黄色い雲の下

 空に広がる色彩は、鮮やかな画布に一筆も二筆も走らせたかの如く、濃厚な色を持っていた。トモはその色を見つめ、何かしらの手掛かりを探そうとしたが、その色はただ彼を虚空に導くだけだった。

 ゴウはいつも通りトモのそばに座り、彼の視線は遠くを見ていた。しかし、その瞳から放たれる光は、トモに何も伝えることができなかった。それはただ遠くを見つめる眼差しだけで、何も示唆するものはなかった。

 トモは自身の感情を探そうと努めた。空の色、ゴウの視線、何かしらの示唆を。しかし、彼の中に湧き上がるのはただ混乱だけだった。それは追い詰められた獣のような混乱で、その中に彼は閉じ込められていた。

トモは静かにゴウを見つめた。

「ゴウ、なんで空はこんなにも色があるの?」 と彼は問いかけた。

 ゴウは静かにその質問を受け止め、考え込むような表情を浮かべた。

「それはね、トモ。空は色を持つことで、人々に思いを伝えているんだ。色は言葉なんだよ」とゴウは答えた。

 しかし、トモにはその言葉が何を意味するのかさっぱりわからなかった。

「でも、なんで色は思いを伝えるの?それってどういうこと?」 とトモは再びゴウに問いかけた。

 その問いにゴウは一瞬困った表情を浮かべたが、すぐにそれを隠すようにした。

「色が思いを伝える、それはね、色が人々の感じるものを表現するためさ」 とゴウは答えた。

 しかし、その答えはトモの混乱をより深めるだけだった。

 トモは静かに頷き、何も言わずに空を見つめ続けた。色が思いを伝える、それはトモにとっては理解不能な世界だった。彼にとって、色はただ色で、何も伝えるものはなかった。しかし、その中に何かしらの意味があるとゴウが言うのだから、それは真実なのだろうと彼は思った。

 しかし、その真実が何なのか、トモには全くわからなかった。彼はただ混乱の中に沈んでいき、自身の世界はますます色を失っていった。それは彼が感じるもの、理解するもの、全てが失われていくような感覚だった。しかし、その感覚を誰にも伝えることはできず、彼はただ静かに混乱の中に沈んでいった。

「なんで花は香るの?」トモがゴウに尋ねた。

「それは、花が自分の存在を知らせるためさ」ゴウは温和に答える。

 トモは一瞬黙って、

「でも、花が存在を知らせたいのは、誰に対してなの?」

「それはね、花自身にもわからないんだ。でも、知らせたい相手がいるから香るんだよ」ゴウは淡々と答えた。

 トモは黙って頷いたが、内心ではまだ納得していなかった。彼にとって、世界は一つの大きな迷路であり、出口は見えない。ゴウの言葉も、その迷路の一部でしかなかった。

「ゴウ、ありがとう」

 トモは素直に感謝の言葉を伝えたが、その背後には深い迷いと不安が隠れていた。彼は何を言われても、何を見ても、何を感じても、すべてが曖昧で不確かな感じがした。

 この混乱の中で、ゴウだけがトモの頼りであった。ゴウの存在は、トモにとって、迷路の中で唯一明るい光を放つ灯台のようなものだった。しかし、その光もまた、彼の迷いを一層深めるだけだった。

 トモが再びゴウに問いかけた。

「でも、僕たちはなんで存在するの?」

「それは……それは……」ゴウは返答に躊躇い、初めてその安定した表情に影が落ちた。

 彼の言葉はつまった。

 トモはその変化に気づき、口をつぐんだ。ゴウの迷いは彼にとって新鮮で、一瞬、ゴウが彼自身の問いに対する答えを持っていないことに驚いた。なんとも説明しきれない、そんな感覚がトモを包み込んだ。

 しかし、それ以上にトモを動揺させたのは、ゴウのその表情だった。彼がこれまでに見たこともない、ゴウの顔に浮かんだ微妙な緊張感。それはまるで、大きな嵐が近づいているかのような静けさを孕んでいた。

 それが最初の亀裂だった。それまでの調和が崩れ始め、トモとゴウの間に微妙な距離が生まれた瞬間だった。それはどちらもが認識しなかったが、その後の全てを決定づける出来事だった。

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