6.慌ただしい初日の終わり

パチリと目が覚めた、どうやらベッドで寝ていたようだ、ここは…オレの部屋じゃなくて亮の部屋か?

そういえば亮の部屋でベッドに寄りかかってたんだっけ。

てことはベッドに運んだのは亮か?…やべぇなちょっと恥ずい。


「お?、起きたか」

「亮か、わざわざベッドに運んだのか?重かっただろうに悪いな」

「いいや全然?羽毛のように柔らかくて軽かったよ、それにちょっといい匂いもしてたからずっと抱えていたかったね」

「…お前ほんとそういうとこだぞ…、亮、まさか何かしてないだろうな」

「いいや、する訳無いだろ?するなら堂々としたいと思ってるよ、塁がサービスする分には有難く拝見するし触るけどね、それに塁はずっと眺めていられるから、端正な顔立ち、綺麗な金髪、スリムな体と白い肌、大きなおっぱいとどこを見ても綺麗だ」

「お前ほんと、ほんとにな…」


少し顔が赤くなるが無駄に褒められたんで恥ずかしいだけだコレは。


「ンンッ、…亮ほんとおっぱい大好きだよな…、それにオレを褒めても何もでねーぞ」

「大きなおっぱいはロマンの塊だからな、塁だって好きだろおっぱい」

「まあ好きだけどさ」


オレが女の子になってからの亮は一々オレを褒めて持ち上げて女の子として気持ちよくするような事を言ってくる。いやセクハラ発言もあるけど。

イケメン補正のお陰で軽度のセクハラ発言なら許される空気になるの本当に卑怯だな。

まあオレはまだ男だから多少はいいけどさ。


「そろそろ晩ごはんだからリビングに降りてくぞ」

「あ、もうそんな時間か、分かった」

「母さんに聞いたぞ、今日から朝と晩ごはんは一緒でお弁当まで作ってもらえるって」

「ああ、うちの親父が頼んだみたいでな、手間かけて悪いな」

「母さんが了承したんだから大丈夫さ、それに一人で出歩かせるのはまだ危険だろう、俺は塁と一緒の時間が増えてうれしいしな」

「亮も一人での外出は危険だと思うか、そんなにか…」

「美人ってのもあるけどそれ以前に自覚が足りなすぎるんだろうな、それを母さんが俺や奈江に注意するように、とも言ってたよ」


晩ごはんは亮の家族4人とオレ1人の5人で取った。

こんな大人数で食事をするのは久しぶりだったのでなんだか嬉しくなった。

亮の父である義道さんもTS症のオレをあっさり受け入れて、今までよりも話をしてくれた。


食事が終わり、今日起きた事などの雑談をし、一段落してから自宅へ戻った。


――――――――――


今から風呂に入るつもりなんだけど着替えはどうしよう―――

今日の所は寝巻きとして着るだけだから今までの服でいいかな?

そうなるとダボダボなのになぜか胸だけサイズが合ってるTシャツと、締付けが無くて楽ってだけで履いてたトランクス、かな。

まだ女物の下着は履き慣れていないので寝る時には向いてないと思う、ちょっと小さめでピッチリしてるし。


風呂に入ろうと脱衣所にきたのだが、冷静に考えると自分の裸をまじまじと見るのは朝以来だ、しかもその時はTSしたてで興奮してて体全体より性器ばかり見ていた気がする。


自分の体をあらためて見ると本当に綺麗だ、染み一つないキメ細かくて白い肌、細くて柔らかそうな腕や足、そしてくびれた腰、お尻はそこまで大きくない気がするが腰や足が細いので相対的に大きく見える、そしてマヤさんほどではないが大きな90超えのおっぱいE70、小さくて端正な顔、綺麗で癖の少ない細い金髪、長さは肩より少し長いストレートなセミロング。

うーん、一体どういう手違いがあればこんな美少女が生まれてしまうのか、不思議だ。

しかし朝と違い裸を見てもそこまで興奮しない、やはり自分の体だからなのだろうか。


浴室に入ってシャワーで体全体を流してから体と髪を洗い、湯船に浸かった。

そういえば髪の手入れもしないといけないと言ってたような…まあ明日になったら奈江ちゃんに聞けばいいか。


皮膚が薄くなったのかいつもよりお湯が熱く感じる、設定温度の調節をしないとなー、なんて考えながら風呂を上がり体と髪を乾かして、寝巻きを着た。


Tシャツは胸のサイズだけ合ってると思ってたけどノーブラだとその分下がるのか少し余裕できるんで大丈夫そう、トランクスはちょっとダメそう、流石にサイズ合わなすぎて緩いわ。朝の時はよくズリ落ちなかったな。

まあどうせ誰も来ないから良いけど。


――――――――――


明日は日曜日だが特に予定は無い、まず朝から亮の家で朝ごはんを頂きにいくくらいしか決まった事がない。暇だ。

自分のベッドに横になる、なんだか違和感のある匂い――ってこれは男の時の自分の匂いか、枕が特に匂う気がする。

今まで感じたことが無かったが匂いに敏感になってるな、と思う。

とりあえず消臭スプレーを部屋全体に掛けて匂いを誤魔化した。

もしかして亮の部屋で感じた匂いの正体は亮自身の匂いだったのか、でもあれは男の自分の匂いのように嫌な匂いと感じなかったし、むしろ好きかもしれない匂いだったぞ――。

…うーん、考えるのはやめよう。


一日で認識がこんなに変わるものなのか、少し自分が怖い、いや性別と体が一晩でガラリと変わった事を思えば一日でこの程度なのは少ないほうかもしれない。


ベッドで横になっているが夕方まで亮の部屋で寝てしまったので中々寝付けない、寝付けないと余計な事を考えて漠然とした不安に襲われる、女の子として学校にいく事が目下一番の不安要素だ、亮とその家族には暖かく受け入れられたけど学校ではそうは行かないだろう、1人だと心細くなる、今までの友達と同じように話せるだろうか、新しい女の子のコミュニティに受け入れられるだろうか、など考え出すとキリがなく不安が渦巻いてぐるぐるする。

気づくと涙が出ていた、なるほどこれは自殺者が出る訳だ、と1人で納得する。


ああ、不安で寂しい、1人は嫌だ、この家にはオレしかいないから亮の部屋で感じた家族の生活音が懐かしく感じる、部屋を出るとそこに受け入れてくれる人達がいるって、羨ましい。ああ、寂しい。

今のオレの心には隙間風が吹いているように感じる、不安も増大してきている気がする。


すぐ隣じゃなくていい、同じ空間に亮がいるだけでいい、それだけで心がぽかぽかして落ち着きそうだ。


――そうだ!亮にここに住んで貰おう!そうすれば1人寂しくならなくて済む。

親友で気心も知れていて、オレを受け入れてくれて、オレの事を好きだと言ってくれている。

こんなに安心する事はない。そうしよう。それで全て解決だ。


そんな事を考えていると不安は大分収まり、心が落ち着いてきて、やっとオレは眠りにつけた。

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