7.女の子教育
なんだかいい夢を見れたような気がする。
自分の体を念のため確認するけどやっぱり男に戻ってないみたいだ、まあ戻るはずがないんですけどね。でも、もしかすると戻った第1号になるかも知れないじゃないか、なんて無駄な期待をしてみる。
目を覚まし、顔を洗って髪を梳いていると、ふと昨日の夜寝る前に考えていた事を思い出す。
「ッ!―――…はぁ…」
亮が一緒に住めば解決って…なんて事を考えていたんだオレは…あまりの寂しさと不安に妙なテンションになっていたんだろう、一緒に住むとか無い、無いです。
昨日の夜はそれくらい不安だったって事か、あまりネガティブに考えすぎないように気を付けないとすぐに亮に逃げてしまいそうだな。
そもそも親父が単身赴任して1年、実質一人暮らしだった訳じゃん、て、…分かってる、それはそこまで問題じゃない、目下一番の不安要素は学校が始まってしまう事だろう、こういうのは始める前が一番不安になるもんだ、先週までは男の姿で通っていたと考えると…いやあ、厳しいなあ。
むしろとっとと学校が始まってしまえば解決するんじゃないかな?案ずるより生むが易し、多分、多分ね。
もし本当にダメならその時は亮達に泣きつこう。
さて亮宅で朝ごはんをご馳走されにいくかー。
亮の顔を見ると恥ずかしい気分に間違いなくなる、昨日の夜のせいで。
とはいえ亮宅に訪問して、亮とあいさつして、亮と一緒にリビングへ向かうから避ける事も出来ない、顔を直接見ない程度にしよう。あくまでオレはご飯をいただく立場だから本当に失礼だと思うような行動はとれない。
「おはよう、今日も可愛い格好だな、スカートが短めなのは俺へのサービスか?」
「うるさいな、可愛いだろ、ちゃんと目に焼き付けとけよ!」
顔を直視出来ない、もうからかい半分ヤケ半分で答える。
「え、まじか、ありがとう」
まさかの感謝、でも亮はこういう奴だ。
朝ごはんはthe日本の朝ごはんって感じだった。
味噌汁に卵焼き、米に漬物に鮭の切り身、春らしく菜の花の胡麻和え、これってお店の朝定食か何か?
しかし文句などあろうはずがない。
「いただきます!」
と手を合わせ、食べ始めた。
「母さん塁が来るからって張り切りすぎじゃない?」
「いいのよ、こういうのは最初が肝心なんだから♡」
「マヤ、飛ばしすぎて疲れないようにね」とは義道おじさん
日曜朝から一家揃って朝ごはんなんて本当にこの家族は本当に素敵だよな~、今日はマヤさんが張り切ったみたいだからいつもこんなだとは思わないほうが良さそうだけど。
「今日は女の子として生活していく上で必要な事を教えていくつもりだけど、予定は空いてる?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、この後9時に奈江の部屋に来てね、準備しておくから♡」
「はい、…じゃあ時間までは亮の部屋にでも行く?」
「いいけど、家には戻らなくても大丈夫なのか?」
「戻っても特にやることもないしなー、それなら亮の部屋にいても同じだろ」
「分かった、行くか」
亮の部屋に入る、実は目的の一つに匂いを確認する事があるのだ、自分の男の頃の匂いと亮の匂いがどれだけ違うか確認する、という。
さりげなく部屋の匂いを嗅いでみる、クンクン…おーこれが亮の部屋の匂いか…、なんか昨日とは違うような…、自然を装い枕の近くまで行って待機する。
亮がこちらから目を離したタイミングを見計らって最も匂いが強いであろう枕の匂いを嗅ぐ。
ん!これは匂いが強い、でもやっぱり昨日の匂いとは違うような…、この匂いは男の自分の匂いよりまし、というか嫌いではないかも。やべぇオレ匂いフェチになったかもしれない。
亮の部屋に入ったとて特にやることもなく適当に雑談しつつぼんやりしていると、そろそろな時間になったので立ち上がり、部屋を出ようとした時
「塁、女の子らしくなって帰ってこいよ」
なんて抜かしやがった、オレは手を軽く振って部屋を出ていった。
今から奈江ちゃんの部屋でマヤさんと奈江ちゃんの2人に女の子として生活するための教育を受ける。
基本的な所では足を開いて座らないとか座る時にはスカートを敷くなどから始まり、路上を歩く時の注意点、簡単な化粧、肌の手入れ、洗髪の注意点や乾かし方手入れの仕方などなど、最後は生理の話なんかも、合わせてある程度の実演を交えながら教えてくれた。
ちょっと詰め込みすぎな気がするが分からない事があったらその都度聞いて欲しいと言っていた。
これに関してはオレには母親もいないために2人を頼る他ない、意固地になる理由もないので素直に聞くとしよう。
2人の教育は非常に時間がかかり、お昼ご飯を跨いで3時くらいまで教育を受けていた。
オレの覚えが悪いせいと実演が難しいせいだと思う。急に言われても中々難しいんだよコレ。
聞いただけの事は半分近く忘れた気がするが、まあなんだ、女の子って注意する事が沢山あって大変なんだなって事は理解した。
「明日は病院行ってから役所へ届け出がいくつかあるから、一緒に行きましょう♡」
教育が終わって一休みしてから亮の部屋に戻る。
「亮~いるか~」
返事がない、出掛けたのかと思い勝手に入る事にした。
亮の部屋は学習机と椅子、ベッド、足の短い丸テーブル、タンスに本棚と姿見がある、ノートPCなんかは学習机の上だ。
流石に椅子に座るのは不味いかと思い、クッションを敷いて座り、ベッドにもたれてスマホで時間を潰していた。
そして春の温かい陽気につられてそのまま眠ってしまったようだ。
――――――――――
目が覚めて気づいたら、昨日と同様にベッドに寝かされていた。
「おはよう」
「ああ、おはよう…、…ベッドに寝かさずに起こしてくんないかな」
「それはダメだろ、眠り姫を起こすわけにはいかん、キスをしていいなら喜んで起こすけど」
「眠り姫ならキスで起きるからな…っておい、普通に起こせよ」
「でもベッドのほうが気持ちよく寝られるだろ?俺も寝顔を観察出来て嬉しいしWin-Winな関係だよ」
「そのうち手を出してきそうなんだけど」
「だったら男の部屋で不用意に眠るなよ」
「まあそれはそうなんだけど、亮の家で落ち着ける場所って一番慣れたココしかないんだよ」
「塁…そうやって言われると弱いな、手を出しづらくなるだろ」
「へっへっへ、そうだろ?でも本心だからな」
「…ったく」
家族に受け入れられてるとはいえ、他の部屋だと多少の居心地の悪さを感じる。
ここだと眠ってしまう程度にはリラックス出来てるって事だ。
幼なじみで親友の部屋だ、数え切れないほどに入り浸っているからある意味自分の部屋のような感覚さえある。…まあそんで、匂いフェチ的にも落ち着く匂いだし…。
亮はこうやって話している最中でもオレの顔から視線を外さない、表情を伺っているのか見惚れているのか分からないが…まったく…イケメンビームを飛ばすのは止めろ。視線を外せ。
「顔をまじまじと見すぎだって、それはそれで失礼だぞ」
「ああスマン、ずっと見惚れてた、目が離せなくなるんだ」
「!―――はぁ」
一々反応してたら亮の思うツボだ、落ち着けオレ。
晩ごはんをいただき、自宅に戻る、亮宅から戻ると静けさがやばいな。
今まで全く気にならなかったが1人でTV見たりネットみたり、という行為が空虚に感じてしまう。
亮宅にお邪魔してるのはある意味失敗だったかもなあ、落差が激しすぎる、何か気分を紛らわす方法を探さないと。
風呂に入り、教育を受けたあれやこれやの実践をした、とにかく面倒くさい。
シャンプーとコンディショナーはマヤさんが頼んで亮が買ってきたものを貰った。
亮が部屋に居なかったのはそういう事だった。
明日は病院行って役所行ってか、マヤさんと一緒だし便りにさせて貰おう。
昨日からずっとお世話になってるし明日からもお世話になる、何か恩返しもしないとなあ。
寝る時は昨日と同様に不安と寂しさが溢れてきたけど今日の亮や奈江ちゃんとマヤさんとのやり取りを思い出して紛らわせ、眠りについた。
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