深夜は卵を巻く時間

 歯磨きを終えてベッドに入る。

 日付が変わる前には寝ようと思いつつ、ダラダラとスマホをいじっていると、突然、頭の中の警報が鳴り響いた。


 卵の賞味期限、今日までだった気がする。


 勢いよくベッドから起き上がり、恐る恐る冷蔵庫で眠る卵のパックを覗き込む。やはりそうだ。もうあと数分で日付が変わるが、ギリギリ間に合った。ことにする。


 残された卵は3つ。僕は、だし巻き卵を作ることに決めた。


 油を引いたフライパンに卵を流し入れ、奥から手前に巻いていく。巻き終えたらまた奥に移動させ、卵を流し入れる。そして手前に巻いていく。ただそれを繰り返す。料理というよりは作業に近い。

 やっていて気づいたが、非常に僕好みの作り方だ。淡々と、同じ作業の繰り返し。何も考えず没頭することができる。


 何か嫌なことがあったら巻こう。嫌なことがなくても巻こう。


 今度また卵の賞味期限がギリギリになったとしても、恐れることはない。

 むしろ楽しい没頭時間の始まりだ。


 僕は卵を見事救出した達成感と新しい趣味を見つけた喜びを抱えて、ベッドに戻った。目を瞑ると、すぐに睡魔に包まれた。

 布団にくるまる自分がだし巻き卵みたいだなって、夢か現実かわからないまま、いつの間にか眠っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る