11.友だちとのショッピング(前編)

翌日、お昼昼食の時間

オレは凄く楽しみにしていた、智子ちゃん、沙也加ちゃん、奏ちゃんに加えて亮も一緒に昼メシを食べられるのだ。

早速机をくっつけて4人席+お誕生日席の形にした。

誰がどこに座るかについては昨日の時点で亮にお誕生日席に座ってもらい、そこの右手側にオレが座るという事が決まっていた、ぱっと見は亮ハーレムだな。


「あれっ?二人共同じお弁当なんだね、まさか…?」

「あッ、いやッ、コレは違くて、その…亮のお母さんが作ってくれてるんだ」

「えー?どーゆー事ー?」

「うちの母さんが俺や妹の弁当作るついでに塁の分も作ってる、塁がTS症にかかってから俺の家族で塁をサポートしてるからな」

「上野くんだけならともかく、家族でサポートって、大変なんだね」

「大変ではあるけど好きでやってるところあるから気にしてない、母さんも塁の事は気に入ってるし」

「すごーい、そこまでやるなんてー、親友の枠超えちゃってなーい?」

「確かに珍しい事だと思うけどうちはちょっと特殊な事情もあるから」


亮がオレを優しい目で見つめてくる、やめろ今そんな目で見るな、勘違いされるだろうが。


ちなみにスルーしたけど親友の枠は超えてるとオモイマス。

でも決してそれは恋人とかそういうのではなく、家族ぐるみというイミデス。

だからそういう目でオレと亮を見るのはやめようね!沙也加ちゃん!

触れるとドツボにはハマりそうなのでスルーするしかない。


――――――――――


ゴールデンウィーク1日目の土曜日、今日はとさかトリオとお出かけなのだ。

とさかトリオとは智子ちゃん、沙也加ちゃん、奏ちゃんの頭文字から取った、実際に口に出さなければイメージしやすい言葉でいいんだ。


朝ごはんはいつも通り亮宅で頂き、自宅に戻ってお出かけ準備をする。

そういえばTSしてから亮達以外の人と初めての外出だな、しかも同級生女子だしちょっと緊張する、おかしな格好しないようにしないと。


やっぱり見た目女の子である以上は可愛くしておきたいという思いはあるわけで。

折角美少女で女の子とお出かけなのに男みたいな格好やみっともない格好はしたくないと思うのは当然の事だと思うのよ。

そう、この考えは常識的なものでオレはまだまだ男の自覚で間違いない。


一応マヤさんには声を掛けておこうと思い、亮宅へ。


「ちょっと友達と出掛けてきます、返りは遅くならないようにするつもりですー」

「あっ、ちょっと」


ガチャリと扉を閉める。

マヤさんが何か言ってたような気がしたが多分返事か何かだろう。


「ちょっとー、りょー、塁ちゃん1人で出掛けちゃった見たいだけど何か聞いてるー?」


――――――――――


時間より早く待ち合わせ場所に到着、30分ほど早いかな、オレはギリギリで慌てるより早くついて現地で余裕があるほうが好きなんだ。


目的地のショッピングモール近くの駅前だけど人が多い所は苦手なので影になっている場所で待つ事10分ほど。


「君可愛いね、友達でも待ってるのかな?、それともナンパ待ちだったりする?」

「今から一緒に遊ばない?面白いところ知ってるよー」


ナンパ野郎2人に絡まれた、最悪だ、10分動かないだけで声掛けられるもんなのか。

いかにもチャラい感じで嫌いなタイプだわーと思いながら


「うわ君メチャクチャ美人じゃん、芸能人だったりしない?すっごい美人だよ!」

「まじ好み、やばいこんな美少女見たことないよー、早く遊びにいこうよ」

「いえ、結構です、友達まってますので」

「えーいいじゃんいいじゃん、そんな嘘つかなくてもさー、オレショックだよー」

「だってさっきから見てたけど誰も来そうにないし、ほんとは友達こないんでしょ、だったらおれらと遊ぼうよ」

「大丈夫です!友達がもうすぐ来ますから!」


と少し強く言った、これで諦めてくれるだろ。


「うわ今の聞いた?声もめちゃくちゃ可愛いんだけど、マジ惚れたんだけど」

「そんな怖い事言わないでさー、ホラホラ一緒に行こうよー、楽しいよー」

「―――ッ!?」


と明るく言いつつオレの腕と肩をつかんで無理やり引っ張っていこうとする、オレは抵抗した。


抵抗したけど全く振りほどけなかった、もう一度本気で振りほどこうとしても全くビクともしなかった。

そんな馬鹿な、オレが男だったころなら振りほどけ無いなんて事は無かったはずだ、そこまでの腕力差があるのか。


オレは自分が女の子になって力が成人男性と比較にならない程に弱くなっている事、そして体格差と腕力の違いで全く抵抗できない恐怖に頭が染まってしまいそうになっていた。

誰か!――誰か!――助けて!と思うも恐怖で声が出ない、今出来る事はせいぜい足で踏ん張って僅かに抵抗らしい事をするだけだった。


「おい、優しく言ってるうちに大人しくしたほうがいいよー」


ビクッ!!ドスの効いた声から一転やさしい声で脅されて抵抗する気力も力も失いそうになる。

涙で滲んでしまって周りが良く見えない、誰も助けてくれそうに無い。


亮やマヤさんが何度も言っていた女の子としての自覚がない、とはこの事だったのか。


人気が少ない所に移動した事が悪かったんだろうか、10分間同じ所で待ち続けたのが悪かったのだろうか、もう何も分からない。

そんな事、男の時には微塵も考えた事など無かったからだ。 


その時だった。


「オイ!俺の彼女に何をする!」


大きな声、この声は―――


「亮!」

「俺の彼女から直ぐに手を離せ!もうすぐ警察が来るぞ!」


とても大きな声、周りに響かせるような大きな声で、亮はそう言い放った。

周りには少しずつだが野次馬が集まりだした。


「はあ?何適当いってんだ、オメーには関係ねーだろ、ヒーローのつもりか、アア!?」

「俺の彼女だって言ってんだろ!覚悟してんだろうなお前!」


もの凄い形相で亮はこちらに向かって大股で歩いてきて、そのままナンパ男の腕を取った。

182cmという身長はかなり大きめで威圧感を感じる。亮が怖いと感じるほどに。

オレも170後半で結構威圧感はあるほうだったが今のオレにはもう無いものだ。


「イテテテ、おいおい、何をムキになってんだよ、ちょっとしたお遊びだよ、なっお嬢ちゃん!」

「おい、もう行こうぜ」


集まった野次馬を掻き分けナンパ男達は逃げていった。


「大丈夫か?怪我はないか?」


亮は、うずくまったオレの高さまで腰を落とし、優しくオレに微笑みかけた。

そんな亮に俺は、さっきの亮の顔と威圧感を思い出しビクリと震える。

亮のあんな顔は見た事が無かった。


「もう心配ないから、もう俺がついてるから」


そう言いながら俺を立ち上がらせてくれる、まだ足元が覚束なくて少しフラついてると見るや肩を抱いて支えてくれた。


「大丈夫だ、大丈夫だからな」

「…亮、ありがとう、それと…誰が彼女だ♡」

「いや、あれは―」

「冗談だ」


優しく労るように、どこまでもオレを心配してくれて、何時迄も優しく抱き止めてくれそうに感じる。


段々とオレは冷静さを取り戻しつつあって、大事な事に気づいた。


「そういえば何で此処に?」

「今日は山口達と出かけるって事は塁から聞いてたし、時間も知ってたからな、本当は合流するまで付いていくつもりだったんだ、ずっと言ってるだろ、まだ1人で行動したらダメだって。

でもゴメン、まさかこんなに早く出かけるとは思って無くて、もうちょっとでも遅れてたらと思うと、―――本当にゴメン、俺が遅かったばっかりに怖い思いをさせてしまった」


「それは違う!オレが馬鹿だったんだ、亮達からは何度も1人で出かけるなと行動するなとあれほど口酸っぱく言われてたのに、友達と遊ぶから大丈夫だろう、なんて高を括ってこのザマだ。

今回だって偶々亮に今日の事を話していたから助かっただけだ。馬鹿はオレだ」


「それでも、だ。俺はお前を守ると言った、塁がどうしてようと必ず助ける、そのつもりだったんだ。だからコレは俺の責任、塁を困らせて怖い思いをさせてしまった。

それでもまだ自分が馬鹿だって言うなら、俺たちの言う事をちゃんと聞いて欲しいな」


「―――うん、分かった、ちゃんと聞いて心に留めておくようにするよ」


「よし!じゃあそろそろ待ち合わせの時間じゃないか?もう山口達来てるかもな」

「あーそういえばそうかも、ってもうそこに沙也加ちゃんが居るじゃん…」


カシャ!スマホで写す音

「少しねー早く着いたんだけどねー、なんか人だかりがあったから来てみたらさー、まさか中心にお二人さんが居るとはねー、―――よっ、待った?」

「今撮ったよね?消して欲しいんだけど」

「ダメでーす、これは証拠資料になりまーす」

「ええ…」


「中山さんが来たら安心だな、先に一度帰るよ」


亮は迎えに来る時間を後でメッセージで送るよう言って帰っていった。


「あれー?良かったの?上野くん先に帰っちゃったけどー?」

「ああ、うん、亮は買い物には付いてこないよ」

「まー別に一緒でもよかったちゃあ良かったけどねー、もうちょっと人が通るとこ移動しよっかー」

「うん」

「ところでさー、何があったか聞いてもいー?――あっ、話しにくい事なら別に無理に言わなくてもいいからねー」

「あー、ちょっとね、オレが早く来すぎたのと人混みから離れて待ってたら、ナンパされちゃって、断っても強引に連れて行かれそうになってた所を亮が助けてくれた」

「ありゃー、そりゃ運が悪いねー、そこまで強引な人がこんな時間からいるのは珍しいね、塁ちゃん超絶金髪美少女No.1だからなー、気を付けないとねー」

「うーん、そうだねー、気をつけるようにするよー」

「もしくはー、上野くんをボディーガードとしてずっと一緒に居てもらうとかー?」

「ハハ、普段はそれに近い事して貰ってるかな」

「あー確かに、いつも側に居るよね、塁ちゃんのナイトかな?なんて」


そんな沙也加ちゃんの軽い言葉にも今のオレは反応してしまって顔が赤くなり、鼓動が早まる。

いやいやこれは冗談で、そもそもなんだよナイトって、と気分を治めるように深呼吸する。


「塁ちゃんさー、可愛いんだから”オレ”っていうの止めてー”私”にした方が良くなーい?」

「なんかまだオレって意識があるんだよね、頭の中で染み付いちゃってるというか、やっぱり変かな?」

「ちょっと変だけどー、塁ちゃんが気にしないなら無理して変えなくても良いと思うよー、自分から言っといてなんだけどねー」


まだ”オレ”という認識なんだよね、むしろ”私”とか言われるまで全然気にしたこと無かった。

うーん、”私”ねー、まだまだ無理かなー違和感しかない。


=====

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