治癒の杖に驚いた件について



 治癒の杖。ゲームの中でよくある動画リワード広告の名称だった。あのタワーディフェンスゲームはステージをクリアするとHPが回復されて元の状態に戻るが、侵略者が進行中の場合は回復出来ない。そんな中、この治癒の杖をタップすると、動画広告をみただけで進行状態はそのままで召喚している魔物達のHPを回復してくれる。あともう少しで防衛成功出来そうなのに魔物達がやられそうという盤面で大活躍していた為、ドワーフの口から治癒の杖と聞いて思わず驚いてしまったのだ。


「これ、いくらなんですか?」

「おう。 これは金貨15枚ってところだな」

「金貨……」

「お前さん、カネは?」


 そう言われて、俺は箱の中に入れていたコインを取り出してドワーフに見せる。


「なんだ、金貨もっとるじゃないか。 それに7枚も。 なかなか景気いいな」

「へ?」

「基本的に金貨1枚あればひと月は生活に困らんからのう」

「そうなんですか……」


 このコイン──いや、金貨がそれなりにこの世界では高いものだとはわかったのだが、侵略者1人の命が金貨1枚だと思うとなんだか複雑な気分になってしまう。


 とりあえず今は治癒の杖は購入できそうにもないのでポーションを買えるだけ購入しておいた。ゲームの中では序盤に行き詰まることはなかったものの、ステージ10を超えた辺りから少し厳しいと感じることが増えた記憶がある。そんなときにポーションがあれば有り難いだろう。いつ新しい魔物を召喚出来るようになるかわからないし、それに防衛失敗したらコンティニューされる保証も無いわけだしな。


「じゃ、農はこの辺りでお暇するかの」

「今日はありがとうございました」

「バイバーイ」

「おう、またな」


 ドワーフが部屋から出ていったのを見守った後、ドワーフから手渡された本を手に取る。


「『この世界について』、か……」


 俺が今、これを手にしているのは手紙がきっかけだ。謎の手紙は突然ドワーフの住まいに届いたらしい。そこには俺の元へ行き、本を3冊届け、治癒の杖を話題に出し、俺に売って欲しいこと。そして出来れば定期的に商いをしに通ってほしい旨が書かれていたそうだ。


「とりあえず、これから目を通すか……」

「マスター、ここには何が書いてあるんですか?」

「ん? うーん……」


 これって他の人に話していい内容なんだろうか?


「とりあえず、読み終わってから話せそうなら話すよ」


 それでいいかな?とスライムに尋ねると、快く頷いてくれた。


 一応部屋に椅子はあるものの、普段から椅子ではなくベッドによく腰掛けていた習慣からか、ここでもついついベッドに腰掛けてしまう。


「さて、と」


 いざ読もうと表紙を開いた瞬間。


「マスター、侵略者です!」


 スライムからそう声をかけられたかと思うと、激しくドアをノックする音と共に怒号が部屋中に響きわたったのだった。


 ──赤と黒の本を2冊とも読み終わった俺は目頭を押さえる。


「一気に読み過ぎたな……」







 




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