紫陽花は傘をささない
紫陽花が綺麗に咲いている。そういえば、昨日は雨だった。
駅前のマックを出ると小雨が降っていた。予報では、一日曇りだったはずだ。もちろん傘は持っていない。もう少し雨宿りしていこうか。僕は少しだけ悩んだが、帰ることに決めた。
小雨だし、歩いているうちに止むだろう。
歩き始めて数分、僕は完全に読みが外れたことを悟った。小雨がどんどん強くなってきた。すれ違う人々は、ほとんどが傘をさしている。
雨はさらに強くなり、音を立てて地面に降り頻る。嫌な冷たさがシャツに染み込んで広がっていく。負けを認めよう。
僕は走りだした。一刻も早く帰りたい。その一心で走っていると、前髪から滴った雨が目に入って沁みた。その瞬間、何かが吹っ切れた。
もういいや。この際、思いっきり濡れてしまおう。
僕は走るのをやめ、ゆっくりと歩く。シャツに染みた冷たさも気にならなくなった。馬鹿みたいに濡れる感覚が懐かしい。
大人だからとか。間違えないようにとか。もしものことを考えてとか。無意識に刺していたビニール傘みたいな膜が剥がれ落ち、洗い流されていく。
雨は弱まることなく降り続いている。
決して無事ではないが、家に着いた。清々しいほどにずぶ濡れになっていた。たまには思いっきり濡れてみるのも悪くないな。
濡れた服が重い。それでも心は軽い。
紫陽花が綺麗に咲いている。その理由が、少しだけわかった気がした。
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