鯉は戦い、亀は泳ぐ

 お賽銭を投げ入れ、二礼二拍手一礼。

 

 手を合わせている間、後ろに並ぶ参拝客の視線を気にしてしまうのは、いつものことだ。神様に一つ目の願い事を伝える。

 格好良く、お参りできていますように。


 境内をぶらぶら歩いていると、大きな池が見えてきた。蓮の葉が家系図のように広がって浮いている。僕は近くのベンチに腰掛けた。


 ここは、源氏池というらしい。反対側には平氏池という池もあり、源平時代の対立を表しているようだが、かつての争いなど忘れたように水面は穏やかだ。


 すると、一匹の鯉がジャンプした。何か獲物を見つけたのだろうか。そして、それを合図に四方八方から続々と鯉が参戦し、たちまち波紋が広がった。

 争いは続いているようだ。


 黙って鯉たちを見つめていると、目の前を一匹の亀が横切った。目的地があるのか無いのか、わからない。ただ自由に、ゆっくりと水中を進んでいた。

 争いのことなど知らないようだ。


 同じ池の中で、鯉は戦い、亀は泳いでいた。


 ただそれだけのことだけど、それがなかなか難しいんだよな。


 僕はゆっくりと立ち上がり、背の高い木々に囲まれた参道を歩く。目線は自然と上がっていた。

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