12.友だちとのショッピング(後編)
2人してダベっていたら山口さんと佐伯さんとも合流したので4人で買い物に行くことに。
100円ショップでおすすめのコスメとやらを買って小物売場へ、ここでは可愛いモノや面白そうなものを見ているのだけど…ちょっとまだ感性が追いついてない、辛い。
そしてお昼御飯はファーストフードのハンバーガー店、それなりに混んでいるけど待てないほどじゃないので席確保と並んで注文する組に2人ずつで分けた。
オレはメニューを見たかったので並ぶ組で相方は山口 智子ちゃんだ。
「智子ちゃんは何頼むつもり?」
「実は塁ちゃんと同じでメニュー見てから決めようかと思ってて」
「最近はすぐに新メニュー出るから把握してないんだ」
「あー、私もだ、全然メニュー覚えてない、テリヤキバーガーとか前から有るのは分かるけど」
こんな感じで4人席に座って食べ始める。
「そういえば聞きたかったんだけど、塁ちゃんって上野くんと今どういう関係なの?只の親友じゃないよね?」
「まー正直あやしいよねー、実は付き合ってても不思議じゃないよねー」
思わず吹き出してしまった。
「いやいや、先週まで普通に男同士だったんだよ?そりゃ今でも親友だけどそれ以上じゃないから!」
「えーでも朝のアレとか見るとさー、俄には信じられないなー、むしろ付き合ってるほうが自然だよー」
「エッ、朝に何かあったの?聞かせて聞かせて」
「…聞きたい」
「実はねー諸君、私らが来る前に塁ちゃんはねー、ナンパされててー無理やり連れて行かれるところだったんだよー」
「エエッ!連れて行かれそうってそれヤバい奴じゃん、でも助かったんでしょ?」
「…それは普通に犯罪」
「アアッ!恐怖に足が竦む塁ちゃん!男には力では敵わない!絶望したその時!」
「その時?」
「なんと上野くんが颯爽と現れてナンパから華麗に助け出してくれたのでしたー、俺の彼女に手を出すな!とか言ってー、そりゃもうボッコボコよー」
「スゴー、そりゃ惚れちゃうよね、ってかやっぱり彼女じゃん」
「ちょっとまって!なんか話しが盛られてるんだけど!確かにナンパから助けてくれたけどボコボコにはしてないし、彼女でもないし!」
「えー、ボコボコにはしてなくても”俺の彼女”って言ってたのを聞いたよ?」
「…やっぱり彼女」
「いやあれはオレを助ける為の方便だってば」
「えー見たかったな、カッコいい上野くんと助けられる塁ちゃん、恐怖に竦む美少女とそれを助けるイケメンとかドラマすぎるよね」
「助けた時の証拠画像ならここにあるよー」
沙也加ちゃんが証拠画像を見せる。
「うわあ、これさ、どう見ても恋人同士のオーラ出てるよね」
「…見つめ合ってる」
「だよねー、知らない人が見たら恋人同士だよねー完璧に」
「うわあ…、傍からだとこんな風に見えてるんだオレ等…」
「でもあの時の上野くんさー、凄く格好良かったなー、塁ちゃんがいらないならあたしが狙っちゃおうかなー」
沙也加ちゃんの冗談だろうけど亮を狙うという言葉を聞いた時、心臓の部分がズキリとした、一瞬でも亮がオレから離れていく事を想像してしまったからだ。
だから冗談でも貰っちゃっていいよ、なんて思えないし言えなくて黙ってしまった。
「あー、ゴメンゴメン、塁ちゃん冗談だよー、上野くん盗らないから安心してー。
それにあたしなんか眼中にないから、ごめんね冗談でもこんな事いっちゃって」
「そうだよ、美少女を傷つけてはいけないなあ沙也加クン」
「あっ、そんな大丈夫だから大丈夫、気にして…ないから」
「めっちゃ気にしてるじゃん、本当ゴメンってばー」
ヤバいヤバい、オレのせいで空気が重くなってしまっている、何か話題を変えないと。
「あ、そういえば明日、亮と2人で出かけるんだけど―――」
しまった!よりによってこの話題を出してしまうなんて!
3人の目がキラリと光ったのが見えた、やらかした!
「えー、もう少し詳しく話しを聞かせて頂けますかー?、明日の事件の事なんですけどー」
「それってさ、2人で出かけるで間違いない?」
「…デート」
「ちがっ!いや!明日ね、亮と2人で遊びに出かけるだけだから!男の頃からしてた遊びに行くのとおんなじだから!」
「あのね塁ちゃん、男女が2人で遊びに行く事って、世間一般ではなんていうか、知ってますよね?はい答えて?」
オレは俯きながら小さい声で答えた。
「―――で」
「デ?」
「デート…です」
「そうだよねー、ってことは明日の上野くんとの2人きりのお出かけは何かな?」
「デ、デート―――です」
言わされた。そして自分でも気付いてしまった、明日は亮とデートなんだと。
今までは頭の片隅に薄々もしかしてそうなんじゃないかと思っていたけど、今までの遊びと同じだと抑えつけてしまっていた。
でも3人によって眼の前に突き付けられてしまった、これはデートなんだ、と。
そうなるともうダメだ、よりによって、男に屈服し、奇跡的に亮に格好よく助けられて、さらには亮の男らしさや頼もしさを、そしてそれ以上の何かを感じてしまっている、今日の精神状態で明日がデートなんだと気付いてしまったオレの心は、自分でも抑えきれないレベルで幸福感がマシマシになっていて、頬が勝手に緩む!ニヤニヤが止まらない、下を向き続けないと簡単にバレてしまう!
「あー奥さん、ダメですよこの娘、ずっと下向いてニヤニヤしてますよー」
「まさか!今頃デートだって意識したって事!?」
「…遅い、遅すぎる」
ダメでした!バレバレです!
「仮に付き合ってないとしてー、好きなのは間違いないよねー」
「ちッちがッ―――」
「はいはい、ほっぺた緩めながら言っても全然説得力ないからねー」
「塁ちゃん幸福そうな顔しててもスッゴイ美少女、ほっぺたゆるゆるで可愛さ維持出来てるって凄い」
違うのに!今日だけはダメなんだってば!
「これはお姉さん達がデートのアドバイスして挙げないとダメでしょう」
「いうてーあたしらもー彼氏出来た事ないけどねー」
「それは言わない約束でしょ!」
「…智子は人気あるから作ろうと思えばすぐ出来る」
脱線して話しが流れる雰囲気には―――ならなかった。
「まずは第一印象から変えないとね、簡単でインパクトが大きいのはやっぱり髪型からだよね」
「他にも服装なんかもさ、男受けしそうなの選ばないと―――」
こうしてかなりの時間を”絶対決めようデート作戦!”のアドバイスに使うのであった。
一応それが終わった後にも洋服を見て回った。デート用の。
そろそろお開きになるので亮にメッセージを入れるのだが、今日のあれこれでメッセージを打つのすら凄い緊張して時間がかかっている。
「あれー、何やってんのー?って上野くん?」
はい、沙也加ちゃんにバレましたー
3人の目がまたしても爛々としだして怖い、何時に迎えに来て―って言うだけなのにー。
「いやこれはね、亮に迎えに来てもらおうとしてて…」
「あーそういやーそんな事言ってた?ような?」
「え、どういう事」
「ほらー上野くん達家族でー塁ちゃんをサポートしてるって話しー、今日はさーナンパされたし迎えに来る事にーなってるんじゃないかなー?」
「そういう事ね、だったらメッセージじゃなくて直接言ったほうがいいって、気持ちも伝わるよ!」
今の気持ちは伝わんなくていいです!これは今日だけの気持ちなんで!
―――ここで愚図っててもしょうが無いので観念して亮に電話を掛ける。
とさかトリオがワクワクした目で見てるんですが…特に何もないよー。
普段おとなしめの佐伯さんが突然オレのスマホを取り上げて、スピーカーモードにした、ちょっと!?
「塁か、どうしたんだ電話なんか掛けてきて、まさか何かあったのか!?」
とさかトリオ3人ともニヤニヤしてるー、頼むから亮は変な事言わないでくれよー。
「ああ、いや、そろそろ帰るからさ迎えに来てもらう時間伝えとこうと思って。それに今日は色々あったから直接話しとこうかなって」
「なんだそんな事か、気にしなくていい、俺は塁を守ると約束したしな、まあでも、気持ちは嬉しいよ」
とさかトリオがきゃーとか塁を守る、って!て小声で騒いでいる。
「あーそんでさ、今気づいたんだけどこっちの駅に付いたら連絡してくれない?ここで待ってるのも怖いし」
「確かにそうだな、それは気付かなかった、じゃあ付いたら連絡するから安全なところで待っててくれ」
「じゃあ、よろしく」
「ああ、塁、すk」ブッ!
あぶねえ!絶対今好きって言う所だっただろ!切るのが間に合って良かった。
「ねえ今最後さ、上野くん”好き”って言う空気じゃなかった?」
「あーね、あたしもそう思ったー」
「…好き」
「いやいや違うから!あれは”直ぐに行くから待ってろ”だよ」
うん、そうだ間違いない。
もうオレの顔は真っ赤になっているがそうに違いない、心臓もバクバクいってるのは変な事言われる前に切れたからに他ならない!ちょっと気分良くなってるのも関係ない!
「まーでも塁を守る!ってのが聞けただけでも収穫あったよねー」
「明日が楽しみだね、ちゃんとどうなったか聞かせてよー?」
「いや、期待しているような事は起きないから!期待しても無駄だからね!」
「まあまあそう言わずにね」
「皆まだ帰らないの?」
「えー?上野くん待ちだけどー?だってさー塁ちゃん1人にしておいたら危ないじゃん?上野くんに怒られちゃうよー」
「そうそう、危ないよね」
くッ―――確かに1人じゃないのは心強いけども!けども!
とさかトリオは絶対おもしろいもの見たさで居るだけでしょ!
亮からメッセージが来た、駅についたそうだ、待ち合わせ場所を指定してそこへ向かう。
とさかトリオも一緒に。
「よお塁、って3人も一緒か、悪いな塁に付き添わせちゃって」
「いいよー全然、だって1人にさせちゃうと危なかったし、ごめんね上野くん、今日は塁ちゃん誘っちゃって」
「いや、塁も女友達と遊びたかっただろうしいいと思う」
オレは早くこの場を去ってしまいたい、亮のやつがとさかトリオの喜ぶ地雷をいつ踏むか気が気でならないからだ。
「じゃあ今日は楽しかった、ありがとう、また明後日学校でね、ばいばーい」
「え、もういいのか、塁、おい!―――3人とも、明後日学校でな」
亮の腕をつかんで、腕を組んで、引っ張ってとさかトリオと分かれた。
最後なんか騒いでいたがもういい、早くこの場を去らなければ、という思いで一杯だった。
そして改札を通り、シートに座った頃になって腕を組んでいる事を実感しだした。
あーもう、今日はダメだってー!腕を離したくても離せない、体が言う事を聞いてくれない、体が亮から離れたくないと思っているかのようだ。
「塁、いいのか、腕」
「…」
「あのさ、腕だけじゃなくて、手も握っていいか?」
「!」
あーダメだ、手を握ってきても抵抗できる気がしない、ええいもう好きにしろー!
「い…いいよ」
亮のやつは嬉しそうに手を―――って恋人握りじゃねーか!
まあ腕組んだ状態からそのまま手を下ろすとその形になるけどさあ。
お互いの指と指を絡ませ、より密着する手のつなぎ方、半分腕を絡ませながら手を握ると自然となる。
あー亮の手がゴッツい、でも温かい、落ち着く、包まれてるみたいだ。
さっきまでの早鐘が嘘のように落ち着いてきて、でも心がぽかぽかしてきて幸福感に包まれそうになる。でもきっと顔は真っ赤に染まっていて、亮の顔が見られない。
「きょ、今日だけだからな、助けてもらったから、今日だけだ」
そう言うのが精一杯だった。
「ああ、それでも嬉しいよ」
多分今、もっと求められたらきっと断れない、キスもしてしまうだろうし、その先も。
だから頼む、今はそこまでにしといてくれ、まだだ、まだ普段のオレはそこまで女の子になっていない。今日だけ、今日が特別なだけだ。
オレは今日、自分が女の子なんだと身をもって知ってしまった、だから多分、いつか、いつかは分からないけど、オレの心の底まで受け入れる日が来る、そんな予感がした。
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