19.地雷を全部ぶっ壊せ作戦

うちの高校は、5月から女子は中間服と冬服を選択できる。


なので今日からセーラー服の中間服だ。

ベースの色が紺色から白に変わって夏服と同じ生地になって涼しくなっている。

男だった時はセーラー服は白ベースの方が好きだったなあ、紺色はなんか野暮ったい感じがしていた。


結局冬服は3日しか着なかったな、冬までにサイズが変わってたら親父が泣きそうだ、ただでさえ女の子になって出費が一気に増えたのに。


「やっぱり白のセーラー服はいいな、塁は特に似合ってるよ、奈江もよく似合ってて可愛いぞ」

「―――まあな、褒めてくれてありがと」

「白いから涼しげだよね、お兄ちゃんはまだ学ランなんだね」

「脱げばいいからな、中間服もないし」


何回も褒められてるが毎回頬が少し赤くなってる気がする、うれしいもんはしょうが無い。


――――――――――


昼食時久しぶりの5人での昼メシ。


「なんか久しぶりだよねー、5人で食べるのー」

「お喋り自体はメッセージアプリで結構してたけどね」


とさかトリオも3人共中間服になっている、5月だともう暑いからなー。


一緒に食事はしてても亮からはオレ以外には基本話しかけない、友達って訳でもないからしょうがないけどさ、仲良くして欲しいんだけどなー。

亮的には一応3人がオレを傷つける行動をしないか見張りも兼ねてるらしいので3人とは付かず離れずでやっていくつもりなんだろう。

とはいえ亮も話しかけられたら普通に優しく応えている。


「そういえばー、上野くんさー、昨日塁ちゃんとデートだったんでしょ?どうだったー?」

「ッ!」


沙也加ちゃんめ、オレに色々聞いてる癖に亮からも聞くなんて、オレが隠し事してないか探るつもりだなー?

でも少し声が大きいのでクラスの結構な割合に聞こえた気がするんだけど!


「そうそう、塁ちゃんから聞いてるよ!昨日デートだったって?何処で何してたか聞きたいな?」

「智子ちゃん!?亮から聞かなくて良くない!?」


智子ちゃんが更に大きな声で亮に聞く、いやコレ絶対クラス全員に聞こえたでしょ、女子や男子連中がめっちゃこっち見てるって!


智子ちゃんは何事か亮にアイコンタクトを送っている、なんだなんだ?

それを見た亮は何か分かったのか、嬉しそうに応えた、またもやクラス中に聞こえる声で。


「ああ、昨日は塁と水族館に行って、自然公園で塁の手作り弁当を食べて、夕立に濡れてしまったので塁の家で2人っきりで過ごしたぞ!!」

「おおおいッッ!!!」


思わずオレも大きめな声で突っ込んでしまった、そこまで言うな!めっちゃ恥ずかしいだろ!

亮の言葉にとさかトリオはオレを見た、初耳なんだけど?って顔で、でも直ぐに目が爛々と輝き出した。コレはいけません。


クラスメイト共は大半がオレと亮を見てる、もう聞き耳立てるとかしてない。

いやコレ絶対オレと亮が付き合ってると思われてるだろ!!


「…順番に聞こう」

「そうだねー、まずは水族館からかなー、上野くん塁ちゃんはどうだったー?」


まてまて水族館なのに聞くのがなんでオレの事なんだよ!


「えッなんでオレ?」

「水族館の塁は幻想空間にいる天使のようだった、その後のイルカショーでは笑顔が普段の数倍輝いて見えたよ、とても綺麗だった!」


オレはもう何も言えなくなった、とにかく顔を真っ赤にし、下を向いて、ニヤケ顔を隠しつつ、とにかく恥ずかしかった。思わず手で顔を覆ってしまった。

しかしまだまだとさかトリオと亮の話しは続く。


「じゃあ、自然公園で食べた塁ちゃんの手作りお弁当はどうだった?」


「見た目はそこまででも無かったが、全てが手作りで、ハンバーグも卵焼きもおにぎりもこの世で一番美味かった、俺に喜んで欲しくて作ったと言っていたし、俺は世界で一番の幸せものだ!」


声がデカい!!お前も少しは恥ずかしがれ!なんでそんなに嬉しそうなんだよ!確かに喜んで欲しくて作ったとは言ったけど!此処で言う必要あるか!?


オレの頭から湯気が出ているのではないかというくらい熱い、過呼吸になるのではないかという程呼吸は乱れ、だけど頬は緩みっぱなしで、でもひたすら恥ずかしい!


「夕立の時の塁ちゃんちはどうだったー?実は初耳なんだよねー?」


とさかトリオはニヤニヤしながらこちらを見ている…ような気がする、いや絶対見てる!


「これは秘密なんだけどな!」


おい!秘密にする気ないだろ!声量を少しは下げる努力をしろ!

どこまで言うつもりなのか、そこだけは不安だった。


「俺達2人は同じ部屋で、Tシャツとパンツ1枚だけで1時間以上過ごした!そして当然塁の裸も見たし、塁も俺のアレを見た!後は言わなくても分かるだろ?」


流石にハグの事は言わなかったか、っていやいや!嘘じゃないけども!嘘じゃないけどさあ!

言い方!もっと凄い事想像されるだろ!!


「えっ!想像してたより進んでた!」

「あー、とっくにそういう関係かー」

「…よくやった」


やってない!やってないから!というかそこまで進んでない!

そしてクラスメイトがざわついているのが微かに聞こえる、けどそっちはもうどうでも良かった。


オレは顔を上げて亮を睨みつけた。


「りょ~!おまえ~!」

「なんだ、嘘は言ってないぞ」

「いやいや!態々大声でいう必要もないし、普通そういうのは人には言わないだろ!クラスのみんながどう思うか!」


その言葉に、亮ととさかトリオはニヤリと笑った。


「いや、それで良い」

「そうだよ~塁ちゃん、これでいいんだよ~」


こいつらが何を言ってるのか全く分からない、なんでとさかトリオと亮が通じ合っているのかも分からない。いやコレは嫉妬ではなく。

隣にいる沙也加ちゃんは小声で話しかけてきた、今度はちゃんとオレにだけに聞こえる声で。


「後で、ちゃーんと話してあげるからー、安心してね♡」


食後、男友達連中が生暖かい目でオレと亮を見ていた、おい!サムズアップすんな!

亮の肩を叩き、感想きかせろよ、じゃないから!亮も!最高だった!じゃねーよ!何の感想だ!

女子連中はガチ凹みしてるか魂抜けたようなのが数名、後は目を合わそうとしなかった。

多少は嫌われてるとは思ってたけど、そこまでになっちゃったか。


――――――――――


5人で教室から移動して、校庭のベンチに掛けた。


「で、あんな事をした理由を教えてくれるんだよな?」


オレは少し怒っていた、そりゃそうだ、普通じゃ考えられない、クラスメイトの前で大暴露をされてしまったのだから。


「ごめんね塁ちゃん、クラスの女子達に2人は付き合ってるって勘違いして欲しくて、あんな事しちゃいました」

「え?どういう事?」

「まー想像以上に深い仲だったからあたしらも驚いたけどねー」

「…”地雷を全部ぶっ壊せ作戦”大成功」


本当にどういう意味なんだろう、なんで勘違いさせる必要があるんだろう、そんな事になんのメリットが?それと何その作戦。


「…中途半端だと塁が困る」

「そうそう、前のままだと上野くんと付き合ってない癖に上野くんに付き纏ってる女って事になってたからね、上野くん人気あるから、よく思わない子達も多かったんだよ」

「あいつー、うざくね?って言ってた子も居たからねー、ああいう子達は仲間内から誰か好きな人が出ると同じ人を好きになっちゃいけないとかそういう考えで虐めたり陰湿な事し始めるんだよねー」

「だからあえてハッキリさせたんだよね、塁ちゃんにトラブルが及ぶ前に」

「まーもしお互いに別に好きな人がいる場合はー、そんな事しないけど、今は塁ちゃんは他に好きな人いないんだよねー?」

「まあ、うん、亮以外でっていうといないな」


3人に少しオッ?という反応があった。


「俺は塁一筋だから全く問題ないしな」

「そういう事なので良い事は合っても悪い事はないんだよね、あーでも上野くんが気付いてよかった、いきなりだったしちょっと不安だったんだよね、照れて何もないよ、とか言い出したらどうしようかと思った」

「俺はそんなタイプじゃないし、むしろ俺からしてもメリットあったしな、女子と同様に塁は俺のモノだ!って周りの男子連中に示せたのはデカい」

「いやいやまだお前のモノじゃねーから!」

「これでクラスだけじゃなく同級生連中にも直ぐに伝わるだろう」


さらっとスルーするな

面倒くさい事に巻き込まれないようになったのは良いことだけどさあ。


「そだねー、塁ちゃんが変に騒いだり、否定しなくて良かったよー、真っ赤になって顔を覆ってる塁ちゃん可愛かったー」

「否定できない様に事実しか言ってないからな。

それに中山さんも分かるか!あの時の塁は全てが可愛かったよな!」

「わからいでか!ていうか、あたしら3人はー美少女塁ちゃん大好きな集まりだからねー」

「ああ、そういえばそうだったな、今回の件で3人は信用出来るって分かった、それも良い収穫だった」

「上野くんまだ警戒してたんだ、結構過保護だよね」

「…独占欲強そう」

「独占欲は強いぞ、塁は誰にも渡す気がないからな!」

「オレの意思がないようだけど?」


「真面目な話し、これで塁ちゃんにちょっかい出してくる男子も減ると思う」

「え?男子?」

「これから間違いなく人気でるよー、美少女なんだしー」

「そうだぞ、下駄箱に手紙が来てても1人で絶対行くなよ、お前は丁寧に断ったつもりでも逆上して強引に来るのもいるかも知れないからな」

「1対1で男子に合う事自体危ないと思ったほうがいいかもね、塁ちゃんくらいの美少女だと」

「…危険」


えー、そんなに危険か、と思ったけど、ナンパの事を思い出してキュッとしてしまった、確かに危険だ、気をつけよう。


「まーそうそうないけどねー、でも気を付けたほうがいいのは間違いないねー」

「危険といえば、俺は体育なんかの男女別れるのには助けられないから、できれば山口達にサポートをお願いしたい、いいか」

「分かった、任せてよ、上野くん」

「でもその内なんか見返りほしいなー」

「いいぞ、塁の画像データでいいか?」

「オイッ!勝手にッ!」

「じゃあそれで」

「大丈夫だ、2人の秘密は渡さないから」


それはそうだけどそういう意味じゃない!


「とりまメッセージ交換しない?」

「そうだな、いいぞ」


「じゃあ、一枚送っといたから」

「おー、これは始めてみたかも、ありがとー」

「…はぁ」


もはや諦めの境地だった。

いや4人仲良くなって欲しいとは思ったけどさー、こういう形なのかー。

と思いつつ安心しているオレもいるわけで、あくまでオレで繋がっているという安心感。

ってなんの安心感を感じていた!?


「ところでさ、塁ちゃんちで2人は何してたのかなー?」

「Tシャツに下着1枚にお互い裸も見たんでしょ、何もしてない訳ないよね?」


あッ、平穏無事に終わるかと思ったけど大きな爆弾が残ってた。

亮がオレの方を見る、絶対に言うなよ!っていうアピールとして口に指を立ててシーッっとやった。これだけは絶対に内緒だ。


「悪いけどそれだけは言えない、だけど3人が思うような事は」


とさかトリオはオレのほうを見るがオレがお口にチャックのジェスチャーをして断固拒否した。

3人は俺達を見回して


「でもまだ付き合ってない?」

「ああ」

「うん」

「―――まじかー、分かったよ」


渋々納得してもらった。


「ああでも塁ちゃん、学校では付き合ってないって言わないほうがいいよ、折角成功したのに無駄になっちゃうから」


そうだ、確かにまだ付き合ってない、だけど、それを態々学校でいうと今日の4人の努力が無駄になってしまうし、また面倒臭い事になる、自分から付き合ってないって言う必要も無いと考えよう。

―――ちょっとまてよ、4人の努力だけど、凄く恥かいたのはオレだけな気がする、なんだろうそこだけ納得いかない、なんで亮は恥ずかしくないんだ、むしろ嬉しそうに話してたし、ダメだこいつは。


休憩終わりに教室に戻ったら、なんか、そういう感じの空気だった。

午前中みたいなピリっとした感じが無くて、安心できた。

ちゃんと効果あるんだなあ、4人に感謝しとこう。

こうしてクラス公認カップルになった。なっちゃった。

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