14.初デートの成果と特訓

デート後、そのまま亮宅に入りマヤさんの手伝いを始める、すると直ぐに話題を振られた。


「それで塁ちゃん、今日のデートはどうだった?」

「アハハ・・・」


どうだった?って言われてもなんと答えたら良いのか、映画見てお昼食べてブラブラして帰ってきました、では欲しい答えじゃないだろう。


「私の初デートはね、まだ自分が女の子だっていう自覚が全然無くて、それで女の子みたいな格好もしたくなくて、男の子みたいな格好していったのよ♡」

「ええ!そうなんですか?今の姿を見てると全くイメージ出来ないですね」


「今とは全然違うからそりゃそうよー、そもそも当時は自分がなんで女の子になっちゃったのか、ってぶつけようの無い怒りみたいなものがあって常にイライラしてたし、まだ当時はTS症の研究自体が今ほど進んでなくて、朝起きたら男に戻ってるんじゃないかって毎日祈りながら朝を迎えたのよ、あと男らしくしてれば戻るかも知れないなんて考えたりもしてたわね」


「確かに今は戻れないの分かってますけど、分からない当時は不安ですよね、受け入れて女の子に成り切ってたのに朝突然男に戻ったら大変な事になるし」

「でも当時でも誰一人として性別が元に戻った人はいなかったから、諦めて受け入れてる人も結構いたんだけどね♡」


「それに今だからデートって言ってるけど、女と見られるのが嫌でずっと閉じこもってた所に義道さんが2人で遊びに行こうぜって無理やり誘ってくれただけなのよ、デートでもなんでもない、ただ親友と遊びに行く、っていう認識だったのよね♡」


「TS症になって1ヶ月くらいだったかなあ初デートは、普通に遊んでただけなんだけどそこでもう男じゃなくて女の子って認識と義道さんが少し魅力的に見えちゃってね、それで周りの対応からデートって認識させられちゃったのよ♡」


「2回目のデートからは服装もちゃんと女の子の格好して、ちゃんとデートっぽい事したわ♡」


細かい内容は分からないけど大体オレと同じだと感じた、やはり女の子としての自覚と親友の魅力に気付く事、そしてデートが切っ掛けだったんだ。


「それで半年後にはちゃんと交際を始めたんですか?」

「そう!でも本当に親友の義道さんがいて良かった。実は今でもね、偶に義道さんと当時みたいに、親友みたいに話す事があるのよ、義道さんもその時”シンヤ”って呼んでくれて、そうするとね色々あったけど幸せで良かった、って思えるの♡」


そうか、普通の男女で恋人だと親友時代などあり得ない、でも片方がTS症で親友同士なら。

恋人とさらに親友という積み重ねが有るんだ。


「それは親友という積み重ねと恋人でもあるから、ですか?」

「そうなの!その分深くお互いを理解して精神的に繋がれる、そんな気がするの。

後はまあ男の事も大体理解できちゃうってのは大きいかもね♡」


マヤさんはそういって珍しく頬を赤く染めていた。


「デートなんですけど」

「どうだった?」

「今回はちょっとした手違いでこんな気合が入った格好になっちゃったんですけど」

「とっても可愛いくてしっかり女の子してて、デートに行くんだな、って格好ね♡」

「う、まあそうなんですけど、ちゃんとデートが出来たと思います、後ゴールデンウィーク中に、もう一回デートに行く事になりました。」


「あれ、そうなの?―――じゃあ塁ちゃん、亮を驚かせてみない♡」

「え?どういう事ですか?」

「まずは―――」


という訳で、”サプライズどっきりお弁当作戦!”をやる事に、サプライズとどっきりって意味被ってない?まあいいけど。

簡単にいうとデートに手作りお弁当を作っていくってだけなんだけど。


亮に連絡してデートは最終日にしてもらって、それまでにお弁当が作れるように明日からマヤさんに特訓を受けるのだ。

亮がオレのお弁当で喜んでくれるならそれは嬉しい事で、悩むような事じゃない。

男だから女だからというのじゃなく、亮が喜ぶからやって上げたいのだ、そういう事なのだ。


行き先は自然公園が近くにある水族館、これでお弁当は自然公園で食べるように出来るだろう、よしやるぞ!


――――――――――


とさかトリオへメッセージと報告のために亮と二人で取った証拠画像を何枚か送る。


「ちゃんと行ってきたんだねー、そしてエッチな格好だなー本当にその格好でいったんだ!」

「これ2人は絶対に注目の的でしょイケメンと美少女カップルだもん」

「…キスした?」

「この格好で大丈夫ってお墨付きくれたんじゃなかったの!?注目浴びて結構恥ずかしかったんだけど。あとキスとか進展はありませーん」

「えー”絶対決めようデート作戦!”失敗しちゃったー?進展は無しー?でも手くらいは繋いだんでしょ?」

「まあ手は繋いだけどさ…」

「でも昨日の別れ際に腕組んでたからそれくらいは余裕だったんじゃない?」

「いやあれは亮が余計な事言う前に帰ろうと思っただけで腕組もうとしてた訳じゃないから!」


まあ、その後腕も組んだし恋人繋ぎもしたんだけど黙っておこう。


「上野くんは明らかに塁ちゃんの事好きみたいだから、なんかポロッと面白い事言いそうだったんだけどな」

「…」


ここはスルー


「で今日はどんなデートだったのー?ナイト上野くんとー」

「どんなって、映画見て、お昼食べて、雑貨屋や本屋回って終わりだよ」

「なんか普通だね、手を繋いだのはいつ頃?」

「帰り際かなー、手繋いでいいか?って聞かれて」

「なんでOK出したの?なんか心境に変化があったとか?」

「んー、なんかそれくらいいいかなーって」


「――これは、進展しそうですねー、解説の山口さん?」

「そうですね、もう手を繋ぐ事への抵抗感がないようなので、確実にステップアップと言えるでしょう。次はハグ辺りでしょうか」

「次はハグですか、それは見逃せませんねー、ガヤの佐伯さーん?」

「…ハーグ!キース!」

「なんでそんなに盛り上がってんの、やらないから!手を繋ぐまでだから!それにしたって昨日の件があったからだからね!」


「なるほどー、切っ掛けがあれば次に進展すると、言質頂きましたー!」

「いやいや!そうは言ってないよね!?ないよ!ないない!あくまで親友だから」


「まだこんな事言ってるよ沙也加ちゃん」

「親友が手を繋ぐんですかー?デートするんですかー?ましてや彼女呼びするんですかー?」

「塁ちゃんは可愛い美少女なんだから上野くんがそういう目で見るのもしょうが無いと思うよ、うんうん、しょうがないしょうがない、諦めよ?」

「…抵抗はヤメロ」

「塁ちゃんだって本当はまんざらでも無いんでしょ、じゃなかったらそもそも手を繋ぐ事もしないと思うけど」

「う…」


確かにその通りで、喜ぶためならお弁当まで作って上げようとしているくらいだ、言えないけど。

そもそも親友なんだから嫌ってなんかいなくて、むしろ好意はある、恋慕の情じゃなかったけど。

分かる、分かるよ、多少女の子として亮に大分靡いている事は、でもまだ踏みとどまっているから。キスやハグにはまだ抵抗がある、グイグイと押されたら決壊する堤防だとしても。


「とにかく、そういう訳で進展はありませーん」

「そっか、あんまり塁ちゃん虐めても良くないからここまでにするとして、ゴールデンウィーク中にもう一回くらい4人で遊びに行かない?」

「あーいいっすねー、スケジュール調整しよっかー」

「…ここ2日のうちどちらかなら」

「あーゴメン、ゴールデンウィークはちょっとダメなんだー全部予定入ってて」

「じゃあしょうが無いね、3人で遊ぶ事にするよ」

「うんごめんね、またねー」


ちょっと後ろ髪引かれながら断った。

ゴールデンウィーク残りは全て最終日のお弁当の為に友達との遊びすら犠牲にしないといけないなんて!亮も罪なやつだぜ、感謝しろよな。


――――――――――


翌日からマヤさんによる地獄のお弁当特訓が始まった。

冷凍惣菜を極力使わず、出来るだけ手作りで、技術がそこまで要らない美味しい食べ物を!

手作りおにぎりは絶対に必要だとマヤさんは力説する、ラップや型なんか使わず素手で握る昔ながらのやつだ、具は当然、鮭、梅、たらこの他に変わり種を混ぜる。


米がめっちゃ熱い!熱くて握れる気がしない!なにこれ罰ゲーム?

しょうがないので少し冷ましてから握る事に、これならいける。


後はハンバーグやタコさんウィンナー辺りの鉄板ネタも入れる事に、他にも胡麻和えなんかの野菜系と彩りも考えて大体の方針は決まった。


問題はそれをちゃんと美味しく作れるようにする事で、それが一番の問題だ。


亮にバレないようにこっそり特訓するので意外とまとまった時間が取れなかったのが困ったが、最終日目前になってやっとまともに出来るようになったのは自分を褒めたい。

マヤさんもありがとうございました。

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