第5話 正義の在り方・悪の在り方

ドカーーン!!


白昼

街中で爆発と黒煙が立ち昇る。

「銀行強盗だぁぁぁ‼誰か警察を呼んでくれ‼」

黒煙が溢れている銀行から3人の男が飛び出してきた。

現金の入ったケースを一人一つづつ持っている。

「青‼ 緑‼ 打ち合わせ通りに。捕まるなよ」

『お前もな。赤‼』

赤、青、緑の単色カラーの三人が三手に分かれて走り去っている。


「逃がすか‼ お前らは青色と緑色を追え。俺は赤色を追う」

怪人が部下達に命令を出して三人を追いかけている。




ここは、特撮ヒーローと怪人が実際に存在する世界。

ヒーローと怪人が戦います。

怪人が巨大化します。

合体ロボットが戦います。

けれど、四六時中事件が起きて戦っている訳ではありません。

ヒーローのタクシードライバーがいれば、怪人の学校の先生もいます。

ごく一般的な生活をして共存しています。

そんな世界。






人里離れた山の中に一軒家。その地下室から妖艶な光が漏れている。


「フフハハハハハ、もうじきだ。もう少しで完成するぞ」

部屋いっぱいに張り巡らされた配管。その中心にある怪しげに光る巨大な装置が高らかに笑っている男を照らしている。白衣を着た科学者の様だが左腕が蛸の足のような風貌をしている。怪人だ。

すると突然、怪人の背後から

『そこまでだ』

「!? 誰だ‼」

怪人が振り向くと五人組が立っていた。


レッド「旅行は計画を立てる所から」

グリーン「ハンカチ、テッシュ、酔い止め薬」

ブルー「大丈夫。戸締りは完璧だ」

イエロー「思い出に残る楽しいひと時」

ピンク「家に帰るまでが旅行」

レッド「旅行のトラブルズバッと解決‼ 我ら」

『旅行戦隊 トラベジャー』ドカーーーン

五人の決めポーズとそれを締めるように爆発が起きた。

「バカヤロウ!地下でそんな登場したらうわぁぁぁぁぁぁぁ」

言い終わるが早いか天井が崩れ落ちてきた。

山中に轟音が鳴り響き土煙が上がった。


ゴホッゴホッゴホッ

「なんだってんだ?」

瓦礫と化した自分の家から怪人が這い出てきた。

辺りを見渡すと瓦礫の中に、家に置いた事の無い色合いの物がちらほら見える。さっきの奴らだ。

「待ってろ、今助けてやる」

怪人が近くの単色カラーを引き抜く。

「生きてるか?」

「死ぬかと思った」イエローは無事な様だ。

「まったくだ。体が動くなら他の奴らを助けるぞ」

怪人とイエローは残りの四人を引っ張り出していく。





「で?」

晴れ渡った空の下、瓦礫の中から無事な椅子を取り出して怪人が座っている。その前には正座している五人のヒーロー達。

「もう一回言うぞ。皆さん無事で何よりですね。・・・で?何の用だ?」

家をこんなんされて怒りが露わになっている怪人。

レッド「ここにやっかいな怪人がいるって聞いて退治しに来ました」

「俺は何もしちゃいないだろ?どこから聞いた?」

五人はお互いの顔を見て、言って良いのかなぁ?の確認の後

『〇◇コーポレーションから依頼されましたです』

「〇◇コーポ!?」何度も怪人の家に来ては立ち退きを強要してる会社だ。

「お前らはアレか?地上げ屋か?」何度も追い返しているから遂に、ヒーローを向けてきたか。

イエロー「不当に住み着いている怪人がいるから。と」

「俺は真っ当な手続きを通してここに10年住んでるんだが」

レッド「いい加減な事を言うなよ怪人め‼」

レッドが立ち上がり、いかにもヒーローっぽいセリフを吐いた。直後、怪人が瓦礫を一つ蹴り飛ばす。向かいの山に土煙が上がった。

怪人は椅子に、レッドは正座に黙って座り直す。

「怪人=悪者って今のご時世だと差別になるよな?」

五人はお互いの顔を見て、話が違くね?

ピンク「あの~私達はどうすれば?」

「そんなの知らんよ」本当に知ったこっちゃない。

グリーン「怪人さんは地下で何やってたんですか?」

「!? どうでもいいだろ?そんなの。どっちにしろお前達のおかげでオジャンなんだ。お前達の活動はちゃんと裏を取ってからにしないとこういう事が起きるって分からんか?お前達は新人か?」怪我人がいなかった事で完成間際の研究がダメにされた事に対する怒りが込み上がってきたのか怪人の説教が続く。



しばらくして、山中を静寂が包む。




「はぁ~   俺       ライダー派なんだよねぇ」

目の前にいる五色に向け十分間を溜めて、ため息と嫌味を向けた。

「―――――」誰かが何か言った。

「なんだって?」怪人が聞き返すともう少し聞こえる声で

レッド「俺だってライダーになりたかったですよ」

「何で戦隊やってるんだよ?」

レッド「オーディションに何度も落ちました」

「オーディション?」えっオーディション?「ヒーローってどういうシステムなんだ?」

ブルー「善行をして一定のポイントになったらヒーローを名乗って良いんです。そこからはオーディションに受かるかどうかですね」

シュール。

「そのポイントって?」

ブルー「これですね」腕時計みたいな物を見せて「申請した人が貰うんですけど、善行に対して数値化されたデータが役所に送信される仕組みです」

「それでオーディションに受かったら大々的にヒーローとして脚光を浴びれると。今はそんな面倒くさいんだ。でも今ヒーローやってるよな」

グリーン「僕たちは全員〇◇コーポレーションの人に声を掛けられたんです。僕とイエローはバイト先で、ブルーとピンクは街中でだっけ?それでレッドが」

「オーディション会場か?」

レッド「下積みが大事だと。色んな経験をしてみないかって。仮契約として、会社の雑用ばかりしてたんですけど、会社の専属ヒーロー…俺達の先輩達が辞めてしまったらしく急に呼ばれたらここに行けと言われました。もう俺は自分が何をしたいのか分からなくなってきました」

レッドが半べそ。というかもう泣いてる。グスグス聞こえる。

「・・・・・」怪人は考えている。

(〇◇コーポはここ一帯が欲しい→俺が住んでて邪魔→強引に立ち退きをしようとして返り討ち→ヒーローをけしかける→家壊れる&研究やり直し→こいつら追い返す→こいつらクビ?別の奴(もっと厄介な奴ら)来る・・・)

「お前らがここに来た目的というか成功条件は?」

ブルー「怪人を倒して来い。です」

直球すぎる。

「成功するとお前達は〇◇コーポに本契約でヒーローとして世間で活躍できる。でいいのか?」

ブルー「はい。です。」

「よし。お前ら、俺と戦って勝てば良いんだろ?俺が負けたフリして何処かにいなくなれば万事解決だ」

ピンク「怪人さんがここを離れてくれるなら戦わなくても」

「【怪人を倒して来い】なんだろ?今まで面倒掛けられた怪人が何処かにいるってだけで気に入らないだろうな。中途半端な事すると変な理由をこじつけられるぞ。住人を無理矢理追い出そうとする会社だ、事が収まったら早めにそんなブラック企業は辞めなさいよ」

イエロー「あの~」申し訳なさそうに手を挙げる。

「はいそこのイエロー君」

イエロー「怪人さんって巨大化できますか?」

「巨大化?一応できるぞ。自衛の為に怪人には巨大化できる薬が普及されてるからな」

イエロー「巨大化した怪人をロボで倒す所までなんですけど、大丈夫ですか?」

ガチ勢じゃん。俺生きていられるかな。

「お前達もロボットあるの?」

グリーン「先輩のを引継いでます」

「・・・ちょっと準備してくる。お前らも用意しておけよ」

怪人は瓦礫の中から当たりを付けて探し物をし始めた。




「準備できたか?ほらレッド準備しろよ」

家の瓦礫を挟んで等間隔に怪人と五人は距離をとる。



ストレッチしながら怪人が提案する。

「折角だからお前達の強さがどれ位か見せてくれるか?止めを刺さないってだけで後は、本気でやってみたいんだが」

『えっ!?』五人が驚く。

「理由は二つ」

1:怪人を倒しました。と報告して、実力が伴ってないとすぐ嘘だとバレる。お互いに今後マズくなるんじゃないか?せめて、やっと勝てました。みたいな辛勝でいこう。

2:久しぶりに体を動かしたいから。俺はそこそこ強いよ?実践を積む良い機会だと思ってさ


「それじゃ登場シーンからやっておくか?w泣き虫レッド?」

怪人はからかっている。



全員覚悟を決めたのか  ふぅ~  深呼吸をして一息着いてから


レッド「旅行は計画を立てる所から」

グリーン「ハンカチ、テッシュ、酔い止め薬」

ブルー「大丈夫。戸締りは完璧だ」

イエロー「思い出に残る楽しいひと時」

ピンク「家に帰るまでが旅行」

レッド「旅行のトラブルズバッと解決‼ 我ら」

『旅行戦隊 トラベジャー』

『うおぉぉぉぉ』

五人が怪人に向かって駆け出す。


鞭がしなる様に怪人の左腕の蛸足が二人を絡めとる。そこを起点に自身の体を宙に浮かせて回し蹴りの様にもう二人を蹴り飛ばす。着地した勢いを使って絡めとっていた二人をさっきの二人の方へ投げ飛ばす。


レッド以外の四人が走り出した地点で倒れている。


あっという間の出来事に硬直したレッドに勢いを付けた怪人の右ストレートが直撃。レッドも四人の所へ転がる。

「大体分かった。お前達、ヒーローになろうと決めた最初の理由を思い出してみな」

そう言うと怪人は瓦礫の山へ探し物を始めた。



五人が円陣を組んで話し合う。

「怪人さん強くないか?」

「瞬殺w俺達が弱過ぎなんじゃね?」

「会社は俺達にあの人をどうにか出来ると思ってるのか?」

う~~~ん 全員が口籠った。

「ヒーローになる理由って?」

「ヒーローになろうと決めた最初の理由な。思い出せるか?」

「なんか漠然としてる」

グリーン「これかな?」

グリーンが銃の形をした武器を出してきた。

『!? なんだそれ!?』

グリーン「思い出したら出てきた」



各々、思い出し始めた。




「できたみたいだな」怪人がニヤついている。

怪人の向かい側に立っている五人はそれぞれ武器を持っている。

ハンマー

ブーメラン

鎖鎌


【第2ラウンド】


戦闘開始の切り口を待っている六人。と鳥の鳴き声が聞こえたのを皮切りに、グリーンが銃を撃つ。それを合図に四人が怪人を囲むように広がる。ブルーが投げたブーメランが銃の攻撃を避ける怪人に向かっていく。がこれも避けられる。

怪人に鎖が巻き付いて動きを止めた所へイエローのハンマーが横から、レッドの剣が縦から襲う。ハンマーを踏んでジャンプ、剣を避ける。戻ってきたブーメランを鎖に当てて衝撃でピンクの手を緩めさせ鎖から脱出。空中で左腕の蛸足をこれでもかと丸めて、落ちる勢いと合わせて地面を殴る。辺りが揺れた。


「即興にしては上々じゃないか?イエローとレッドのタイミングが合ってたらやられてたな」嬉しそうに怪人が「あっその武器は合体できるから、やってみな」



五人はお互いの武器をガチャガチャしながら組み立ててみる

「これはこっちだろ」

「こうでしょ?」

バラバラに外れてしまった。

「やっぱりここにハメてこうだよ」

「違う違う。ここをこうしてこうしてこうなるんだよ」

『あぁそうか』

六人で合体武器が完成した。



【第3ラウンド】


怪人と五人は最初の戦闘より広めに離れている。

合体武器を四人で支えてレッドがスイッチに指を置いている。

「よし、いいぞ」

レッド「いきま~す」

怪人の合図でレッドがスイッチを押す。

武器の先端からとても強い光が轟音と共に怪人に向かって行って爆発を起こした。

五人は怪人を案じている。

黒煙が晴れると怪人が倒れている。

『怪人さん‼』

五人が駆け寄ると怪人は土まみれのか細い声で

「まだ終わってないだろ、巨大化するから離れてロボを呼べ」

五人はロボットを呼んだ。

自分達と同じ色の五体のロボットにそれぞれ乗り込むと目の前に巨大化した怪人が現れた。

怪人は右手の平を上にして指四本をクイックイッ(かかってこい)とやっている。

レッド「行くぞみんな」

『おう』

五体のロボットは怪人に向かって進むと攻撃をしたが怪人は無傷である。


怪人の膝より少し上くらいの背丈のロボットが五体、群がって攻撃している。

「・・・・・」

ポカポカポカポカ

まるで親戚の集まりで大人と子供が遊んでいる様な光景だ。

「・・・・・」

ポカポカポカポカポカ

「・・・・・」

ポカポカポカポカポカポカ

怪人が左腕の蛸足で五体のロボットを払う。

『うわぁぁぁぁ』


「・・・お前達、合体出来ないのか!?」

レッド「合体出来るんですか!?」


「(引継ぎ・・・いや、前任者も知らなかったか)武器の時よりもっと強く、鮮明に思い出してみろ」



レッド(ヒーローになりたい理由、ライダーになろうとした理由。)

子供の頃に迷子になって泣いていたら、知らないお兄さんが手を取って一緒に母親を探してくれたっけ?探している中でお兄さんが気を紛らわせてくれたんだろう。色んな話をしてくれた。その中でお兄さんはライダーになろうとしてるって話は忘れられない。

「お兄さんはね、ライダーになりたいんだよ。そうすればもっと沢山の人を助けられるから」

左手を握って、今、自分を助けてくれているお兄さんをカッコいいと憧れ

「僕もらいだーになる。らいだーになってお兄さんと一緒にお母さんとみんなを助ける」

「じゃぁ、君より先にライダーになって色々教えてあげられるようにしておかないといけないなw」

結局あのお兄さんはライダーになれたのか分からなかった。名前も名乗らなかったらしい。

・・・だったら俺が先にライダーになって教えてやるよ。



ロボットが光りだして形が変わっていく。

盾と剣を持った怪人と等身大の立派なガン・・・。合体ロボが現れた。

「いいか?戦えるようになっただけだ。後はヒーローとしてやっていくんだぞ」

レッド「分かりました怪人さん・・・おじさん。ありがとう」

親しみを込めてお礼を言った。

「おじさんか、悪くない。必殺技で締めろ、そのまま俺はいなくなるからな」

今まで怪人としか言われてこなかったからか不思議な気分だ。

合体ロボの盾が剣と一体になって強力な一撃を怪人に浴びせて大爆発を起こした。



念の為、皆で周辺を探したけど、おじさんは見つからなかった。

どこかに行ってしまったんだね。

この後、俺達はおじさんとのやり取りは伏せて、巨大ロボまで使って怪人を倒したと会社に報告した。晴れて俺達は本契約としてヒーロー活動ができるようになった。

〇◇コーポレーションはおじさんの住んでいた一帯を買って、いざ事業を始めるといったタイミングで、労基:労働基準監督署やらモロモロから摘発されあっけなく倒産してしまった。俺達の先輩達が告発したらしい。

という訳であそこは手付かずな自然なままだ。


それから一年後


俺達は小さい事務所を開いて五人でフリーのヒーローとして細々と依頼をこなしている。

おじさんに戦い方を教わったおかげで失敗は少ない。

それでも、この国は元々平和で大きな事件はそんなに起きない。

これからどうしようかと五人でパトロールをしながら話し合っていたら、声が聞こえた。

「おい、そこの、【泣き虫レッド】」

声のする方を向くと、路上駐車している大きめのトラックの前で左腕が蛸足の怪人が警察と言い合っている。

警察「ここ路上駐車禁止ですよ?」

「まだ三分しか経ってないだろ?停車だよテ・イ・シャ」

警察「あと二分で発進してくれるんですか?」

レッド「おじさん!?」

『怪人さん』五人が警察から言い逃れしている怪人の所へ駆け寄る。

「お前達話は後だ。早くトラックに乗れ」

久しぶり、無事だったんだ…みたいな会話をする暇がなくあっという間にトラックに詰め込まれて発進した。

トラックで走りながらあの後の事、今までの事をお互いに話した。

「俺の事業を手伝ってほしいんだが頼めるか?」

荷台にはあの怪しい機械の小型版が三つ積まれていた。この機械は人の負の感情を和らげる物らしい。おじさんの事業とは全世界を周ってこの機械を設置して大きな争いを無くす事だという。

ブルー「俺達にうってつけじゃないか」

ピンク「旅行戦隊だもんね」

グリーンとイエローも頷いている。

レッド「おじさん、俺達にもやらせて下さい」

「よっしゃ、これからよろしくな」



俺達にとても心強い仲間が加わった。新生トラベジャーの誕生かもしれない。

「あっトラベジャーはダサいので改名します」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る