13.初デート

ガバリと跳ね起きる、今日は亮との初デート。


昨日は余り眠れなかった、布団に入ってから、亮の大きな手、少し節くれだった指、しっかりと筋肉のついた腕の感触が忘れられず、ナンパから助けて貰った時の大きく凛々しい声、”俺の彼女”という言葉、どこまでも優しい表情、背が高くともすれば威圧感のある体格、きっと押さえられれば動けそうにない圧倒的な敗北感。以前の自分にもそれが合ったとは思えない、それほどの性差。

あまりにも悶々としすぎて、この体で初めて、自分を慰めた。


しかしそれも昨日だけの話、今日は気分を新たに亮とデートするのだ。

デート…デートかあ、深みにハマらないように注意しないと。


昨日とさかトリオに貰ったアドバイスを元に今日は少しイメージチェンジをしようと思う。

と言っても今のオレにイジれる所なんて簡単な髪型と服装くらいしかない。


具体的には髪型は後頭部少し高い位置で一つ結びに、服装はハイネックニットと黒のミニスカートだ。

ハイネックニットは露出こそ少ないが胸の大きさがとても強調される、亮はおっぱい好きだから効果は抜群のはずだ。ってコレ強調されすぎでは?

そしてミニスカート、これはもう鉄板と言っていいだろう、男の子はコレでイチコロとは智子ちゃん談である。制服みたいにフワリとした感触ではないので捲れる心配も無く逆に安心できそう。

靴はヒールはまだ難易度が高いのでスニーカーを合わせてみた。

全体的に少し元気なイメージで、かつある程度のセクシーさも持たせて見たんだけどどうかな?


まあ何着ても似合うらしいし、これで大丈夫だろう。

服装で悩んだり、髪型を弄ると自分は女の子なんだなとあらためて実感してしまう。


ピンポーンとチャイムが、亮が来たようなので玄関まで出迎えに行く。

そういえばTS症が発症して亮を玄関に出迎えてもう1週間も経ってしまったんだな。


「おはよう!もう準備出来てるぞ」


鍵を開けて出迎え、亮の顔を少し下から見上げる。


「おはよう、今日は髪型変えたんだな、凄く似合ってるよ、とても可愛いし綺麗だ」


ボッと顔から火が出るように熱い、あれ?ちょっとまって、今気付いたんだけどなんでおしゃれしたんだっけ。


確かこのおしゃれは亮を落とす為にとさかトリオと話し合って準備したものだった気がする。

亮を落とすため?まてなんだその目的は。なんだ”絶対決めようデート作戦!”ってのは。何も決めなくていいから!


なんで亮をこちらから落としに行く必要がある、ないだろそんなもんは、昨日の気の迷いのせいで今日のおしゃれの方向性が間違っている事に気付いた。


しかし今から部屋に戻って着替えるというのもそれは流石に失礼というものだ、わざわざ可愛くないように服装や髪型を変えるってのはやって良い事ではない。準備出来てるって言っちゃったし。


―――仕方がないのでこのまま決行する事に決めた。


「それってポニーテール?やっぱり似合うし可愛いな、俺ポニーテール好き」

「なんかこれは一つ結びってやつらしい、ポニーテールと何が違うのかは分かんない、同じに見えるけど」

「まあどっちでもいいかな、ポニーテールっぽいし、可愛いし、あと高い位置だとうなじがセクシーだよな、セクシーって意味ではおっぱい大きくてニットは大分攻めてるなあ、嬉しいよ」

「おまッお前なあ、褒めすぎ、褒めすぎだから、暑くなるからあんまり褒めんな」

「真っ赤になっちゃって本当に可愛いな、まあでもあんまり人前で真っ赤になってても可愛そうだから程々にしとく」

「そうしてくれ」


手でパタパタ顔を仰ぎつつ、靴を履いてバッグ持って出かける準備ヨシ!


亮の方を見ると、亮もおしゃれしてるみたいだった、ちょっと服装がいつも遊びに行く時とは違って上にジャケットなんか羽織ってる。ちょっとだけ大人びてる雰囲気だ。

少しカッコいいじゃないか、意識するとドキドキして心臓の鼓動が早くなる。


「んじゃ行こうか」


――――――――――


「今日はデートって認識、ちゃんと出来てる?」

「流石に分かってるよ、というか昨日3人に言われて気付いたんだけど」

「―――今日気付かなかっただけましか。お陰で可愛くてセクシーなおしゃれしてくれてる訳だし。3人には感謝しなきゃな」


二人並んで歩いているとまあまあ注目を浴びるみたいで、オレにも、亮にも視線が沢山向けられる、オレに対しては主におっぱいと太ももに。

お前らに見せる為にこの格好してるんじゃねーぞ!って思うけどもじゃあ亮なら見てもいいのか?―――まあ…亮ならいいか、色々と世話になってるし。


なんだかんだオレにとって亮は特別なのだ、別に手を繋ぎたいくらいなら許す。それ以上はダメだけど。


まずは映画館で映画を見るようだ、一応気を使ったのか恋愛映画ではなくアクション映画だった。

まあ別にオレとしては恋愛映画でも問題は無かったけどな。多分。


飲み物とポップコーン頼む時にペアという単語に過剰反応して恥ずかしかった。

いやいや意識しすぎだろオレ、ちょっとは落ち着こう。


――――――――――


なんで映画ってなんでもかんでも恋愛要素入れるのほんと何なん、あれかオレ等みたいな初々しいカップルが恋愛映画とか見られなくてもアクション映画なら見れるだろうと、ついでに恋愛要素もいれてやろう、って事か。余計なお世話だ。

いやそもそもカップルじゃねーし。


映画を見終わって、日曜だから混んでたけど和食のお店で昼メシを取る事に。

感想を少しとこの後の予定、雑談なんかを亮と話した。


「今日はデートで、周りからみて俺達はカップルにしか見えないからな、デートだからカップルで間違いではないと思うんだけど。」

「分かってるよ、デートだからカップル、そうだな、まあそうだ」


なんでこんな話をしてるかというと”あのカップルお似合いだね”と聞こえてきたからだ。

否定するオレを亮が宥めていたという訳。


「ついでにもう一つ、俺達についてだ、俺の気持ちは全く変わってないからな、知ってるだろ、意識しといてくれよ」

「…」


知ってるし、分かってるさ、でも…と俺は返事が出来ずにいると

俺の両手を握ってきて


「俺は変わらず、お前の事が好きなんだ」


真剣な瞳でオレを見ている。

オレの心臓が鼓動を激しく打ち鳴らし、頬は紅潮し、視野が狭くなり、汗がじっとり出ているような気がする。

何か答えなければ、流される、でも言葉が出ない。―――そのまま、流して欲しい。


だかしかし、亮はいともあっさりと手を離し、何事も無かったかのように。


「お前が気持ちに気付くのを待つつもりではあるけどな」


なんて事もなげに言うのだ、まるで波が引いていくようにあっさり、こちらの心を見計らって飛びつくタイミングで引いていき、気持ちを丸裸にさせるかのようにだ。

そしてオレは寂しさを覚えていた、そんなあっさりと引かないで欲しい、もっとグイグイ来て欲しい、そうすれば何も考えずに流されるのに、―――達する直前で止められたような、そんな感情だ。


だからオレは流されそうになった、それこそ、引っ張られて飛び付こうとしてしまった。


亮はオレが自分から飛びつくのを待っている、ただ待つだけじゃなく、こちらが飛びつきやすい状況を作っている。

オレに自分の心を気付かせるためだ、流されたなら後から言い訳できる、でも自分から飛びついたら?言い訳できないし認めるしかない。


それは亮自身のためでもあるのだろうがオレのためでもあるような気がする、この考え自体がすでに乗せられているような気もするが、オレはそれに気付け無い。


なぜならオレは、オレの心の天秤は以前より女に傾きやすくなっているからだ。

そして早くそちらに傾いて楽になれよと言っている自分がどこかに居る。


亮ならば元男だからと悩む必要もない、好きと言ってくれている、それも本心から、きっと幸せにしてくれるだろう、マヤさん達家族も暖かく受け入れてくれる、それならば、何を迷う必要がある?これは自分のためでもある、とそう言っているのだ。


しかしまだオレは、まだ、オレで有りたかった。

そちらに行って、戻ってこられるならそれもいいだろう、実際には行ったら戻ってこられない、一方通行なのだ、戻れない道を進むには相応の覚悟がいる。

天秤がゆらゆらとしてる内はまだいい、しかし完全に傾いたらもう戻ってこられない。そういうものだ。


まだオレでいたい。

今は鼓動や頬の熱さ、心の内を亮に悟られないように平静を装う事で精一杯だった。


その後はアミューズメントパークや本屋、古着屋なんかを回ったが、その時の亮は親友の顔をしていた。少しの物足りなさを感じた。


―――夕方も近い時間、帰り道


「塁、今日はデートなんだから手ぐらい繋がないか?」


物足りなさを感じていたオレは、手を繋ぎたい、と思っていた、しかし一応の抵抗を演じてみる。


「えーなんでだよ、嫌だよ」


言いながら心では押してくれる事を望んでいる。


「そんな事言わないでさ、今日楽しかっただろ?ご褒美だと思って」


人はご褒美という形だと心理的ハードルが下がって許しやすいというのを聞いた事がある、まさにそれだ。

オレの抵抗のハードルを下げてくる、もう既に下がりきっているんだけどね。


「分かった、手だけだぞ」

「よっしゃ、じゃあ繋ぐぞ」

「――ッ!」


だから!なんで恋人繋ぎなんだよ!

これだと腕も密着するから心臓に悪い、接触面が多い、あとさり気なくおっぱいを肘で触ってる。

気付かないとでも思っているのだろうか。


「塁の手は柔らかくって可愛い手だな」

「そんな事言うともう繋がない」

「なんだよ褒めてんだから怒んなよ、それに手を繋いでいいっていったのは塁なんだぞ、それにもう帰るまで離すつもりないからな」


「塁の手って、少し冷たいよな、俺が温めてやるよ」

「…うん」


そうなのだ、手を繋ぐと分かるが女の子は筋肉量が少ないからか手なんかの表面温度が低い。

だから、亮と手を繋ぐと、暖かさに包まれているように感じる。しかも恋人繋ぎなら指の全てが。

手を繋いでいるだけなのにこんな事で気持ち良くなってしまってヤバい。


「連休中にさ、もう1回どこかデートしないか?」


少し考え―――考えるフリをして


「ああ、うん、いいよ」


本丸さえ攻められなければ簡単に流されるオレであった。

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