待ち時間にピーチティーなんて

 予定より15分も早く着いてしまった。


 平日も美容院はかなり忙しそうだ。

 アシスタントの方に案内され、予約の時間まで席で待つよう言われた。


 髪を切る人、切られる人、掃除をする人。

 店内ではそれぞれが何かしらの役割を与えられている。

 僕はというと、ただ席に座り、鏡の自分と睨めっこ。気まずい。みんな忙しなく動いている。何かしらの役割を見つけなくては。


 そんなことを思っていると、アシスタントの方が「お飲み物はいかがですか」と言ってメニューを手渡してくれた。

 僕は数秒迷い、ピーチティーを注文した。

 

 その姿に過去の僕は思わず二度見していた。

 

 ピーチティーなんて、全然飲んだことがない。それどころか、名前に「ティー」や「茶」とつく飲み物は徹底して避けてきた。子供の頃に飲んだ緑茶があまりにも苦すぎて、もうお茶は飲まないと心に決めていたのだ。


 それがなぜか、このタイミングで歴史は動いた。まさか待ち時間にピーチティーなんて飲むようになるとは。

 とっておきの役割が見つかった。


 僕の担当美容師は相変わらず忙しそうだ。

 もう少しだけ、ティータイムを楽しむ紳士を演じよう。

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