24.2度目の告白

リング工房、ここでペアリングを作るようだ。


なにやらリング作成中の2人を写真で撮ってくれて、リング完成後に気に入ったものを販売してくれる有料サービスがあるらしい。


オレたちが作るものはシルバーのペアリング、3mm幅らしい、良く分からないがとにかく亮とおそろいっていう認識で良いんだろうか。


「こんな感じの完成予定です」

「おおぉ…」

「なるほど」


完成予定写真を見せてもらった、艶もあるし、綺麗なシルバーのリングだった。

ちょっと楽しみになってきたぞ。


ペアリング作りにはオレたち以外にカップルが1組いた。


手順や気をつける事なんかを聞いて作り始めた。

分からない所なんかは聞いて進めていくんだけど、2人で協力してリングを作るというのは中々に楽しい。


まずは見方によっては太い針金か?と思うようなものを相手の指の経に合わせて切り出す。

次にペンチみたいなもので曲げるんだけど、これが結構力がいる。んでまあ針金を歪な円形にしたようなのが出来上がる。

次につなぎ目を溶接してくっつけるんだけど、やっぱりちょっと火が怖いよね。

丸い鉄の棒みたいなものにリングを通して木槌でたたいて綺麗な円形に整える、ここでやっと指輪っぽく見えてくる、ここが結構楽しかった、歪な円形が綺麗な円形になっていくのは嬉しいし面白い。

次はひたすらヤスリで磨き、綺麗にする作業。なるほどここは粉が一杯出てくるので特に汚れそうだ、一応エプロンを借りてやっているのではあるが多少は汚れるだろう。

ここは地味にとても疲れるけどドンドン艶が出てきて綺麗になる様はワクワクする。

最後は布で綺麗に磨いて終わりとなる。

特に相手のリングを作っているので手を抜くことが出来ず、最後まで真剣だった。

印字もしてもらった、両方とも2人分の名前をいれて。


亮とオレは笑いあいながら、楽しかった。相手に送るリングが綺麗になっていくのを見るのは嬉しく、心がこもるのを感じた。


最後に、有料サービスの作業風景の写真を見せてもらった。



衝撃が走る。

―――オレはその時、気付いた、気付かされてしまった、写真の中の、心から嬉しそうに幸せそうに好きな人を見る金髪の少女に。


オレは亮をこんな目で見ていたのか、こんな、誰がどこからどう見ても好きな人を見つめる目をしている、こんなに嬉しそうな幸せそうな顔で。

オレは知らなかった、こんな表情をしていたなんて、こんな恋焦がれた目をしていたなんて、そしてそれが、亮に向けられていたなんて。


気付いたら全てが分かった。


以前言われた事を思い出す、”好きじゃなきゃこんな事しない”、今なら心から分かる。

まさにその通りで、あの時からあった、喜んで欲しい、という感情は確かに友情にもあるだろう、だけどそれは、その時の感情は、女の子として”好きな人に"喜んで欲しいという意味だったのだと。


オレはずっと見ないふりをしていただけだった、あれは体が勝手にやった事だと。

ハグしたいと我慢できなくなったのも女の部分である体の性欲のせいだと、心がそう望んでいる訳じゃないと、そう思っていた。だけどそれは間違いで、オレの心と体の両方からの欲求であったのだと。


心だ体だと分けて考えていたけど、そうではなく、両方ともで一つのオレ自身なのだ。

つまり、オレは、もうとっくに亮に心身全てが惚れている、好きで好きで、どうしようも無く感じている。これだけ突き付けられて、ようやく、やっと気付いた。


考えてみれば当たり前の事だ、女の子が好きでもない相手に全てを密着するようなハグを求めるものか、スキンシップでじゃれ合いたいと思うものか。

それは全て、心から根本から好きな男だからこそ向けられていたものだったのだ。


それに気付くと、自然と涙が溢れてきた。


「亮…分かった、亮…」


オレはそういうのがやっとで、涙を抑え亮を見上げた。


「どうした塁、何が分かったんだ?」


オレは涙を拭いて、気を取り直し、亮の前に立ち、真剣な表情で言った。


「亮、今伝えたい事がある」


「―――待ってくれ、俺から言わせてくれ」

「え?」


亮はコホンと咳払いし、覚悟を決めた、真剣な表情をしていた。


「塁、あらためて言う、お前が好きだ、俺の恋人になって欲しい」


以前にも聞いたその言葉に対し、オレは前回とは全く違う感情を持って応えた。


「―――オレ、いや、ワタシも、亮の事が好き、心から好き、ずっと好きだったけど、やっと気付いた!だから!恋人になって、亮の女にして!」

「ああ、塁は俺の女だ!俺の全てだ!やっとだ、やっと俺のモノになってくれた!これからもずっと一緒だ!」


互いに強く抱きしめ合った。

ワタシも亮も涙が溢れ、周りの事などすっかり忘れていた。


パチパチパチパチ!

拍手が鳴って思い出す、そうだここはお店の中だった!

亮と一緒に我に返り、周りを見渡すと、店員さんともう一組のカップルが拍手をしてくれていた。讃えるような、それでいて少し呆れた顔で。


「あ、ありがとうございます」


亮とワタシはそう言うのが精一杯でとても恥ずかしかった。


「コレ全部下さい」


亮はそう言った。

その後の店員さんと亮のやりとりで何枚かはお店の宣伝資料となるようだった。


そして、早速箱に収められたペアリングを取り出し、お互いの右手の薬指にはめた。

亮にペアリングをつけられた瞬間、大きな喜びと感情の波が押し寄せてきて、また、涙が溢れて亮の名前を何度も口にした。

ああ、名前を呼ぶだけだというのにこんなにも心が暖かく、嬉しいなんて。

亮の右手薬指にはめた時は亮も感極まってまた泣いていた。

そのまま、もう一度抱き締めあった。


ワタシは感情が高ぶりすぎていて、早く亮とキスと遠慮の無いハグがしたくてたまらなかった。

だけど此処はお店の中だ、我慢しなければ。



帰り際に、亮と恋人繋ぎしながら何度も何度もペアリングを確かめるのだった。

顔が勝手にニヤけてしまう。


「まずはさ、母さんに報告しないとね、後は山口たちにも」

「え?マヤさんは分かるけど、智子ちゃん達も?」

「実は、恥ずかしい話しなんだけど、今日のペアリング作りは山口からの提案だったんだ」 

「そうだったの!?」

「あの3人は本気で塁の事を応援してて、早く恋心に気付いて欲しいってずっと言ってたよ、で、あそこならきっと気付いてくれるってお勧めされてさ、ネタバラシすると俺はちょっと情けない話しなんだけどね」

「えー、そんな事があったんだ、いつの間にー、妬けちゃうなー」

「やめてくれよ、ずっと言ってるだろ、俺は塁一筋だって。

3人は塁の事が友達として好きで、塁を心から応援してる、だから俺も3人は信用して話しができる、それは塁、お前がいるからだ」

「ばか、そういう事さらっと言うと恥ずかしいだろ」

「恥ずがしがってる塁も可愛いからな」

「…全くもう」


「山口たちには俺からよりも塁から話ししといてくれよ、そっちのほうがあいつらも喜ぶだろ」

「んー、分かった、でも先にマヤさんかな」

「母さんには俺と2人で話しをしよう、母さんもきっと喜んでくれるよ」


いつもの帰り道と恋人繋ぎだけど、今日はなんだか特別なものに感じた。

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