真ん中で仰向けで寝そべっているのだろうか。脳が疑問符を吐き続けてオーバヒートし、遅れてやってきた震盪が耳から内臓全体を掻き回して咽せた。唾液と血液が混ざったような液体が口から勝手に吐き出され、顔面を赤く濡らす。直後に急激な眠気が襲う。大きな音に驚いた人々がどんどん集まっていた。大丈夫ですか!?と誰かが言っている。誰に言っているのだろう。わたしはただ寝ているだけだから他の人にだろうか。悲鳴。怒声。声という名の大きな音の塊があちこちから聞こえる。うるさい。何とか首だけを動かして横を見ると、黒色の軽自動車が横転しているのが見えた。わたしと同じで自動車さんも眠たくなってつい横になってしまったのだろうか。自分でも何を考えているのかがだんだん分からなくなってきて、思考を放棄し襲ってくる睡魔に身を委ねた。遠くから聞こえてくるサイレンが子守唄のように優しく耳を揺らす。3と1の跳躍の響きの繰り返しに強制的に意識を刈り取られた。



          ♢♢♢


見慣れない白色の天井が広がっている。ピッと定期的に繰り返されるアラームの音が聞こえる。長い夢を見ていた気がするが目を開けた瞬間から見ていたはずの夢の景色が不鮮明になって何も思い出せなくなっていく。白を基調とした部屋をV睡のロケーションとして選んだことすら覚えていない。HMDをつけたことも、いつ頃眠りについたのかも分からなかった。どれくらい眠っていたのだろう。今日の予定は何だっけ。今は朝だろうか。それとも夜だろうか。身体を起こして時間を確認しようとしたがまだ身体が眠っているのか、力が入らずに全く動く気配がなかった。さらに力を込めて立ちあがろうとした瞬間に電撃が走ったような強烈な痛みが全身を駆け巡った。呼吸が止まる。息ができないまま咳き込むと心臓がちぎれるくらい悲鳴をあげた。痛い。何これ。こんな感覚は知らない。痛い。痛みに思わず叫んだが声帯は震えずに血の混じった空気だけが垂れ流れた。そうだ。思い出した。わたしはアオの元へと向かう途中だったんだ。覚えてるのは何かに跳ね飛ばされた衝撃と身体の熱。冷たい雪の上に寝転がって綺麗な夜空を見上げた記憶。事故に巻き込まれたんだ。だんだんとその事実を頭が飲み込んで恐怖した。アオは。アオは今も待ってくれているのではないだろうか。連絡を。しないと。iPhoneを探そうと腕を伸ばしてみても、代わりに返ってくるのは動かないという現実と切り裂かれたような痛みのみ。何も出来ない。声も出ない。全身が灼けるように痛い。先ほどから定期的な音を鳴らし続けているアラームだと思っていたものが自分に繋がれた管から伸びた電光版に映し出される自らの心音だということに気づく。そのリズムがだんだんとゆっくりになっていく。嫌だ。アオにまだ会えていない。こんな簡単にこの世からログアウトするわけには行かない。アオに会いたい。声、が、聞きた、い。


「つっきー!!!!」


大きな声がして病室のドアが勢いよく開いた。見慣れた友人の姿を確認できてホッとしたのか無意識のうちに涙が頬を伝う。変わり果てた夜乃の姿を見た桃葉はその場に崩れるように膝をついて泣き始めた。


「つっきー大丈夫…?ごめん、あたしが急がせたから…!ほんとにごめん…。さっきお医者さんからつっきーが飲酒運転の車に轢かれたって聞いた…。相手の人は即死だって。もうどうしたらいいかわからない…。この怒りをどこにぶつければいいの?!」


「だ、いじょう、ぶ。ももちゃ、んのせいじゃ、ない、よ。わ、たしが周りをよ、く見て、なかっ、ただけ…。ごめ、んね巻き込、んで」


肺に残った酸素を吐き出すようにゆっくり言葉を絞り出す。まだ喋れる。身体は動かせない。

自分が事故に巻き込まれたのは相手のせいだけじゃない。周りが見えていなかった自分のせいだ。それほどまでに盲目になってしまっていた自分の愚かさを悔いても時間は巻き戻らない。

夜乃のたどたどしい言葉に桃葉が泣きながら答えた。


「でも…!あぁ…っ。なんで、つっきーがこんな目に遭わなくちゃいけないの?身体は?痛む?さっきまで集中治療室にいたから応急の措置はしてもらってるはずだけど…。病院からカフェに連絡来て、急いで来たんだ。とりあえず意識が戻って良かった…。絶対に回復してね。約束…っ」


会話の順序も内容もぐちゃぐちゃのままの桃葉の言葉に頷こうとしたが首も一切動かなかった。肯定も否定も出来ない身体が無機質なベッドに横たわったままだ。涙だけが真横に流れて耳を湿らせる。必死に空気のような声を絞り出した。


「う、ん…。あ、アオは、アオに連絡、し、ないと」


「アオちゃんにもあたしから連絡したんだ!でも、来れないって言われた!意味わかんない!来れないことないでしょ!つっきーがこんな目に遭ってるのになんで来ないの?!電話で怒鳴っちゃった!」


「連絡してく、れてあり、がと、う。でもアオが、来れないこと、はわか、ってる。わた、しが行け、なくなったって、こと、を、ただ、つたえたか、った。アオ、を責め、ないで。わる、くない、んだ。仕方な、いから」


「仕方ないって何?!つっきーのことより大事なことってあるの?!あたしは納得出来ない!」


「お願い、ももちゃん」


「ー…っ」


怒りに身を震わせる桃葉をなだめるように言葉を紡いだ。自分も逆の立場だったらそう思うはずだ。桃葉の怒りは理解できる。でも仕方ないんだ。アオだって自らのことでいっぱいなのだから。

自分のことのように悲しみや怒りを表現してくれる友人の姿にただただ涙が止めどなく溢れてくる。本当にこの人に何度救われただろう。感謝してもしきれないくらいの熱を心が訴えた。ただ、心の温かい訴えとは別に、心音だけが冷たくどんどんゆっくりになっていく。自分のことは自分がよく分かる。もうそんなに長くないのだろう。痛みはもう感じない。ただ身体を覆う冬の寒さのような感覚だけが脳を支配していた。アオに事故のことが伝わっていることがわかった今、最後にすべきことがおのずと見えてくる。最初に目を覚ました時に動かない自分の身体の目だけを動かして、見つけたのだ。病室の隅に佇むWi-Fiルーターを。


「ももちゃん、に、お願いが、ある、んだ。わたし、の家か、ら、HMD、を持って、来てほしい。あと、アオに、これ、からVRに来て、って、伝え、てほし、い。さいごに、アオに、会いたい、んだ」


言葉とは呼べない単語の羅列に桃葉が首を振る。その目から再び涙が溢れ出す。病室に流れる電子音のテンポが少しずつ遅くなっていく。

桃葉は跪いて夜乃の動かない手を両手で包み込んだ。


「やだ…。嫌だよ…。最後なんて言わないでよ

…。安静にしてなきゃダメだし絶対…。つっきーが回復するまであたしが側にいるから!やだぁ…」


「お、願い、だよ。時間がな、さそう、な、の。アオに、あい、たい。最後に、その姿だ、けで、も目に、焼き付けさせ、て」


桃葉は止まらない涙を何度も何度も拭って静かに嗚咽を漏らす。静寂に電子音と嗚咽が混ざる。しばらく俯いていた桃葉がゆっくりと顔を上げた。


「…わかった。でも、最後じゃない。つっきーは絶対死なせないから。すぐ持ってくるから待ってて!」


「ありがと、う」


勢いよく立ち上がって病室を後にする友人の後ろ姿を横目に見ながらゆっくりと目を閉じて再び開く。ひとりになった途端急に寂しさが襲ってきた。こうなってしまったのは何もかも自分の浅はかな行動のせいだ。それは分かっている。でも、だからと言っていきなり唐突に自分の人生が幕を閉じてしまうのはあまりにも理不尽ではないだろうか。何も聞こえないのは何も音が鳴っていないから。さっきまで鳴っていたはずの電子音がギリギリ聞こえるレベルで鼓膜を揺らしているのは、きっとただ単に音量が小さくなったから。必死にそう自分に言い聞かせる。視界もぼんやりと霞んでいくように曖昧になって、病室の白い背景が見えているのか、それとも何も見えていないのかが分からなくなっていく。確実に近づいてくる死の足音に戦慄する。このまま動くことすらできずにただ死を待つだけの時間が流れどんどん恐怖心が募っていく。


「いや、だ。やだ、。死にたく、な、いよ、死に、たく、ない。やだ、お、かあさん、」


自分の喉から発せられた言葉も頭蓋の奥底でかろうじて響いていたが、耳からその声音を聞くことは叶わなかった。このまま目を瞑ってしまえば本当に何もかも失ってしまいそうで怖い。眠ってしまわないように必死に瞼を開けていても、凍えるような寒さがそれを許さない。まどろみの中に引き摺られるようにゆっくりと瞼が重みに逆らえずに閉じていく。これで最後?本当に?嫌だ。こんなにもあっけなく人生が終了するなんてことがあってたまるか。


「さ、むいよ。やだ、やだぁ…。助、けて、アオ。あお…っ」


怖い。怖い…!嫌だ。会いたい。死にたくない。好き。嫌だ。会いたい。好き。会いたい。


生きたい。


身体の水分が無くなってしまうほど目から止めどなく涙が溢れて枕とシーツを濡らす。五感全てが奪われてしまうほどの恐怖で意識が飛びそうになった瞬間、再び勢いよく病室のドアが開いた。どれほどの時間が経ったのかも分からない。かなり長い間孤独に震えたような気がしたが息を切らせてHMDを掲げる桃葉の様子から見ると経過した時間はほんの少しだけなのだろう。


「つっきー…!持ってきた!アオちゃんにも連絡してる!いつものとこにいるって!」


桃葉がそう言いながら夜乃にHMDを被せ、その手にコントローラーを握らせる。頭と手に硬い感触が伝わる。まだ感覚がある。


「ももちゃ、ん、ありがとう。あと、わた、しのかば、んにはいって、いるUSB、のデー、タ、後で、アオに、わた、して、ほ、しい」


「わかった!わかったから…!急いで!指動かせなかったらあたしがコントロールするから!アオちゃんに絶対会って!」


「ほんとうに、あり、がと、う。もも、ちゃん、大好き、だ、よ」


「いやっ!今そんなこと言わないで!今言われても嬉しくない!絶対よくなるから!信じてるから!元気になったら絶対また言ってもらうから!だからアオちゃんに会って、絶対また戻ってきて!」


咽び泣きながら桃葉が叫ぶ。コントローラーを動かす指にそっと温かい桃葉の手が添えられた。力を振り絞って「VRChat」を起動する。

再び桃葉に向かってありがとう、と言ったはずだったが、その言葉は喉の一歩手前で掻き消えて声にはならなかった。現実か仮想か判別がつかなくなっていく間に視界が暗転し、世界が切り替わった。



          ♢♢♢


目の前には白いグランドピアノ。漆黒の夜空とオーロラ。白い月。そして少し離れたところに見える猫耳少女の姿。アオだ。アオがいる。近づこうとコントローラーに乗せた指を動かそうとするが言うことを聞いてくれない。


「スティック、前に倒せばいい?!」


世界の外側から桃葉の声がすると同時に視界に映る景色がどんどん後ろに流れて身体がアオに近づく。

スタンドアロンのHMDに映る世界はいつもより暗く、自身のアバターもPC版とは違う薄暗いシェーダーで出来ているためか光を失っているように見えた。アオもゆっくりこちらに近づいてくる。その動きはぎこちない。やがて点と点が結ばれて一つの線になったように2人の身体が交わる。


「よるのちゃんっ!!!!!!」


猫耳としっぽを揺らしてアオが夜乃を抱き止めた。

あぁ…。ずっと、聴きたかった声だ。

会いたかった。会いたかったよ、アオ。

もう2度と離れたくない。


「ごめ、ん。アオ。会いに、行けな、くて」


「いい。いい…っ!僕の方こそ行けなくてごめん!居ても立っても居られなかった!会いたくてたまらなかった!そもそも僕が会いたいなんて言ったからこんなことになったんだ!言わなきゃ良かった。VRの世界だけでもよるのちゃんに会えて幸せだったはずなのに、それ以上を望んだ僕の勝手なわがままで今こうなってる…!自分が許せない…。ほんとにごめん…。」


「違う、よ…。わた、しの単な、る不注意、だよ。でも、最後に会えて、よか、った」


「最後なんて言うな!!最後なんかじゃないっ!これからもずっと一緒だ!絶対よるのちゃんのそばから離れない!約束する!だから、……な…こと………に言…い…で!!」


あれ。


「よる……んは絶……死な……!僕……こ……っと…………るから!……ら!だか………からもず……緒に居……よ!約…………!お……だか……!最………て言………で!!」


聞こえない。声が聞こえない。アオの声が。ノイズが走ったように掠れて聞き取れない。


「よ……の……ん?……ぇ……る……ん!」


なんで。聞こえない。聞こえないよ。なんて言ったの。ねぇ、なんて言ったの…!


「…………………………………………っ!」


何かを叫んでいるはずなんだ。言葉を発してるはずなんだ。必死な形相のままリップシンクでアバターの口が動いているから間違いない。でも何も聞こえないよ。バグ?さっきまで聞こえてたのに。ただひたすらに静かだ。


「わた、しは…」


自分で発したはずの言葉も聞こえなかった。バグなんかじゃない。システムの不具合でもない。わたしの聴覚が完全に息を引き取ったのだ。自分で発した言葉すら聞こえないのだから届いているかも分からない。確認のしようがない。あぁ…。タイムリミットだ。涙で視界がぼやける。チリチリと焼き付くように世界がぼんやりと白くなっていってるのは、ワールドのギミックでもなんでもない。視力が、命が奪われる音が聞こえる気がした。

もっとずっと一緒に居たかったな。

ずっとずっと永遠に傍に居たかったな。

右手を必死に伸ばしてその姿に触れた。

認知出来ない感覚を疎ましく思った。


「わた、しのほ……え、…って…う…だ」


伝わったかも分からない言葉を最後に紡いだ。

もうその姿も見えない。ただただ白い世界に向かって声という名の音を奏でた。現実なのか仮想なのか夢なのか何も分からない。目を開けているのか閉じているのかも分からない。ずっと白い世界のままだ。それでも、白色の空間に向かって、そこにいるはずの大好きなアオに向かって伝わらなくてもいいから伝えたかった。最後にこれだけは言いたかった。神様。お願いします。この言葉だけはアオに届けてください。もう何も望まないから。アオの幸せ以外のことは何もいらないから。わたしはどうなっても構わないから。

だからせめて、これだけは…。



「     。」




          ♢♢♢


長い長い夢を見ていた気がする。

夢だったのか現実だったのかがあやふやだ。

そもそも夢とか現実とかっていう概念ではないのかもしれない。

何も思い出せない。

視界に映るのはひたすらに白い空間。

瞳に映っているのか、それとも世界そのものの中に白い自分が存在しているのか分からない。

下を見ても自分の身体が見えない。そもそも人の形をしているのかも分からない。音がしない。声も出ない。声ってなんだっけ。いや、自分ってなんだっけ。どこを見ても白い空間が続いている世界が思考能力を強奪する。何も考えてないのかもしれない。前に進もうと思っても白い世界のせいで進んでいるのかも止まっているのかも分からなかった。夢。夢ってなんだっけ。概念が存在しない世界に概念が存在しない自分がいる。何をすれば、何処に行けばいいのだろう。ただ、何かが聞こえた気がした。その何かも、聞こえるということの意味も分からなかったけど。漠然と思っただけだ。何かを呼ばれている気がする。何かを。

そう思った瞬間に目の前に楕円状の波打つ扉が現れた。これを知っている。ポータルだ。なんで知っているんだろう。でも一目見てすぐにわかった。これは、ここじゃない世界に繋ぐ扉。どこか知らない世界へと羽ばたかせてくれる希望の扉。何故急に現れたのかは分からなかったが、間違いなくこの場所へ向かうように指示されてるみたいだった。そもそもここに入る以外の選択肢がない。進んでいるのかも分からなかった概念のない身体が吸い込まれるようにその扉をくぐった。


白かった世界が今度は反転して黒くなる。

いや、黒ではない。どこまでも広がる夜空。

夜の世界だ。先ほどまで下を向いても見えなかった自分の身体が見えた。淡く優しい青色に発光している。夜という時間が分かる。青という色の意味が理解できる。ここには概念が存在する。ただ自分が何者なのかが分からなかった。両手足に力を入れても全く動かない。それでも前に進もうと決意すれば身体がふわりと浮いたようにゆっくりと前に進む。不思議な感覚だ。

無音の世界に自分1人だけがぽつんと存在しているだけだと思っていたが気がつけば目の前には大勢の人の姿があった。多種多様な姿でこちら側に背を向けてそこに存在している。一斉に何かを見ている。その目線の先に何があるのだろう。人だかりをすり抜けてひたすら前に向かった。誰もこちらには気が付いていない。誰の目にも自分は映っていない。自分の存在だけがわからないままひたすら前へ前へとただ闇雲に移動する。やがて開けた視界の先に居たのは4つの人の塊だった。4人全員が大きく身体を動かして何かを訴えている。それを見ている大勢の人たちもつられるように身体を動かしている。音がしないからわからなかったが、多分踊っているのだ。羊の角がついた長身の男性が回るようにステップを踏む。その隣で小さい龍のような姿をした人が背中の羽を揺らしながら両手を大きく上に掲げた。その後ろ側から紫色に身を包んだ女性が高く飛んで前へと躍り出る。そして3人を束ねるようにして小さな猫耳をつけた少女が軽やかに跳ねた。知っている。わたしはこの4人を知っている。名前もわからないし、何故知っているのかも分からないけど知っている。そうだ。わたしはわたしを知っている。わたしは……。


「ーーちゃん」


何かを呼ばれた。何を。音の鳴らない世界に確かにその声が聞こえた。声という概念が分かる。音がした前の方を見ると、猫耳少女が左手をこちらに向けて差し出していた。その目は真っ直ぐにわたしを見ているように見える。


「行こう。ーーちゃん」


再び呼ばれた。そうだ。これはわたしの名前だ。わたしに向かって目の前の少女が言っている。その少女の名前も思い出せないのにその声を聞いただけで泣きそうになってしまうのは何故だろう。なんでこんなにも存在しないはずの心が温まっていくのだろう。小さく寂しそうに微笑むその少女の姿に導かれるように前へと進む。自分の身体はずっと青く発光したままだ。そうか。わたしは光だったんだ。通りで概念を認知できるはずがない。実体がない存在そのものに概念が理解できるはずがないのだ。

でも。これだけは分かる。

わたしはこの人を照らす光だ。そしてこの人の声が聞こえなければ光り輝くことができない。

思い返せば白い世界にいた時からずっと声が聞こえていた気がする。その声にずっと導かれてここまで来たんだ。名前も何もかも分からないけど、この人の側にいるだけでこんなにも心が温かい。名前を呼ばれるだけで、世界の色が変わってしまうほどどうしようもないくらいにただ側に居たいんだ。傍でその姿を照らし続けたい。差し出された触れられない手を掴んでその人の身体を思い切り抱きしめた。感触はない。でもたしかに温かい。離れたくない。ずっと一緒がいい。ただそれだけだった。その耳元で声にならない音を出した。届かなくてもいい。わたしが勝手に思っているだけ。

でも、どうか、伝えさせて。


「あなたがずっと、幸せでありますように」



          ♢♢♢


12月31日。年末のダンスイベントは大勢の人で賑わっていた。イベント会場に選ばれたのは漆黒の夜の世界。中央には白いグランドピアノが無機質に佇んでいてアンバランスに世界を保っている。大勢の観客。ダンスグループ。音響担当。MC。何処を見ても視界に人の姿が入るほどの人数で溢れかえっているワールドは負荷がかかって限界を迎えそうだった。観客の熱狂にワールドが飲み込まれていく。次から次へと出てくるダンスグループの個性豊かなダンス姿にあちこちから歓声があがった。MCが「toeL」の紹介を始めると、一際大きな声がワールド内に反響して会場全体が熱を帯びた。以前のダンス別発表会で一定の人気を獲得した「toeL」のメンバーが白色のグランドピアノの前の特設ステージに出てくると拍手が巻き起こった。前回と唯一違うのは人数ではなく、センターに佇んでいた白髪の少年の姿が猫耳少女の姿に変わっていることだ。それでも「toeL」は歩みを止めなかった。音楽が鳴り出した瞬間全員が息のあったリズムで音を楽しんでいた。その4人の姿から誰も目が離せなかった。観客もMCも裏で音響を担当していた人も誰もがそのダンス姿を目に焼き付けた。猫耳少女がどこまでも自由に飛び立てそうなピアノの旋律に合わせて高く高く跳ねた。



「あの…!かっこよかったです、ダンス…!皆さんの完璧に揃ったキレの良いダンス姿に痺れました!『toeL』さんのことはフレンドがめちゃくちゃおすすめしてて。今日生で見られて本当に良かったです!」


「toeL」のダンスステージが終わった後、白いグランドピアノの後ろで誰かがメンバーに声をかけた。4人全員が同時に振り返る。緑色のショートヘアの女性がもじもじしながら立っている。勇気を出して話しかけてくれたように見えてメンバー全員が顔を綻ばせた。


「ありがとう、そう言ってくれて。俺らもそう言ってもらえて嬉しいよ」


長身の羊の角を付けた男性が答える。メンバーから返答を貰えると思ってなかったのか、その女性は嬉しそうにその場で軽くジャンプした。


「いえいえ、私のほうこそ気軽に声かけてしまってごめんなさい!でも本当に感動しちゃって。この感動をどうしても伝えたかったんです」


「え、めっちゃ嬉しい〜!もっと上達出来るようにがんばるね!またぜひ見に来てーっ!」


紫色の髪をした女の子が元気よく声を出した。キラキラと輝く瞳とその美貌に見惚れてしまったのか、その女性はしばらく惚けたように固まっていた。慌ててその口を開く。


「そんな…!光栄です…!あの、みなさんを見てたら私もダンスやってみたくなってきたんです…。全くの未経験でも大丈夫でしょうか」


「大丈夫ですよ。自分も未経験からVRダンス始めましたから。そんな人がたくさんいます。スタジオもあるので見学だけでも今度来てみてくださいね」


小さなドラゴンの言葉に女性が絶句する。え、嘘…!という小さな声をマイクが拾っていて思わずメンバー全員で笑ってしまいそうになる。


「凄いです…。凄すぎます…!ぜひスタジオ見学、今度お邪魔させてください!楽しみにしてます!あとこんなに親切にしてくださってありがとうございました!またお会いできる日を楽しみにしてますね!」


そう言うとその女性は緑色の髪を揺らしながらその場で深々とお辞儀をして、くるりと後ろに振り返った。そのまま前へ数歩進んだところでまたこちら側に向き直る。


「今日は本当にありがとうございました!ダンスも、身体が光る演出も、音楽も全てが最高でした!もしかして音楽も「toeL」さんの曲なんですか?」


メンバー4人全員が一瞬悲しそうな顔をしたように見えた。それでも前を見つめる8つの目は燦々と輝いていた。猫耳の少女が一歩踏み出して女性に近づく。カラン、と足元のチャームが鳴った。その口から優しい声が溢れ出す。


「そうだよ。僕の、いや、僕たちの大切な人が作った大事な曲なんだ。『toeL』のオリジナル曲だよ。また次のステージでもこの曲は絶対にやるからダンスと一緒に音楽も楽しんでね」


「もちろんです!めちゃくちゃ良い曲だったので!今も頭の中でメロディが鳴ってます!ちなみに曲名はなんて言うんですか?」


緑色のショートヘアの女性が満面の笑みでそう言った。今にも歌い出しそうな勢いで猫耳少女の返答を待っている。右手で左手を優しく包みながら少女はその大切な曲名を口にした。


「ブルームーンダンスって言うんだ」



ほとんど誰も入ることのなかった過疎化していたはずのワールドに今もずっと音楽が鳴り響いている。忘れ去られていたことがまるで嘘だったかのように中心に佇む白いグランドピアノの付近に大勢が集まって話に花を咲かせていた。漆黒の夜の世界が音楽や笑い声やダンスをする人達の熱気で包み込まれていく。そして、その賑わいを真上から大きな白い月が優しく照らしながら見守っていた。

いつまでもこの音が途切れることはないだろう。


その夜世界はもう、眠らない。

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